第18話 闇市
女神期832年 王国冬季 六月八日
中身が見える……。
「 ちょっ ごめんなさい」
視力が良いことを、今は恨んだ。
サーっと血の気が引いてふらつき、思わずネロスにもたれ掛かる。
私たちは、魔物の巣と成り果てたバスティオン魔術学院から東に向かい、昼下がりに闇市の入り口に辿り着いた。
魔術師のゼゼとウロとは入り口で別れ、私たちはコレットの案内に従い、“換金所”とやらへ向かうべく市場を突っ切ろうとしていた───のだが、私は早速、門前で立ち止まった。
ウェルカムボードの飾りとなった生首と、滴る血の暖簾。生々しいアーチが三つ続いた先に無数の露店。屋根はなく、柱や仕切りはない。シートを敷いている店もあれば、ない店もある。商品は直置きが多く、店主は魔物が多いが、人っぽいフードや仮面を被った者もちらほら見受けられる。
並べられた商品は、雑貨なのか、食べ物なのか、錬金術の素材なのかさえまるでわからなかったが……赤い中身にスパイスっぽいものをふりかけたものを魔物が美味しそうに食べ歩いていたり……無数の芋虫がギューギュー詰められうじゃうじゃしてる瓶に酒か何か入れてカクテルしやがって飲んだり……干からびた人っぽい頭を何でか人っぽい奴が買ってたり……人が〇×#@%ッしてたり────!!!
「ヒヒ……ヒヒヒ 若い肉だ 歯応えの良さそうな肉 ヒヒヒ……」
周りの魔物共は何もしてこないが、ジロジロと私たちを観察し、ニタニタとせせら笑う声をこぼす……若い人間が2人、店に置ける“新鮮な商品”になるだろう……不気味な好奇心が沸々(ふつふつ)と……。
魔物に殺された人の死体など、公道を少し外れれば間もなく見つかる。
岩場や水場、森の中、使われていない旧街道、壊れた廃屋……目を逸らしたくなるような惨状も、弔われずに腐っていく様も見てきた。
腹を満たすため、ホズと共に動物を狩猟し解体したこともある。この手の行為は限りなく嫌いではあったが、立ち眩みが起きるほど生理的に弱い自覚はなかった。
しかし今、私の目に広がるこの光景は、人が住まう村が魔物の群れに貪られ、血の滴る死体を戦勲とばかりに飾られているのと同じ……市場の名を借りただけ、魔物に滅ぼされた人の集落にしか私は見えない。
上級以上が犇めく魔物の巣窟を突っ切るのに、おもちゃのような剣を握るよりも確かな、ネロスの大きな左手に私は利き手でしがみついた。彼はそれを邪魔と思うことなく、固く握り返してくれた。
「闇市では、人も魔物も商売が行えんねん。日の下で売り買い出来へん代物は勿論、ああいうゲテモノが人気や」
「最低……」
「もう一つ特徴的なんは、表の金は此処じゃあ石ころって事や。闇市の金は闇金言うて、闇市でしか使えん。もしくは、物々交換しとる奴の方が多いわ」
「物々交換……それじゃあ僕らはほとんど手ぶらって事?」
「いいや、お二人さんはえらい“お金持ち”や。
なんてったって健康体、五体満足なんやから、ブクブク太った財布が歩いとるようなもんやで」
数秒の沈黙の後「腐れ外道ッ!」「おいらに怒らんといて」噛み砕いたクソネコの言葉を吐き戻した。クソッ! 根絶やしになれ蛮族文化め!
