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勇者の死霊術  作者: 山本さん
幕間 金色の死神
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「へい、鍵!」

 ラタはテスラの手錠の穴に鍵を差し込み、彼女の両手を自由にした。

「あなた魔術使えるの?」

「肉体強化ならバッチリだぜ!」

「基礎の基礎じゃない!」

 テスラは呆れ果てて「嗚呼、八竜よ……導きたまえ」顔を手で覆った。

(いや、魔王相手じゃ、魔術が使えるかどうかは関係ないわ───)


「いよぉーし! やったるぜぇぇえ!! かかってこいやぁああ!!!」

 魔王に向かって威勢よく雄叫びを上げるラタ。だが。

「ダメよラタ、此処は逃げるべきだわ」

「えーっ!? 相手ただのはスケルトンじゃんか!」

 そう、見た目はただの骨だ。何の変哲もない下級死霊スケルトン。だが、その実際はあまりにも違う。放たれる魔の量が桁違いなのだ。


「今の私じゃ魔王あれを倒せない───倒す術が思いつかない」


 流石にその言葉で敵(魔王)の危険さが伝わったのか、ラタは早々に諦めてテスラを背負った。

「それなら、脱兎の如く逃げるぜ!」

 そして、魔王に背を向け走り出す。

 テスラが後ろを振り返ると、魔王はよろよろと歩くだけで、走って追ってくる素振りは見せなかった。

(機動力がないことだけが救いね───だけど、参ったわ、完敗じゃない)

 テスラはラタに背負われたまま、複雑な感情の込められた溜息をついた。

(魔王……まさかこんなところで遭遇するなんて───何か目的があって此処に来たの? まさか私を殺しに?)

 地竜平原での戦闘相手を執念深く追いかけて来たのだとしても、魔物は魔物でも死霊ならば不思議ではない。

 死霊は執着するものだ。死を受け入れずにこの世に留まり続けるだけの何かがあるのだから。


「貴様ら!一体どこから湧いてきた!?」

 当然の如く、物音に集まってきた兵士たちがラタたちの前に立ち塞がる。だが、彼らの背後から「!?!」血に塗れた死霊が歩いて来ると、すぐさま標的が変わった。

「たかがスケルトンがどうしてこんなと こ ろ に……───。」

 だが、近づいて来る度にあの死霊が如何に筆舌に尽くしがたいレベルなのかを理解し始めたのか、立ち向かっていった兵士たちの断末魔が後押しになったのか、みるみる大神殿の中にいた人々が雪崩状になって逃げだし始めた。

 その逃走の波の中に、ラタとテスラも入っていく最中

「なあテッちゃん、一つ頼みがあるんだ」

「何かしら」

「地下牢から出して欲しい奴が一人いるんだよ。

 俺、そいつと取引して此処まで来られたんだ」

 ラタからそう言われて断る理由はテスラになかった。

 ラタから正確に地下牢の場所を聞き、封印術の結界がなされていない場所まで移動してから───ズガガガガン!!! 隆土の土魔術で地下牢のある一帯を地上階へと無理矢理隆起させた。

「なんだァ!?人が眠っているってときに!」

「ゲルニカァ!約束は果たしたぜ!!」

「!? ゲルニカ!?」

 テスラは素っ頓狂な声を上げ「私がこの強欲成金爺を助けたっていうの!?」全力で嫌悪感を表した。

「強欲成金爺?」

「その言葉通りよ! 儲ける為なら味方も敵に売るクソ爺で有名なのよ、アイツ」

「ゲハハハ!久しぶりの娑婆の空気だ、が……要らん奴がいるな」

 ゲルニカはすぐに死霊(魔王)の気配を理解したのか、ラタたちと同じ方向に逃げ出した。

「そんな悪い奴だったのか! けしからん!」

「あ? 何か言ったか? 最近耳が遠くてなァ!」


 こうして、ラタとテスラ、ついでにゲルニカは、魔王混乱のどさくさに紛れて神国から脱出した。





 ぐ~。空っぽな腹の切実な訴え。

「絶ッッッ対に嫌」

 しかし、美味しそうなご飯を前にして、テスラは食すことを頑なに拒んだ。

「この俺様が奢ってやるって言ってんだぞ? 滅多にない話だぜ?」

「断る!」

「テッちゃん……俺たち、もう三日も食べてねぇんだよ~」

 神国を出て、タタリ山に実る小さな野イチゴを貪り、西へ。レコン滝の見える森林地帯に入ったところで、彼らは斥候せっこうのドワーフの一隊と遭遇した。

 武器を向けられ一触即発状態になったが、そこをゲルニカが抑え込み、交渉の末に食事を取らせて貰えるところまで持っていった。しかしながら、テスラはゲルニカに恩を売るのが是が非でも嫌なようだった。

