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勇者の死霊術  作者: 山本さん
幕間 金色の死神
201/212


 地底国───地竜山脈と天竜山脈に囲まれた楕円形の国土を持ち、その国土のほとんどが鉱脈となっている、レッドエルフことドワーフの国。

 その国の名前の由来となっているのは、国の中心をこれでもかと深く抉った大穴だ。その大穴の中心にして、蟻の巣状に多くの地下街へと繋がっていく。

 地下街は地上階に行くほど上流階級の居住空間となっており、日の届かない地下に行けば行くほど階級が下の者の居住空間になっている。その為、人間の奴隷たちがいる地下坑道は、大穴の最下層に当たる場所にある。


「貴様はゲルニ───げふんっ」

 地底国の大穴から離れた地上、南方に位置するゲルニカの巨大な屋敷を警備していたガロウの手先たちをテスラの魔術で一掃し、早々に屋敷を取り戻すと、ゲルニカは上機嫌に屋敷に入っていった。

「おお!愛しのジュールベル!」

「にゃーん」

「ジュールベルは猫だったんか」

 小柄な三毛猫が家主の帰りに擦り寄って来ると、ゲルニカは大層大事そうに猫を抱きかかえ、客人の前で猫を吸い始めた。

「ご飯をちゃんと食べられてないじゃあねぇか! くそ!ガロウめ! てめぇの天下はあと少しで終わるからな!」

「ゲルニカ、話を」

「そんなもん餌やりの後に決まってんだろ!」

「はあ」

 ゲルニカがジュールベルの餌やりを終えた後、彼はようやく本題を話し始めた。

「反骨精神を持った適任者と接触しろ。それからの動きはこちらで考えておく」

「接触しろって……まさかまた潜入するのか!?」

「この国で人間のお前がいる場所あるとすれば地下坑道だろ」

「待って、それはいくら何でも危険じゃない」

「じゃあお前、正面切ってガロウを殺しに行くってのか?

 俺様は大歓迎だが、お前はこの国を敵に回すことになるだろうな」

「では何ですか? あなたがガロウを殺す分に、他のドワーフは納得するというのですか?」

 ああ、納得するね、と、ゲルニカはにやりと笑みを浮かべて頷いた。

「ドワーフには決闘文化がある。賭けるもんが大きければ大きい程、命を懸ける戦いであればあるほどに熱狂する。

 とりわけ玉座を争う戦いとなれば、勝てば官軍負ければ賊軍よ」

「野蛮な文化ですね」

「お前に理解されるつもりはねぇ」

「うーん、乗り気はしねぇが、やるっきゃねぇか」

「ラタ……」

「心配すんな、テッちゃん。俺は丈夫だからよ!」



 神国では一度捕まり投獄されゲルニカと接触し、今度は鉱山奴隷に扮して地底国の地下坑道に潜入したラタ。

 ボロボロな奴隷服に着替え、人間の頭ほどはある鉄球を足に嵌められると、ゲルニカの息がかかったドワーフに連れられて、人間の奴隷たちが働かされている地下坑道に入った。そんな彼の目に真っ先に飛び込んできたのは、あまりに過酷な労働環境だった。

「誰が休んでいいと言った!? 働け!」

 ヂャァン! 鎖の音が熱の籠った坑道に鳴り響く。

 狭苦しい場所で重い鉄球を両足につけられた屈強な人間の男たちが全身汗だくになりながら、つるはしを振るい、重い石をトロッコに乗せて運んでいく。休む暇さえ与えられないのか、中には座り込んで動かなくなってしまった者もおり、そんな人間を見つけては、見張りのドワーフは鎖で叩きつけた。

「───」

 やめろ、と、飛び出してしまいそうになったが、ラタは一旦耐えた。だが。

「もう やめ てくれ……助け て」

 鎖に打たれ、全身赤黒く変色していく男のか細い悲鳴を聞いて、無視できる心をラタは持ち合わせてはいなかった。



「いってててて……俺、死ぬかも……」

 鎖打ちの最中、見張りのドワーフに手を出したラタは当然の如くしごかれた。全身痣だらけになり、小さな牢屋の中で、鎖打ちに遭っていた男たちと一緒にすし詰めに閉じ込められていた。