「換金所があそこや。初めましてな人はまずはあそこで闇金を手に入れなはれ。だけどな、忘れちゃアカン。必ず『必要最低限、出品者と直接交渉する』前提で来たぁ言うんや。さもなきゃあ大きく要求されるで」
「僕らは、君のお仲間の泥棒が僕から盗んだ聖剣を取り返したいだけで、別に買い物をする気はないんだけど」
「闇金一銭も持ってねぇお人がずーっとうろちょろしとったら“参加者”と思われへんよ。
商品棚に並びとぅないやろ?」
「……わかったよ」
出来る限り足下だけを見続ける私を連れて、ネロスは私の歩幅に合わせて進む。
人の文明が滅びた末路と思しき闇市とはいえ、活気づいた市場のようなもので、中心地に向かえば向かうほど店は増え、店主は声を張り上げて客をかき入れる。鋭い爪、触手、蛇のような腹。人らしい足も盛んに私たちのすぐ横を過ぎ去る。
だが、視線を合わせないようにしていても、魔の視線を浴びて鳥肌が立つ……擦れ違い様に爪が掠った、それだけでも私の腹は大きく抉られ、殺されてもおかしくない。私は今、ネロスの手にしがみついたままで、足下ばかり見ている。隙だらけの筈だ。
「この魔物たち、本当に私たちを襲わないの……?」
「闇市にゃルールがあんねん。人と魔物がちゃ~んと売買出来るようにな」
「ルール?」
「闇市じゃあ身体が基本的に金になる。
特異的な血質、奇形的な臓器が高値となるが、健康的であり、新鮮ってぇ事が一番大事なんや。つまり、怪我させるぅ事は身体の価値を奪う事と同義やねん。
せやから、面の世界と同じように、この闇市で殴り合いだの、殺し合いだのしたときゃあ罰として“金”を取る。罰金や罰金。もちろん、その金も身体やけど。支払える額がなけりゃあその身で出す他ないわ。
このルール違反しよって逃げたら、この闇市にいる全ての者を敵に回す事になるで。
最上級がチラホラ、上級パラパラ……例えルール違反が魔物で、人を襲ったとしても容赦なく魔物を叩き潰すんや」
そういうルールが曲がりなりにも存在するとは驚きだ。だが、逆を言えば、ルールを遵守する知性を持つ魔物たちがこの闇市を維持しているということでもあろう。
真正面から戦うならば厄介な相手だが、今ばかりはほんの少し、安堵した。いつ襲われるかわからない不安の中、無防備でいるよりもよっぽどいい。
(バーブラの時みたいに、この闇市にいる魔物も、魔族である可能性が高いのかしら……)
魔族……元は人、その知能がかなり残ったまま魔物化した者……。
その可能性を頭の片隅に置きつつ、ネロスが立ち止まった後で、私は顔を上げた。
「おいらは外で待ってるで。とんだとばっちり受けたくないんでね!」
換金所、西側の強い訛りの文字で書かれた看板。集会場や道場にでも使われていたような大きな木造の建物。中に明かりはなく、薄暗くて中はほとんど見通せないが、魔を含んだ湿り気のある威圧が漂ってきている。いざというときに戦う準備は出来ていると、ネロスは腰に下げた剣の柄に触ってから
「僕を盾にしてて良いからね」
色褪せた縄暖簾を潜る。リリリリン……縄暖簾の先に括りつけてある数十の小さい鈴が騒いだ。
「かわいい人間たちだな グフフ……」
最上級らしい禍禍しい魔力を持った大きな魔物だった。脂ぎったブヨブヨの皮を波打たせて、奴の膝にも満たない低すぎるカウンターに手を置く。そいつは私たちを見下ろすなり、大きな4つの目を開けて笑った。
「迷子かな? 逃げた商品かな? グフフ……まあ、どちらでもいい。
此処がどういう場所かは知っているのだろう?」
奴が悪い意味で口にしていた死体の皿が見えて、私は思わずネロスの手を握りしめた。彼は静かに握り返した。
「どうした? 新参者よ……欲しいものがあろう?
望みを言え それに必要な“対価”を教えてあげよう……グフフ」
「必要最低限でいい。出品者と直接交渉するから」
コレットに言われた通り、合言葉のようにネロスは口にした。
奴は「ほう?」口角を捻り上げ、四つの目で私たちを舐めるように見回した後で
「そうかそうか それは残念だ。
グフフ……ならば、コレを血で満たすがいい」
人が使う大きさの金属のグラスを奴はニタニタと差し出してきた。グラスは今まで色んな人が使ってきたのか……錆びてて、褐色に汚れている……。
「ネロス」「見なくていいよ」
彼の背中で手元は見えないが、聞きたくない音がした。
「なんだ、後ろの女の血なら三十は出すというのに」
「四の五の言わずに金を出してくれ。言うとおりにしただろ」
「そう短気になるな 遠路はるばる闇市に来たんだろう? せっかくだったら楽しめよ」
奴は「げっ」グラスいっぱいになった血を受け取ると、躊躇うことなくぐびっと飲み干しやがった……もうやだ全力疾走で王国に帰りたい。
「グェエエッ!!」
しかも、奴は大きく嘔吐いた。
「クッソまずいなッ! なんだこの味はっ! グワハハッッ!