「この爺に貸しを作るってことは、弱みを握られたも同然です!」

「飢えて死んじまうよ~」

「死んだ方がマシです」

「またそう言う~」

 強情モードに入ってしまったテスラをラタが十数分かけて説得し

「俺の貸し×2ってことで」

「んだよ、割に合わねぇな」

 実に三日ぶりのまともな食事にありつけた。


「テッちゃん……あの骨のことなんだけど」

 食事を終えた後、ラタはテスラに尋ねた。

「あんなのが魔王だっていうのは……本当なのか?」

「ええ、奴で間違いないわ」

 テスラは瞼の裏に魔王の姿を投影し、無意識に震撼した。

「ただ、地竜平原で戦ったときとは違って、私の魔術が全く効かなかった……それだけ魔法障壁が厚いということになるのだけれど」

 ラタの顔にキレイな疑問符が浮かぶが、テスラは見ないふりをした。

「魔術が効かねぇんだったら物理的に叩くしかないんじゃないか?」

「そう簡単な話ではないです」

 大神殿を警護するような十字軍兵士の放つ鋼鉄の剣が直撃したにもかかわらず、魔王の頭部には傷一つついていなかった。並の物理攻撃も通用しないとなれば、肉体強化した物理攻撃を浴びせる他にないだろうが、肉体強化も立派な魔術である。魔王の魔法障壁に呑み込まれる位置まで踏み込まれれば、多少の時間差はあれど肉体強化は外されてしまう。

 遠距離攻撃か、リーチの長い鎗や大剣などの武器で魔法障壁の外から攻撃を当てるのが無難だが、それで仕留められなければ、悲しき末路を辿ることになるだろう。

「策がねぇなんて賢者らしくねぇな」

 ゲルニカの揶揄やゆにテスラは嫌というほど顔をしかめた。

「そんじょそこらの武器で敵わないのなら、性質の良いもんを用意する他ねぇだろうがよ」

「性質の良いもん?」

「オリハルコンだよ、オリハルコン!」

 そう言って、ゲルニカは誇らしげに

「そして、此処に都合よくオリハルコン鉱山所有者がいる!」と、続けた。

「嫌よ」

「まだ何も言ってねぇだろうが」

「どうせろくでもないことを依頼するんです、コイツは」

「そう邪見にするなよ。聞いてみるだけ聞いてくれや」

 聞くだけなら、と、ラタに説得され、テスラも一先ずゲルニカの話を聞くことになった。


「地底国は今、皇帝ガロウの統治下にあり、俺様が保有していた財産は、オリハルコン鉱山を含み、ガロウに没収されてしまっている状態だ。

 要は、俺様の財産を取り返す手伝いをして欲しい」

「つまり、地底国皇帝と敵対しろってことじゃない。ほら、ろくでもない」

 ドワーフの一隊がこちらの話を聞いていないことを確認してから

「“神国の大神教主が殺された”ことがガロウに知られたら、野郎は力の均衡が崩れたと、本腰を入れて神国に攻め込んでくるぜ? そうなりゃあ、人間殲滅希望の野郎のことだ、神国中は血の海になるに違いない」

「うーむ、そいつは嫌だな……俺の故郷まで攻め込まれちゃ困る」

「お前らにやってほしいことはガロウに喧嘩を売る事が主じゃない。

 人間の奴隷共を野郎の足元で解放してやることだ」

 ゲルニカは地底国の簡素な略図を描いた。

「各戦場から捕縛してきた捕虜のほぼ全ては、地底国の鉱山奴隷になり、死ぬまでしごかれる。

 だが、奴らの士気はその扱いに反して意外と高くてな、鎖さえ外れれば、ドワーフの喉元を噛み千切らんとする反骨精神が垣間見える程なんだ」

「その奴隷たちを解放し、ガロウを倒させると? 無謀な話ですね」

「そうか? ガロウなんざ封印術を使えば造作もなく倒せるだろうよ。護衛さえ何とかすれば勝ち目はいくらでもある」

「何とかって?」

「そこはお前らの脳味噌の出番だろ?」

 テスラはやっぱりと溜息を吐き、ラタは何故かウンウンと頷いた。

「皇帝がいなくなれば混乱は必至よ。どうするの」

「それはもちろん、俺様が皇帝になる。

 そうなった暁には、お前らに特大のオリハルコンくれてやろう」

「よしやろう!」

「はあ!?」

 ラタが一つ返事に承諾するので、テスラは素っ頓狂な声を上げた。

「だってよぅ、テッちゃん。それ以外に魔王を倒す術が見つからないだろ?」

「…………。」テスラは押し黙り、口を真一文字に結んだ。

 確かに、オリハルコンというこの世で最も硬いとされる魔石で作られた武器があれば、もしかしたら魔王の防御力を突破出来るかもしれない。そして、オリハルコンは早々手に入る代物ではない。これは千載一遇のチャンスではある。

「ただし、もう一つ」

「もう一つ?」

「あんたが皇帝となったら、戦争終結の為に奔走してほしい」

 ゲルニカは顔を上げ、ラタの目を見た。ゲルニカに向けられる真摯な眼差しに、彼はケッと唾を吐いた。

「……まあ、いいだろう。この戦争にはもう十分儲けさせてもらった。

 お前らがガロウを倒してくれるのなら、あとは俺様の時代だからな」


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