「口が回るなら大丈夫さ、死にはしない」

 そんな中、見張りに聞こえないよう小声でラタに話しかける男が現れた。

「だがお前、ガッツあるよな。新入りか?」

「ラタってんだ」

「俺はデューン。宜しくな」

 ラタに負けず劣らず屈強な肉体を持ち、黒い短髪の無精髭、鼻は丸く、南方の顔立ち。年齢はラタよりも少し上ぐらいだろう。

 デューンは鉱山奴隷たちの中でも中心的存在らしく、ドワーフたちも彼の動向を常に警戒しているようだった。だが、比較的、彼の労働態度は真面目であったため、ドワーフたちも手を出しにくそうでいた。

「ここから出られたら、いつか料理店を出したいんだ」

「いいねそれ」

 同時に彼は過酷な責め苦の中でも夢を諦めない人物だった。

「なあ、デューン。もし自由になるチャンスがあるとしたら、お前さんは戦えるか?」

「もちろん。此処にいる男たちのほとんどはそのチャンスを今か今かと待っているとも」

 ラタは潜入後数日にして、ゲルニカの手の者を通じてゲルニカたちに合図を送った。

 それから数日後のこと。


「奴隷たちの一斉身辺調査?」

 奴隷たちの健康チェックと怪しげな物を持っていないかを調査すると声がかかった。そのタイミングでラタはゲルニカの仲間と共に先抜けし、テスラたちと合流した。

「ボロボロじゃない!」

「いやはや、ハハハ……暴力は見逃せない性質たちでして」

 ただ、そのお陰で早めにお山の大将に出会えたのだとラタははぐらかした。テスラに回復魔術を施して貰い、戦闘準備を整えたラタたちは

「ぷげっ!」

 ゲルニカを皇帝になって欲しいドワーフたちも襲撃に参加し、見張りのドワーフたちを迅速に一斉に寝かした。

 唖然とする鉱山奴隷たちを前にして、ゲルニカは声を張り上げた。

「俺様を新たな皇帝へと担ぎ上げた者には自由を与えるぞ!」

 数瞬の間を置いて、デューンたちは状況を理解したのか、ゲルニカに対して跪いた。



「まさかお前が一枚噛んでいたとは、驚きだ」

 重い足枷から解き放たれたデューンたちは血気盛んに戦闘準備を始めた。これからガロウの護衛たちと一戦を交えるのだ、封印術の詠唱が必須となる。

「あのゲルニカを次の皇帝として大丈夫か不安があるが……人間喰らいのガロウよりはマシかもしれないな」

 地底国皇帝ガロウは、人間への憎悪が激しいドワーフで、彼のその感情は千年戦争が末期を迎えても終わらない原因の一つともされている。

 だが、その対抗馬であるゲルニカも、戦争で金儲けをし、金の為なら身内も売ると言われている強欲成金爺であり、良い噂はあまりない。

 団栗どんぐりの背比べ状態だが、自分たちを助けてくれる方に賭けるのは極々自然なことだろう。

「ゲルニカには約束させたんだ。戦争終結に奔走するようにってよ」

 これにデューンは目を丸め、せっついた。

「そいつはたまげた……!

 それにしてもお前、一体何が目的でゲルニカにくみしているんだ?」

「俺たちは魔王を倒す為にオリハルコンを必要としているんだ」

 そう言うと、デューンは納得したような表情を浮かべた。

「オリハルコン、か……なるほど、ゲルニカの助けが必要になる訳だ」

 デューンはドワーフたちから奪った鎗を握り、大きく溜息をついた。

「魔王……俺も戦場で見たよ。あの山のようにデカい馬鹿げた魔物を。

 あんなものと戦おうって思うお前たちに比べれば、人一人倒すぐらい造作もない話だな」

「ま、お互い一緒に頑張ろうぜ」

「ああ、そうだな」





「ラタ、誰から肉体強化を習ったのですか?」

 ゲルニカと彼の部下がガロウ派の衛兵と戦闘を起こし作り出された地上階への道を進む最中、テスラはラタにそう尋ねた。というのも、テスラの目からしても、ラタの肉体強化はレベルが高く、彼の性格では信じられない程に術式がしっかりと構築されていたからだ。