スケルトン共の骨髄と似た味だな。ゲェー」
「一緒にするなよ」
クソネコも持っていた闇金とかいう、何で出来ているのか察しがつくので聞きたくない、継ぎ接ぎの皮札を一枚、奴は差し出した。『一』と血で描かれた禍々しい札だ。
「お前らはここしばらく見ない珍客だ。闇市の主催者、荒れ地の魔女レキナに挨拶にいくといい。北の森の奥にいるぞ。
グフフ、お前たちならすぐに気に入られることだろう」
ネロスは闇金を引っ手繰るように受け取ると、私の手を掴んでずかずかと換金所を後にした。
「遅いなぁ、リッキー 何処ほっつき歩いとんねん」
外に出てコレットを探すと、闇市の中央売り場から少し離れたところで店を出していて
「まいどありっ!」
ポートの窃盗品を堂々売っていやがった。せめてクソネコに蹴りの一つかまそうと思ったのだが、魔物たちの有無を言わさぬ監視の視線に、苛立ちは恐怖に一転し……震えが身体を突き抜けた。
(そうだ、闇市のルール
これを盾にされると……クソネコめ)
下手に手を出せば、いくら私に物事の道理があろうとも、郷に入っては郷に従うしかない。
私たちが近くにいては、泥棒は出て来ないかもしれないと、私たちはコレットの店が監視できる換金所近くの物陰に隠れた。
「ネロス、聖剣の気配はまだ感じない?」
「うーん……此処に来てからずっと試しているんだけど……」
以前にネロスがトトリの絞首台へ上がろうとしていたとき、離れた場所の聖剣と魔力を同調させることで、聖剣の場所を把握していた。このときの距離はおよそ800メートル。闇市の広さはそれ以下なので……泥棒が約束をほっぽり出して此処へ来ていないのか、既に聖剣を何処かへ売り飛ばしてしまったか……彼との同調を防ぐ何かがあるのか。
「よう、コレット。盛況か?」
「おーリッキー!」
コレットのわざとらしい声───奴が来た! 私たちはすぐさま振り返ったのだが
(どういうこと!? 何も見えないじゃない)
何処にもいなかった。クソネコは“空気”に向かって話しかけている。遂に狂ったか?
「ミト アイツ透明になってる!」
ネロスから言われて目をこらし……ようやく、空気が歪んで見えた。そうだ、あの禿げ泥棒は変性術の天才───動きながら透過の変性術を成立させていた奴だ───私はネロスの手を離した。
「見つけたぞ! 泥棒め!」
「あ?」
解き放たれたかのようにネロスは物陰から飛び出し、透明になっている奴に飛びかかり「どわああ!」押し倒した。
「お、おまえはっ! ポートの筋肉童貞ッ!なんでこんなところに!?」
「変なあだ名をつけるな! ベラを何処にやった!」
「ベ、ベラ?!? 俺は人身売買なんかやってねぇぞ!」
透明がなくなり、露わになった毛根一つ見えないツルツルハゲ頭。つり目で鼻高、顔の輪郭は四角い。筋肉質ではなく細身で、身長は王国民の平均ぐらいだ。筋肉塊のネロスとは体格差がかなりある。流石に振りほどけないだろう……そう思った直後
禿げ泥棒の両腕に青い魔法陣が浮かび上がった───!
