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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第一部
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小話・姫様は悪い人?


 グランバニク侯爵の作戦が開始されるまでの間、ネロスはマイティア(ミト)に様々な質問を投げかけた。

 髪が金色で、ウェーブしているのは何故か。目が青いのは何故か。肌が白いのは何故か。身長が自分ネロスと同じくらいあるのに、体が細いのはよく食べていないからなのか……などなど。

(興味というより、単純に無知ね……)

 初等教育以前に、親や乳母から習うものや、自然と身についていくようなことまでネロスは訊ねてきた。いい加減にマイティアも一つ一つ答えるのが億劫になってきた頃。

「ミトはえらい人なの?」

 ネロスは少し趣向の変わった質問をしてきた。

「どういう意味で? 資産を持っているかってこと? それとも、権力や名声があるのかってこと?」

「夢の中で、他の人から姫様って呼ばれてたから。姫と言えば、えらい人なんだろう?」

 マイティアは腑に落ちたような表情を浮かべ、少しだけ考えた後にざっくりと答えた。

「言ってなかったわね。私は確かに王族よ」

「じゃあいつかは王様になるんだね」

「ならないわよ」

「ならないの!?」

「……私は王位継承権を持っていないの。

 だから、王になることはないわ。一生ね」

「どんな悪いことしたの?」

「してないわよ。失敬ね」

「何も悪いことしてないのに、ミトは絶対に王様になれないの? そんなのひどくないか?」

 この無知で無配慮のトンチンカンなアンポンタンへどう分かりやすく簡潔に、そして、”泥沼に足を踏み入れさせない”よう答えてやるべきか、マイティアが頭を抱えて悩んでいると

「た、しか……めがみさまの、よげんがあったからって……パパが……」

 ナロがおどおどしながらド直球に回答してしまい、マイティアは激しく咳払いをする。

「女神の予言があったからミトは王様になれない……つまり、女神に嫌われるような悪いことを」

「なんでそうなるのよ!」

「女神はミトになんて予言を下したの?」

 これにマイティアはどもった。整った顔立ちの眉間に皺を寄せ「はあ……」一度、大きな溜息を吐いてから答える。

「20年前の当時、女神の方から現世に干渉してくることも、国家運営に関わるレベルの予言であることも異例中の異例だったの。魔王の復活が取り沙汰されていたときだったから余計にね。

 だから、この予言は国家機密に指定されている。それなりに名のある貴族たちには伝わっているかもしれないけど、誰彼構わず言いふらす事はできないわ」

「うーん、よく分からないけど、何かしらの理由でミトは王様になれなくて、それに女神の予言が関わっていると」

「それぐらいの理解でいいんじゃない? それ以上の詮索はしないでおいた方が身のためだわ」

「どうして?」

「あんたが思う以上に王族貴族は信用ならないから」

「そう? 僕はミトのこと信用出来るけどなぁ〜」

 ネロスは屈託のない無垢な笑みをマイティアに見せる。完全に人を信用しきっている顔だ。会って一日しか経っていないのに。

(全く、すぐコロリと騙されそうな顔しちゃって……いや、予知夢があるから騙されないのかしら?)

 マイティアは悪党面な笑みを顔に張り付け、ネロスに言い寄った。

「ネロスはずっと王国領のキヌノ村に住んでいたことになるのよね?」

「まあ、そう……なるのかな。ほとんどタタリ山にいたけど」

「納税してた?」

「……え?」

「王国南方に住まう者としての住民税、納税の義務があんたにあったのよ。払ってた?」

 ネロスは目を真ん丸と見開き、聖剣に宿る女神ベラに何かを訊ね……「えっ、え、え……」みるみる顔色が青ざめていく。

「ぜ、税って、なん、です…か?」

「そう……払ってなかったのね。国家運営に必要な、大切な税金を」

「ぼ、僕もベラもお金払わないといけなかったってこと?!───え?!ベラ何?!サシオサエって何!?

 ご、ごめんっ!これはっそのあのっ」

「嘘よ」

「……え?」

「確かに住民税の存在はあるけど、王国は北方地方と南方地方で分断されていて、南方であるトトリの運営は魔物に支配されているから実質的に納税できないし、納税義務はないでしょうよ。魔物たちがお金を要求しているのならあるのかもしれないけど、少なくとも私がとやかく言うことじゃないわ」

「じゃ、じゃあ! お金は払わなくていいんだね! 良かったあ〜!サシオサエにならずに済んだよ、ベラ!」

「と、こんな風に王族貴族は信用ならないの。平気で人を騙し、嘘をつき、金を毟りとろうとする輩が沢山いる。

 少しは物事を疑ってかかった方が身のためよ、ネロス。それを理解するためにも、物事をよく知る必要もあるけどね」

「うぐぐ、嘘をつくだなんて……!

 ミトは悪い人なのか? やっぱり悪い人だから王様になれないんじゃあ!?」

「はいはい。世の中、極悪人だらけで嫌になるわねー。ガンバッテ勇者様。

 ただ、先に言っておくけど、王は私より遥かに極悪よ。”奴”の言葉に従っても信用はしないことね」

 呆然と開きっぱなしの口、悪人だらけの世界に衝撃を受ける、純粋過ぎる反応のネロスに

(流石にやり過ぎたかしら……)

 マイティアが少しだけ反省していると

「そうか! ミトは凶悪さが足りないから王様になれないんだね!

 つまり君は良い人ってことだ!」

「はあ……もうどうでもいい。勝手にして」


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