「ヤドゥフだよ。ほら、木の上から俺たちに警告してくれた奴。

 死にかけた俺を蘇生術で治してくれたのもアイツなんだ」

「何者なのですか? ヤドゥフというのは」

「青の賢者って言ってたっけな」

「賢者!?」

 賢者と言えば、八竜のしもべだ。テスラも黄金の竜ゴルドーの僕であるように、ヤドゥフも八竜の僕であるということだ。

「俺が導きの勇者だとかで、助けてくれたんだ。魔術も肉体強化だけ俺に丹念に教えてくれたんだぜ」

「…………。」

 テスラよ、導きの勇者と共に魔王を討て───ゴルドーはそうテスラに導きを下していた。恐らく、ヤドゥフも何かしらの導きを受けてラタ(導きの勇者)に接触してきたのだろう。

「彼が受けた導きの内容を聞いてみたいですね」

「ああ、ヤドゥフはテッちゃんと馬が合うと思うぜ」



 王の間へ向かう階段に差し掛かり、ゲルニカはテスラに合図を送った。奴隷たちがテスラの転移魔術で先に突入し、封印術を掛ける手筈になっているからだ。

 転移魔術が発動し、騒然とする王の間。

 ラタたちは数瞬遅れて皇帝ガロウがいる王の間へと突入した。


 王の間へと続く重い扉をこじ開けた、その瞬間───ラタたちの足元に投げ捨てられたのは───皇帝ガロウの生首だった。


「───っ!」

「魔王!?」


 血塗られた玉座の前にいたのは、記憶にも新しい一体のスケルトン───魔王だった。


(どういうこと!? 何故魔王が!? まるで気配がなかった───)


「逃げろ……コイツは、化け…も…ぷぎゃ」

 先に転移し、魔王と一戦を交えたらしいデューンたちの死体も王の間の端に積み重なっており、魔王の手足は真っ赤な血に染まっている。

 ぐぎぎ……ラタの歯軋りの音が張り詰めた空気に空しく鳴り響く。

「よくもデューンたちを……許さねぇッ!」

「! ダメよラタ!逃げて!」

 ラタは肉体強化をして、握った鎗を魔王に目掛けて投げつけるが キィン! 鎗は魔王の腕に容易く弾かれて吹っ飛んだ。

「この状態の奴に機動力はないわ───今のうちに逃」

 だが、テスラの言葉が終わらないうちに、魔王はラタに向かって“走り出した”。

 慌ててテスラが電鎗の雷魔術を無詠唱で魔王にぶつけるが、魔王の足は止まらず。

 死体の手から剣を取り上げるラタ目掛けて、魔王は拳を振るった。

 キィン!「おぐっ!?」

 ラタは剣を振り上げ、魔王の拳とかち合った。だが、剣は小枝のようにへし折れた上、ラタは魔王の放つ瘴気に呑み込まれ、思わずえずいた。その隙に魔王の蹴りがラタの脇腹を直撃し、ラタの身体がテスラの後ろまで勢いよく吹っ飛んだ。

「ぐへ……あ、ばら、折れた……」

「っ!」

 ラタを仕留めた魔王は既にテスラに照準を合わせていた。神国のときとは比べ物にならない程、早い足取りでテスラとの距離を詰めてくる。

(やはり逃げるしか───)

 テスラはラタの下に移動し、転移魔術を唱え始めた───そのときだった。


「よう、相変わらず無茶してんな」


 気障きざな男の声が背後からして、振り向こうとした瞬間

 トゥン! 短く甲高い発砲音がテスラを通り越して───魔王の足を“凍りつかせた”。

「!?」

「邪魔するぜ」

 そのエルフの男は、魔王目掛けて指銃を差し向けた。


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