「わっ!」
彼らの地面が突然ぐにゃりと歪み、ネロスの足が地面に吸い込まれるように沈んだ。禿げ泥棒の身体も沈むが、彼は寧ろネロスを地面に引きずり込んだ勢いで自分の身体を押し上げた直後に、地面を元の硬さに戻した。
刺魔だ。
魔法陣を自分の身体に彫り込む発動させるもの。
奴の腕、いや、手の甲にも平にもビッシリと見えた───彫られた刺魔が魔力を通されて初めて視認出来るレベルの繊細な魔法陣が腕全体に施されている───やはりこのハゲは正真正銘のモンジュ一族───それも刺魔を持つのは相当の技術者だけの筈……より一層になんで泥棒なんかに落ちぶれたんだコイツ!
「捕まえられるもんなら捕まえてみろボケナスっ!」
「待て!!」
固まった地面を抉って立ち上がったネロスは、走り出した禿げ泥棒を追った。私もその後に追随するが、禿げは地面に腕を突っ込み、刺魔を発動。波のように揺れる地面に私たちは足を取られ、一掴み分の土を放り投げられ、私たちの身体に水のように貼り付いた。
(ねばっ なにこれっ!?)
水のような土はすぐさま粘着性の高いベトベトな性質に変わり、地面とは靴底を引き剥がさんばかりにくっついた。引き離そうにもねちょねちょとこびりついて離れない。うっとうしい!
「こんな小細工!僕には通用しないぞ!」
しかし、ネロスは粘り気を強引に引き千切りながら、闇市出口の手前でピタリと止まった禿げを睨みつけた。
「お前が盗んだ剣! 何処に売りやがった!」
「ハッ! んなもんテメェで探せよ! えっちらおっちらこの腐った森中をな!」
禿げはすぐに闇市の外に出るもんだと思っていたが、彼は立ち止まった。しかし、逃げ切れるとは思っていないのか、ネロスよりも魔物を危惧しているのか……コイツは闇市のルールを盾に取り、ネロスが自分に拳を振るわない事を確信している。攻撃がこちらの邪魔ばかりなのも恐らくその為だろう。
だが、奴を捕らえて闇市の外に連れて行く分には姑息な手は通じない。ネロスはそれを理解して狙っているみたいだ。
「なんだよ、来ねぇのか? 地面に埋まってジタバタすんのがそんなに嫌か!?」
「同じ“手”を踏むと思うなよ!」
「は? “轍”だろ なんで手を踏むんだ」
先に動いたのはネロスだった。土が抉れるほどの踏み込みで低めに飛び出し、中腰のまま泥棒へと突っ込む。
泥棒は両腕の刺魔を光らせて地面に手の平を当てると、地面に波紋が駆け抜け───ネロスの足を再び沈めた。
「あ!?」
だが、ネロスはこれに四つん這いとなり、沼に手足が沈む前に力技で身体を浮かせて走る。
常人離れしたやり方に一瞬戸惑うも、泥棒はネロスの両手が沼に僅か沈むタイミングで液状化を解き、ネロスは両手を支点にして下半身が勢いよく前方へと反り返った。
常人ならば肩が外れるか、手の指が折れかねないが、ネロスは無傷だった。彼は寧ろ反り返った勢いにも増して埋もれた手を強引に引き抜き、一回転。そのまま「うそだろっ!?」身を捩る泥棒の脇スレスレにハンマーの如き拳の鉄鎚を振り落とした。
ドゴォン! 固い地面が陥没した。泥棒は反射的に避けた自分の本能に感謝している事だろう。流石に顔が引き攣り、脂汗が目立っている。
その隙に。
「観念しなさい泥棒め!」
「あ? あがッあたたたたた!!」
私の前に背を向けて下がってきた泥棒の両腕を捻じ上げてうつ伏せに倒し、簡単にではあるが両手首を縄で縛り上げた。油断して背を向けている人間ぐらいなら、型通りに組技を決められた。心配していた筋力差は、細身なコイツぐらいなら通用するみたいだ。ぶっつけ本番の割には上手くいった。
それに、今のところは怪我をさせていない。魔物たちはジロジロと見ているだけ……闇市のルールにはギリギリ触れてなさそうだ。
「なんだって王族が呑気に闇市なんぞに来てんだよ!馬鹿なのか!?馬鹿だろ!?」
「あんたに馬鹿と言われる筋合いはないわ」
「いやはやリッキー、お縄かけられちまったなぁ。
まあええ経験や思て前向きにいこうや」
「コレットてめぇ!クソネコッ! 俺を売りやがったのか! てめぇが吹っ掛けてきたくせに!もう2度と助けてやらねぇからな!!」
「ヌスミハイケナイコトヤデ」
「白々しい……」
「くっそッッ!!!覚えてろ! その髭! 一本残らず引っこ抜いてやるからな!」
「そんなことはどうでもいい!
