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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第四部
169/212

第70話① ドップラーの軍勢


「逃げた方がいい」

 グレースはそう提案した。ドップラーが大群で襲撃してくると予告してきたことを受けてのことだ。

 だが、これにラッキーが首を横に振る。

「俺たちの土人形ゴーレムは最強だ! この屋敷の外に出ることの方が危険だ!」

「以前の襲撃のときは王都騎士団がいた。だが、今度は俺たちしかいない。とても凌ぎ切れる数で来るとは思えない」

「じゃあ何処へ逃げるというのだ? まさかポートへか?

 王都騎士団ともあろう者が王都を捨てておめおめと逃げるというのか?」

「そうだ。逃げるしかない」

 グレースは淡々と言い切った。その目の隈は昨日よりも一層濃く、深い。

「冗談ではない! このラッキー・モンジュは逃げないぞ!」

「お前の独り善がりで従業員の命を危険に曝すんじゃない」

「グレース」

「事実だ」

 ラッキーは顔を真っ赤にして「見損なったぞグレース!」声を荒らげた。

「貴様は最期まで勇ましく戦う男だと思っていたぞ!

 俺たちはそんなお前たちの為に、お前たちと同じよう、技術に命を懸けてきた!

 それなのに―――」

「命あってこそ、次に戦えるのだ。

 逃げは恥だが、死んでしまっては元の子もない」

 グレースの説得の甲斐あってか、ラッキーはポートへ逃げたい者を船に乗せて逃がすことを了承した。しかし、自分は頑なに残ると宣言した。


「お前もポートへ逃げた方がいい」と、グレースはラタにも進言した。

「俺は王城を手に入れるまでは逃げないね」

「またその冗談か」

「本気さ」

 ラタがそう頑なでいると、グレースの険しい顔つきが僅かに緩み

「お前が来るのがもう少し早ければ、まだやりようがあったかもしれないがな」

「えらく高く買ってくれるじゃないの」

「見ればわかる。お前は強い。恐らくは俺よりも強いだろう」

 がっくりと項垂れ、何処までも沈みこむ肩。溜息に込められた責任が重い。

「もうこりごりなんだ。

 逃げても現状が変わらないのは分かっている。だが、この八方塞がりの状態から、仕切り直しをする時間があっても構わないだろう?」

「…………。」

 船に乗り込んでいく従業員たちを見守りながら、ポートへ出発する第一陣が出発した――――その直後だった。


 ファンファンファン! 不快なアラームが鳴り響く。


「もう来やがったのか!?」

「時間を稼ぐぞ!」

 ラタたちは屋敷の外に出て、張り詰めた様子で待ち構えた。

「野郎……有言実行だな」

 現れたのは、王都騎士(ドップラーの魔物)の群れだった。少なくとも100人はいる。

「まずい―――っ!

 タイマラス! 力を貸してくれ!」

 屋敷の上の方へグレースは誰かを呼んだが、何故か返事はなかった。

「くそっ!」

「俺が行こう」

 戦陣を切ったラタは、オリハルコンの大剣を握り、群れの中心に向けて落雷を放った。

 だが、ドップラーの魔物は皆、それを察知したが如く“回避”した。

(元の奴の能力を引き継ぐって言ってたな……コイツはやべぇな)

 ただ落雷の雷魔術を放っただけでは避けられてしまう、そう悟ると

「ぶっつけ本番で行くぜ!」

 ラタは携帯鎧を装着し「お、おい!」群れの中心に飛び出していった。


(なんて軽いんだ! 革の鎧並みに軽いぞ!?)

