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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第四部
168/212

第69.5話 素材集め


「リッキー! リッキー!これだ!」

「うおおおお!!! それだぁあああ!!!」

 地底国とナラ・ハの国境線、雪に覆われた北方の銀世界で、一組の男女がクリスタルに輝く草を摘み取り、奮い立っていた。

「やっとこれで最後だ! お使いが終わる!」

「クリスタル草の根、轟雷牛の腸、メッサー蜘蛛の糸、海竜の生き血に化け猫の皮など……諸々。

 ああ、長かった! 一体何の錬金術の素材なのかさっぱりよく分からないけど珍しい素材ばかり! 数か月!」

「私たちは一体何をさせられているんだろうと悩むこと数か月!」

「ようやく終わったよランディア!」

「終わったなリッキー!」

 二人は感動のあまりに抱き合った。


 金髪のショートヘア、褐色の小さな瞳。女性の割にはがっしりとした体形の、快活な女性ランディア。

 髪から睫毛に至るまでの全身の毛がない、ランディアよりもひょろい青年リッキー。


 二人は魔女レキナの使いで、素材集めをしていた。

 というのも、ランディアがドップラーの毒に罹患したのを、魔女レキナが救った恩を返して貰う為だ。


 そして、ようやく素材集めを終えて魔女の家へ帰ってきた二人を出迎えたのは

「ん? なんだお前たちは」

「エルフ?」

 十数人のエルフたちだった。彼らは魔女の家に自由に出入りしていて、大量の本やら巻物やらを運び出していた。まるで業者の入った身辺整理だ。

「魔女は? 私たち、魔女に素材集めを頼まれていて」

「……そうだったか」

 老エルフはそっと畑の裏の方に顔を向けた。そこには一人分の墓が建てられていて、花と線香が供えられていた。

「まさか」

「レキナは亡くなった。あれの使いで素材集めをして貰っていたようで、申し訳ないな」

「えええええっ!!?」

「ま、待て待て待て! 私たちの数が月を無下にしないでくれ!」

「そう言われてもな……」

「せめてこの素材が何に使うものなのかわからないか?!」と、ランディアは老いたエルフに集めてきた珍しい素材たちを見せた。

 すると、老エルフは目の色を変えて

「こ、これは……人体人形ホムンクルスの素材ではないか!」と、素っ頓狂な声を上げた。

「人体人形?」

「錬金術における禁忌、人体の精製だ」

 ランディアとリッキーは互いに顔を見合わせ、すーっと青ざめた顔を戻した。

「何も知らされずに集めてきたのだろう。お前たちに何の非はない」

「な、何に、魔女は何に使うつもりだったんだ?」

「わからん……。

 老い先短い自分に使うためだったか、それとも他の誰かの為だったか……。

 どちらにせよ、もう人体人形を作れる程の実力者はおらぬ。その素材は換金してしまった方がお前たちの役に立つだろう」



「ランディアどうする? おっさんの言う通りに換金するか?」

 シェールへ向かう途中、リッキーは素材の袋を気だるげに担ぎながら、ランディアにそう尋ねた。

 ランディアは遠くの方を見つめて、真一文字に結んだ口をゆっくりと開き

「なあ、リッキー」と、切り出した。


「人体の代わりになるってことはさ……例えば、怪我で植物状態になった人の肉体を作ったら、魂さえ呼び戻せば、元に戻るってことだよな?」


「おま……、シルディアの事か?」

 ランディアは静かに頷いた。

 彼女の、腹違いの妹シルディアは、父である王ハサンから片割れ(マイティア)を守るために頭部を負傷した。その事件以降、シルディアは目覚めておらず、生命維持装置に繋がれ、今も大水殿の医務室で眠っている。

 その彼女の肉体を錬成出来れば、シルディアが戻ってくるのではないか、と、ランディアは考えたのだ。

「だけど、魂はどうすんだよ」

「そこまで考えてねぇけど……なんだか、捨てづらくって」

「―――わぁったよ! 持っていけばいいんだろ! この重いの!」

「リッキー……!」

「だが、その代わり! 警護は頼んだ」

「任せとき」


「ん? ちょっと待てよ?

 妹のところに戻るってことか?」

「うん」

「つまり?」

「王都に帰るぞ、リッキー」

 逃げるリッキーを捕まえるランディア。

 情けない男の悲鳴が、地竜平原に木霊した。



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