お前が盗んだ聖剣を何処に売ったのか答えろ!」
ネロスが泥棒の胸ぐらを掴み問い詰めると、奴は遂に自棄を起こしたかのように吐いた。
「ああ!売ったさ!! あの木剣だろ!?
レキナに売った! 荒れ地の魔女に! 興味深々だったからな!」
私とネロスの間に戦慄が走った。
『荒れ地の魔女レキナは、7度目の女神の選定に落ちた、元賢者と言われています。だからこそ、四天王エバンナに付き従う』
荒れ地の魔女について魔術師のウロに質問したとき、彼はそう答えた。
『エバンナは“八竜“ですからね
厄災、災邪竜……黒紫の竜エバンナに』
四天王として魔物たちに加担する八竜、よりによってソイツに従事する賢者……七つ星の高等魔術師を超えた存在───の手に、聖剣が渡っているなんて……最悪だ。想定しうる最悪な事態だ。
血の気が引いて青筋を立てるネロスの横顔。奥歯を噛み締め、頬が引き攣っている。
「その他に盗んだものは何処にやった」
「俺が盗った分は全部ポートに置いてきたよ!
下民街の8番街、デボン行きつけのバーの裏、ゴミ箱の後ろを探しな!他の誰かが持ち逃げていなけりゃあ残ってる。盗人だろうと自分のゴミ箱はそうそう漁らねぇもんだ。
俺はあのクソネコが金目のものを盗んでいる間に目立つだけの役目だったからな。シケたもんしか盗ってねぇよ」
「その割に聖剣は奪っていったのね、ハゲ」
「あの剣は魔導具に近いもんだってわかったからな ちょうどクソネコが闇市に行くって言うからよ、どうせならレキナのババアに土産代わりにと思って持っていったんだ」
「なんて勝手に……ッ!」
遂にはネロスの怒りが頂点に達したのか、彼は拳を振り上げ───た、そのときだ!
「ゲッ!?」
「!?」
泥棒の周りに突然魔法陣が現れ「招待するわ、勇者共」女の声と共に泥棒の身体が消えた
転移魔術だ───私たちの手の中から擦り抜ける様に、何故かリッキーが盗られた!
「きぃえええ~! レキナやわ! 荒れ地の魔女がリッキーを拉致ったあ!」ずっと物陰に隠れていたコレットがわたわた這い出てきた。
「荒れ地の魔女が? なんで?」
「そないなことおいらにわかるもんか! ああ!まずいわまずいわ!
リッキー殺されてまう!」
コレットの、言わんとする事が目に見える視線が私たちに向けられるが……いくらなんでも都合が良すぎないか? そう思う私は狭量か?
「勇者やろ! 王族様やろ?! 民が困っとるに見放すなや!
どのみち聖剣とやら取り返しに行くんやろ?! レキナもあんたらを招待言うてた!ついでにリッキーも助けてくれや!」
確かにそうかもしれないが……。
恐る恐る横を向くと「なあ」爆発寸前だった怒りの矛先を掠め取られたネロスの目がコレットに差し向けられる。
「僕の、この怒りを、アイツの代わりにお前が受けてくれるのか?」
「なんや金でも出しゃあええんか? 何が欲しい? 言うたら探しとくでっ そや!今度おいらのもん買うときに半分割り引いてやるわ! な? な?」
「お前らみたいな奴を見る度に この世が理不尽に思えてくる」
「は?」
「なんでお前らみたいな奴が生きてるんだ」
ゾクッ……それは私の知る勇者の言葉とは思えなかった。
私は、罪悪感に似た焦燥に駆られた。
「失せろ 2度とその面を見せるな」
一刻も早く、女神を取り戻さなければ────。