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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第四部
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第78話 勇者の座


 ドップラーのわずらわしい泣き声が木霊する王都。

 王都中に散らばっていた王都騎士を含めたドップラーの魔物たちも続々と変形し、翼の生えた魔物に変貌した。そのすべてが緑色の瘴気を放っている。

 空が黒くなるほどのドップラーの魔物の群衆に歴戦のデリカも「大水殿に逃げこむ時間はなさそうね」死を覚悟した。

「だが、ここまで追い込んだのは今までで初めてだ」

 しかしそんな中で、グレースは深呼吸をしながら、現実逃避な笑みを浮かべた。

 ドップラーの軍勢を退けるだけだった日々がようやく実りを結んだからだ。

「ここまで来たのなら、奴の吠え面をもっと拝みたい」

「ハッ、それは言えてる」と、デリカも釣られて笑みを浮かべた……。

 ―――そのときだ。

「おーーーい!!」

「ん?」

「ランディア!?」

 ポテトスを小脇に抱え全身を鎧に包んだランディアがグレースたちの下に現れた。既に剣を抜き、やる気に満ち溢れている。

「お前っ、今まで何処行っていたんだ!?」

「ごめんグレース、ちょっと色んなところに行ってて」

「どれだけこっちが心配したか!」

「悪かったって!」

「ちょっとお二人さん、そろそろ敵が来そうなんですけど」

 談笑をしている場合ではないのだが、三人の中で一瞬の団欒が生まれた。ずっと彼らの中にあった王都騎士団団員たちの慌ただしく懐かしい喧騒が。

 そして、それを踏み躙り、あまつさえ化け物に変えたドップラーへの余りある殺意が、彼らの中で明確に芽生えた。



 空を飛ぶ無数の魔物の群れに囲まれたネロス。

『パパって何? ドップラーに親がいるの?』

「さっぱり分からない」

 ヴァルキリアの背に乗りながら、次々に魔物の群れを切り裂いていく。

「これは骨が折れるぞ」

 だが、魔物たちの目障りな翼のせいで前が見えなくなるほどの数がいて、まるでキリがない。

『やーいやーい! このままみんな毒にかければぼくの勝ちだ!』

 ドップラーの子供じみた煽り文句に苛立ちながらも、魔物と巨人兵の処理に難儀していると―――そいつはド派手に現れた。

 ドゴォオオオオオン!!!

 五臓六腑を震わせる轟音、視界を塞ぐ雷光が次々にドップラーの魔物を呑み込み、撃墜したのだ。


『ああ!?!』

「よぅ、カッコいい仮面じゃないの」


 ネロスの背後に現れたのは、大剣を背負う、金髪の大男。


「手伝うぜ」

「……ラタ」


 魔王を通じて見て来たかつての勇者に、一瞬だけ羨望の眼差しを向けた後で、ネロスはプイとそっぽを向いた。

『ネロス?』

「ドップラーの毒が相手だ、何処まで無傷でいられるかな」

「ああ、それなら安心しな。俺、もうかかってんだ」

「はあ?」『え?』

「だからこそ、大暴れ出来るってもんさ」

 ラタは拳をギュッと握り、余命が決まったものというのに全くへこたれていないのか、笑みを浮かべた。

「イカれた野郎だ……」

「お前さんは王城の方に向かいなよ。何やらドップラーのお父様ってのがいるらしいしよ」

「……ああ、そうさせて貰うよ」と、ネロスが言うと、それに違和感を覚えたのか、ラタはくりっくりに目を丸めて 

「……なんだか雰囲気変わったな」と、首を傾げた。

 ラタの本質を突く問いに対し、ネロスは答えに詰まったが

(いや、僕は僕のままでいいんだ―――魔王を演じる必要なんてない)


「ぼ……く、……」

 咳払い。


「私は、お前を“勇者”と認めてないからな」



「勇者の座は、私が貰う……!」



「わっはっはっは!!」

 ラタは腹を抱えて笑いだした。


「いいね! いいね! いいじゃないか!

 存分に競い合おうぜ!

 こりゃあ俺もうかうかしてられないな!」


 ただ、ラタの言葉に嫌味の類はなかった。

 それもまた、ネロスの嫉妬を煽り、歯軋りさせる。

『ぼくを差し置いて話してんじゃねぇぇえよぉおお!!!』

 バサッ、言い争う暇じゃないと諭すかのようにヴァルキリアが羽ばたき、ネロスを乗せて王城へと飛んでいった。その進路を阻もうとする魔物たちは―――ズシャァアン! 雷で丸焦げになり、撃墜されていく。

「お前たちの相手は俺だ!」

『くそくそくそぉお!!』



「ルーク様、大丈夫ですか?」

「気にするな、掠り傷だ」

 ドップラーの魔物を毒魔術で溶かし殺したルークは、ドップラーがこじ開けた王城の方へ目を向け

「城の中から魔物が現れたということは、城内は既に冒されているということだな」と、短く溜息を吐いた。

「ルーク様……」

「ホロンスよ、俺は城内へ向かう。お前はグレースたちに協力してやってくれ」

「しかし、それではルーク様の身は」

「自分の身は自分でどうにかするさ。

 それに、ドップラーの毒を無効化する術を持つ俺たちには、あれらはただの魔物の群れだ」

 そう言って、ルークは単身でヴァルキュリアの影を追うように飛び出していった。



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