 携帯鎧には魔力を呼吸するように取り込む術式と、魔力を肉体強化に回す術式が鎧に組み込まれている。装着しているだけで着用者は脱兎の如く素早い動きが可能になるのだ。

 ラタも常時、肉体強化を行っているが、彼の術式は遥かに古く、現代の無駄なく洗練された肉体強化の術式を浴びることが新鮮だった。


「南無阿弥陀仏ッ!」

 ラタは王都騎士たちの群れに飛び込むと大剣で横薙ぎに払った。

 ある者は剣で、ある者は鎗で、ある者は鎚で、ある者は盾でラタの攻撃を受けたが―――既に半壊していたそれらに、歴戦の勇者が放つオリハルコンの大剣を受け止めるだけの力はなく―――王都騎士たちの身体が腰から真っ二つに裂けた。いくら携帯鎧で強化された肉体であっても、王都騎士たちの身体は既にボロボロだ。関節を無視した動きは確かに奇をてらうが、その分、力がこもっていない状態ともいえるのだろう。

 ラタの一振りで4人もの手駒を失ったドップラーの動揺の現れか、ドップラーの魔物の足取りが揺らぐ。

 その隙、次々に琥珀色の大剣がドップラーの魔物を切り裂いていく。

「!」

 だがそのうち、ラタに構うのを諦め、屋敷の方へと向かうドップラーの魔物が続々と現れた。

「お前はそっちに集中しろ!」

 グレースからの進言もあり、ラタはドップラーの魔物を減らすことに注力した。

 一方、屋敷へと侵入してくるドップラーの魔物を

「侵入者、侵入者」

 屋敷中の石像たちが察知し、ドップラーの魔物と戦いを始める。

「くっ、数が多すぎる!」

 それでも、石像たちよりもドップラーの魔物の方が僅かに多い。ラタが十数人を一挙に抱えてくれているが、石像たちが壊されれば一巻の終わりだ。

「やるしかないじゃない、グレース」

「言われなくとも」

 デリカとグレースを中心に10人程度の王都騎士たちが携帯鎧を着用し、時間稼ぎに出る。

 その間に、ラッキーたち非戦闘員は新たな石像たちを造り上げ、次々に戦場へと送り出していった。


 ドップラーの軍勢と戦闘を始めてから数分が経った頃

 ───「ぐああ!」一人がやられた。

「ドナルド!」

 たった一撃、ドップラーの魔物の攻撃を食らっただけで張り詰めていた糸が弾け飛び、ドナルドはパニック状態に陥った。その隙に、ドップラーの魔物が群がりだす。あっという間に5人の王都騎士に囲まれて滅多刺しにされ……。

 ドップラーの魔物が一人、増えてしまった。

「う、うわああああ!」

「狼狽えるな! 敵が一体増えただけだ!」

 さっきまで味方だった王都騎士が変わり果てた姿で敵に変わる、その恐怖が他の王都騎士たちに伝染し、剣を鈍らせていく。


『一人、また一人、いなくなっちゃうねぇ』

 その様を、上空から緑色の霧―――ドップラーが高みの見物をする。

「てんめぇ……!」

『ほぅら、今にも恐怖で腰を抜かしそうな奴らがいっぱいだぁ』

 そんな中、第二陣の船を今か今かと待っていた従業員の一人が、あまりの恐怖からか、冬季のレコン川に飛び込んでしまった。

『アハハハ! いいよ、もっと飛び込め! 寒くて凍え死んでしまうだろうけどね!』


 ズシャァン!! 不意に雷が落ち、十数人のドップラーの魔物が焼き焦げた。

『!?』

 そして、黒雲が立ち込め、次々にドップラーの魔物を狙い撃ちして雷が落ちていく。

「虫唾が走る……こんなに腹立たしいことは久しぶりだ」

 飛翔の風魔術を使い、空からレコン川に飛び込んでしまった一人を救い上げたラタは

「大丈夫だ、俺がこいつら全員ぶっ飛ばしてやるから、ここで待ってな」

 血の気の失せた真っ青な顔の従業員を他の従業員たちの下へ送り届け、勇気づける。

『王都騎士が雑魚みたいに……っ!

 なんだよ、何なんだよお前は!』

「俺はラタ・ガッド・フォールガス。

 てめぇのようなクズを叩きのめす男の名前だ、よく覚えとけ!」



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