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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第四部
175/212

第75話 八竜の巫女


 長く伸びた癖っ毛な金髪、盲目を隠す美麗な睫毛。子供っぽい無垢な笑顔で、ランディアたちを出迎えたのは、怪我で長らく目を覚まさなかった―――ランディアの妹、マイティアの双子の姉、シルディアだ。

「うわあああああ!!!」

「わ~」

 ランディアは感涙してシルディアに抱き着いた。その存在が嘘じゃないことを確かめるように強く抱きしめた。身体の芯は細いが、しっかりと脈を打ち、息をしている―――それだけでランディアの涙腺は決壊した。

「ランディア、帰ってきたのね」

「サーティアァア! シャルが生きてるぅぅう!!」

「ずっと生きてましたよぉ~」「またそんなこと言う」

 サンプトで別れたサーティアとも再会し、今度は三人で互いの存在を確かめ合った。

「どうして起きられたの? ずびっ」

「そうそう、聞いてよ聞いて」と言うと、シルディアはざっくばらんに話し始めた。


 〈我が声に耳を傾けよ、盲目の娘〉

 肉体が傷つき、幽体離脱したまま戻れなくなっていたシルディアは突然、七つの気配に囲まれた。

 シルディアは即座に、その気配が人ならざる者のものだと察した。

 いよいよお迎えが来たものかと身構えていると、七つの気配はそれぞれ違う声でシルディアに語り掛けて来た。

 〈このままでは人類が深淵に吞まれてしまう〉

 〈それは我々にとっても不本意である〉

 〈我らの声を届ける者が必要だ〉

 〈今の賢者には我らの声が遠い〉

 〈エルフではないが、貴様はファルカムの隷属である〉

 〈八竜の巫女として適任であろう〉

 怒涛のように頭の中に話しかけてくる声に混乱しつつ

『肉体に戻れぬ魂だけの私めに何をご所望でしょうか?』と、シルディアは不安げに尋ねた。

 すると、七つの気配はシルディアに詰め寄った。

 〈貴様の肉体を治してやる〉

『え』

 〈その代わりに、我らの声を聴き、民を導け〉

 〈貴様に拒否権はない〉

『ひどい』

 七つの気配はシルディアの肉体に魔術をかけると『わ~』シルディアの意識は吸い込まれるように肉体へと戻っていった―――。


「―――ってな訳で、八竜パワーで何とかしてくれたのよ」

「その適当なふわっとした感じやっぱりシルディアだぁっ!」

「だけど、その代わりに色々とね、お告げを貰ってましてね」

「お告げ?」

 シルディアは、ゴホン、と咳払いしてから


「王城アストラダムスを解放し、民を乗せよ」


 わざと声を低くして、八竜からのお告げっぽく演じた。

「王城アストラダムスを解放しろったって……」

 ランディアは赤い目を細め、鼻をすすった。

「跳ね橋上げられて籠城状態になっちまった王城は、ドップラー騒ぎが落ち着かないと開城しないだろうに」

「八竜様のお告げを疑ってる?」

「う、うーん……それは」

「この八竜の巫女を信じなさい」シルディアはえっへん、と胸を張った。

「じゃあ巫女様、ドップラーの本体が何処にいるのか教えてくれよ」などと、ランディアは冗談半分に言ったが、シルディアは「ちょっと訊いてみる」と、真面目にムムムと唸り始めた。

「いや、本当に冗談だって。これで割り出せたら今の今まで何やってたんだって話で……」


「幻影は青き竜結晶のあやかし


 サーティアとランディアは目を合わせ「「??」」一緒の方向に首を傾げた。

「よくわからないけど、八竜様はそう仰っているわ」

「青き竜結晶? 青いオリハルコン? 聞いたことないなぁ」

「シャル、マイティアの事は、訊かないの?」と、サーティアが話題を変えるように尋ねると、シルディアはハッキリと

「マイティアは頑張ってるよ」と、言い切った。


「私わかるもん、あの子は過酷な運命の中でもまだ生きてる」

「シルディア……」

「きっとまた会えるわ。

 八竜様は嘘をつかないもの」

 シルディアは、そう信じているわ、と微笑んだ。




 姉妹の感動の再会に水を差さないよう外に出てきたリッキーは

「ランディアに連れられて帰ってきちまったか」

 指先サイズの煙草を大事に吸うダッキーに話しかけられていた。

「オジキに勘当されて以来だよな」

「……だったらなんだよ」

「今もまだガキだなって思ってよ」

「余計なお世話だ」

 オジキの葬儀にも出ねぇで今まで何やってたんだ? と、尋ねるダッキーにリッキーは苛立った様子で振り返り「何が言いたいんだよ」と、凄んだ。

「ラッキーはよくやってるぜ、お前と四つ違いなのにな」

「…………。」

「なあリッキーよぅ、お前が本気になれるってんならラッキーに掛け合ってもいいぜ」

「何をだよ」

「何をって、言わずもがな、技巧派モンジュの看板を背負うことにだよ」

 リッキーは一目見て嫌と分かるほど顔をしかめた。

「正直言って、お前ほどの技術を持った奴は他にいない。俺はラッキーよりもお前の方が技術派だと思っている。ラッキーは経営者向きなんだよ」

「絶対無理」

「なんでだよ。教え込まずとも手に職つけるだけの力があるのに、勿体ないなんてもんじゃないぜ」

「おじさんには一生わかんないよ、俺の気持ちなんて」

 リッキーはそう吐き捨てて、ダッキーの下から離れて外に出て行った。



(誰が戻るもんか)

 リッキーは外に張った水面に顔を出し、反射する自分の歪んだ顔を覗き込んだ。


 リッキーが父親から勘当されたのは、彼がまだ魔術学院にいた頃の話だ。

 その理由は、リッキーが王都の商店から盗みを働いた上に、盗んでいないと頑なに白状せず、反省しなかったからだ。

 裕福な家系の筈の者が遊び半分に個人商店から金品を盗むなど言語道断―――そう思った彼の父親は顔の血管が千切れる程に激怒した。

 だが、その騒動の真実を、リッキーは知っている。


 盗みを働いたのはリッキーではなく、ラッキーであり

 彼は悪友のコレットに唆されて、度胸試しをしでかしたのだと。


 現に、それを指摘したリッキーに、ラッキーは土下座して見逃してくれるように懇願した。

『頼む! 親父にだけは―――言わないでくれ!

 もう二度としないから!』

 リッキーは実兄の情けない姿に困惑しながらも、兄のその言葉を信用した。

 そうしたらどうだ、ラッキーは自分の罪をリッキーに擦り付けてきたではないか。

 リッキーは必死に自分を弁護した。だが、父親たちは信じてくれなかった。盗んだ金品がリッキーの荷物から見つかったからだ。

 そして、二度と敷居を跨ぐなと追い出され、学院も中退する羽目になった。


 将来に絶望したリッキー。しかし皮肉なことに、彼を救ったのはラッキーの悪友コレットだった。

 それからというもの、リッキーは泥棒(裏)の道へと自ら進んで転がり落ちていった。


(クソ兄貴と一緒にだなんて、頼み込まれたってやらないね……!)


 リッキーは足元の雪を蹴り飛ばした。


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