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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第四部
178/212

第77話 巨人兵


「なななななななんだっ!? モンジュの屋敷の方角に巨大・土人形ゴーレムが出て来たぞ!??!」

 ランディアたちの目の前に現れた巨大な土人形。しかも、その土人形の片腕が地響きと共に地面に落下した。何者かが巨人兵と戦っているのだ。

「来たのよ、ミトの彼氏が!」

「ネロスが???」「だけど彼は―――」

 死霊だ―――そう言いかけてサーティアは口をつぐんだ。

 シルディアは身を乗り出すように窓枠に手をかけて

「ミト……私も力を貸すからね」呪文を唱えた。

 すると、窓の外に現れたのは、羽毛を持った竜のような身体を持った巨大な白い鷹―――シルディアに与えられた鷹王だった。

「ヴァルキリア、ネロスに協力してあげて」

 その言葉にヴァルキリアが頷くと、巨人兵の暴れる方向へ飛んでいった。




『じゃまするな!』

 巨人兵は肩に乗るネロスを振り払った。

 宙に投げ出されたネロスは

「お任せください」

 巨大な拳が迫る前に黒猫ゼスカーンによる転移魔術が発動し、遥か下の地面に転移した。遅れて振り払われる巨人兵の拳から放たれる風圧が王都の雪を跳ね上げる。

 波飛沫なみしぶきの如く押し寄せる雪を掻き分け、踏み潰そうとしてくる巨人兵の足を避けたネロスはその足を、両手両足を使って高速でよじ登る。

 脹脛ふくらはぎ、膝、大腿、腰へと登っていく猪口才ちょこざいなネロスを振り払おうともだえる巨人兵。片手で素早いネロスを捕えようと躍起になっている隙に、腹、胸、肩へとあっという間に登りきる。

『あの胸の魔石から魔が出ているように見えるね』

「ああ、僕もそう思う」

 二人は巨人兵の胸に埋め込まれた、人の頭ほど大きい青いオリハルコンに目を付けた。だが、巨人兵の図体の割にその目標物は小さく、宙を舞う術を持たないネロスにはなかなか攻撃しにくかった。

「気をつけろ、モンジュの土人形ゴーレムはただの木偶でくの坊ではない」

 そこに飛翔の風魔術を使い飛んできたルークとホロンスが現れ『ちょこまかとしたのがまた増えたッ!!』暴れる巨人兵の肩にしがみつくネロスに助言した。

『こうなったら―――ッ!』

「!」

 胸の青いオリハルコンがギラリと輝き、巨人兵の身体に刻み込まれた魔法陣が赤く光りだすと、巨人兵の身体が上半身と下半身で分離し、変形し始めた。

 これに巻き込まれないよう一時、巨人兵から離れたネロスの目の前で、巨人兵は数段小さな二体の巨人兵になった。しかも、切り落とした右腕も本体に合流し、元に戻ってしまっている。

「スライムかよ」

 小さくなった分、素早くなった巨人兵が建物を破壊しながら三人を追いかける。

「ミト、一本出してくれ」

 マイティアが召喚する剣を握り、迫りくる巨人兵の足を目掛けて魔の一閃を放ち、ズバッ、と青いオリハルコンを持たない巨人兵の膝下を切り落とす。体勢を崩し、倒れる巨人兵だったが、すぐさま切り落とした足が本体に吸い寄せられるようにくっついた。

 立ち上がろうとする巨人兵に氷剣山の氷魔術をホロンスが放ち、土の身体を大きく抉るも、その抉った部分もあっという間にならされてしまう。

『アハハハ! ぼくは無敵だ! 無敵なんだ!』

『ムカつくね』

「調子に乗りやがって」

 スライムのように傷口を直してしまう巨人兵に対し、有効の一手を考えていたところ


「ピィイイイ」

 甲高い鳴き声が雪降る寒空に響き、巨大な影がネロスを覆う。羽毛に包まれ、四つ足で長い胴体を持つ大きな鷹だった。

「なんだ?」

「協力するってよ!」

 そこへホズが何処からともなく現れ、巨大な鷹の代わりに「こいつはヴァルキリアだ」と紹介した。

「詳細は省く―――ヴァルキリアに乗れ!」

「なら、そうさせて貰う」

 ネロスは飛び上がり、ヴァルキリアの背に乗ると「うわっ」ヴァルキリアは速度を上げて旋回した。その遠心力に引き剥がされないように羽毛にしがみつきながら、青いオリハルコンを持つ巨人兵に狙いを定める。


「助太刀しよう」

 一方、青いオリハルコンを持たない巨人兵に追われていたルークとホロンスの下に、携帯鎧を着用したグレースとデリカが合流した。

「敵と思わんのか?」

 ルークは自分の容姿のことを訊くと「敵の敵は味方だ」とグレースは即答した。

「何が出来る?」

「盾になれる」

「手足を切り落とせるわ、あのサイズなら」

「ならば」

 彼らと言葉少なく作戦を交わし、散開すると

『まずは一匹!』

 その場に留まったグレースの頭上に青いオリハルコンを持たない巨人兵が飛び跳ねて来た。

「ふんっ!」

 だが、グレースは巨人兵の足を肉体強化した盾で受け止め『あ!?』数十倍の体格差がある巨人兵を弾き飛ばした。

 ずずん、と地面に沈む巨人兵、すぐ立ち上がろうと地に手をつける腕をデリカが切り落とし、起き上がらせないようにしたまま―――ホロンスが氷剣山の氷魔術を巨人兵の胸に叩きつける。

「術式を構築し、維持している核となる部分が何処かに必ずある」

 ルークの思惑通り、氷剣山の氷魔術で抉られた胸に、核となる魔法陣が刻まれた石像が見えた。デリカが巨人兵の手足を切り捨てて傷の回復を遅らせているうちに、ルークが止めを刺そうと懐に飛び込む。

『させるかっ!』

 しかし、そこに王都騎士(ドップラーの魔物)が現れ「!?」石像を掴んだルークの腕に嚙みついてきた。

「この程度で俺を止められると思うな!」

 ドップラーの毒が回るのも構わずにルークは土鎗の土魔術を唱え、石像を破壊した。

 すると、巨人兵は動きを止め―――ピタリと動かなくなった。


『ちくしょう!ちくしょうちくしょう! なんなんだよ!

 ぼくの身体が! ちくしょう!』

 残された青いオリハルコンを持つ巨人兵は地団太を踏み、飛び交うヴァルキリアの尾羽を掠る。

「あの青い魔石を狙いたいんだ」

 そう言うネロスの言葉を解しているかのように、ヴァルキリアは巨人兵の拳を擦り抜けて懐へと飛び込んだ。

『いやだ!いやだいやだいやだ!!』

 だが、その狙いをドップラーも理解しているのだろう、懐に飛び込む度に両腕で胸を守り、ネロスの一閃が腕に阻まれる。

「往生際が悪いな」

『ルーク様たちが合流するのも時間の問題だね』

 マイティアの言う通り、巨人兵の一帯を倒したルークたちがネロスに合流すれば、再生に手間取っているうちに青いオリハルコンを破壊できるだろう。

 詰みかかっている戦況を受け入れ難いのか、ドップラーは奇声を発しながら

『いやだ!たすけて”パパ”!!』

「なんだって???」

 遂には狂ったようにくるっと後ろを向いて

 巨人兵は“王城に向かって走り出し”、何人たりとも弾く結界を力技でこじ開けた。


 すると、こじ開けられた王城から

「!?」

 “ドップラーの魔物になり果てた人々”が現れ

『いますぐ!!!』

 ドップラーの掛け声の後、その姿が翼の生えた化け物に変わっていった。


『ぼくをたすけろよぉおおお!!!』


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