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勇者の死霊術  作者: 山本さん
幕間 腹ペコ賢者が女神になるまで
159/212


 戦闘を終え、控室に戻ってきたベラトゥフ。

「あら?」

 そんな彼女の前に、大柄な人間の男性が立ちはだかった。

 服の上からでもわかる体格の良い、お髭の整えられた黒髪オールバック。その背には白と金を基調にした大剣が背負われている大男だ。

「お初にお目にかかります。私はロウ・グランバニク。

 王国南部の侯爵にして、女神騎士団団長です」

「ど、どうも」

 だが、グランバニクはその巨体を縮こませてベラトゥフの手を握り

「先ほどの戦いは見事でした!

 戦闘の最中に取られた環境掌握をひっくり返すとは、私も初めて見ましたよ!」と、少年の如く目を輝かせた。

「あのぅ……ご用件はなんでしょうか?」

 戸惑うベラトゥフに、ハッと手を離したグランバニクは咳払いをしてから

「少しばかりお話をと思いましてね」と、切り出す。

「もしかして八竜信者が女神になってはならないとか?」

「いやいやまさか。それを言ってしまっては、大女神テスラが賢者であったこと自体、由々しき事態になってしまいますからな」

「確かにそれもそうね」

「私は八竜信仰についてさほど知識が深い訳ではないのですが、敬虔けいけんな八竜信者は、八竜の導きに沿って行動すると言います。

 ですから、八竜信者のルーク王子と接触し、キキ島に向かわれたのですよね?」

 ベラトゥフのポーカーフェイスに一瞬の揺らぎが現れる。

「単刀直入に言いますと、百年に一度のこの祝祭に、あなたが出場なさったその意義を、私共は懸念しているのです。何か起こるのではないか、と。」

 彼女が八竜から仰せつかったのは、大女神を殺すことだ。当然、女神教団や女神騎士団にそんなことが知られればどんな目に遭わされるか分かったものではない。

「そう警戒しないでいただきたい。私はあなたの邪魔をしようとしているのではなく、寧ろ助太刀しようと思っているのです」

 そんなことを知ってか知らずか、それとも探りを入れているのか、グランバニクは清々しくにこやかにそう言う。

「あー、お気持ちだけで結構です」

「なんと!」

 断られると思ってもみなかったのだろうか、グランバニクは大袈裟に驚いた。

「女神の選定に出ているのは自分の意志なので、八竜様は関係ないです。なので、ご安心ください」

「そうですか……無理強いはしません。わかりました。

 それでは、女神様の道まであと2戦。頑張ってくださいね、応援しています」

 グランバニクはベラトゥフに根掘り葉掘り聞くことなく、その場を去っていった。


(あれは“黒”だな)

 だが、彼はベラトゥフの反応から何かを隠していることを確信していた。






 ベラトゥフの試合が終わった後も続く会場の熱狂の中。

(……やっぱりすげぇんだな……姉貴)

 日雇い団員として会場の警備にあたっていたホロンスは改めて姉の実力を見せつけられた。だが、今だけは少し恥ずかしい気分だった。

 自分の姉が大勢の心を奪う戦いをした、そして、それを大勢に褒められている。

「かっこいい……」と、誰かが言った。

 自分も同じように素直に気持ちを持てればどれだけよかったか……いや、ホロンスだって昔はそうだった。何をするにもベラトゥフにべったりとくっついていたのに、スティールに言われて修行に出ることになった彼女が自分を置いて行ってしまった事を、今でもいやに覚えている。修行に何年も費やし、彼女が帰ってきたときには恥じらいが出てきて、つっけんどんになり始めた。

(俺、まだあの頃のまま、ガキだったんだな……)

 今度会った時は、素直になろう―――そう心に決めた直後、あっという間に二回戦が終わってしまい、続く三回戦。


 レキナとウィーズリーとの試合だ。


「レキナって本気出すのかな」とある観客が口に出す。

「ここまで残っているってことはやる気あるんじゃね?」

「なんか女神に一番遠いっていうか、魔女だし」

(魔女?)

 魔術で元に戻される闘技場。そこに二人のエルフが入ってくる。会場からは歓声とどよめき半々が上がる。

 現れたのは、ブラックエルフことセイレーンの女と、壮年のブルーエルフの男(歴史上男性の女神もいる)。セイレーンの女、レキナはこれから戦いだというのに優雅に煙草を吸っている。

 互いに何を話すまでもなく、その手に杖を召喚すると、ブルーエルフの男、ウィーズリーは動き出した。

 大地が波打ち、せり上がり、息つく暇もなくレキナを土の中に閉じ込め―――圧縮したのだ。

(おいおい、嘘だろ……?!)

 圧縮した土からは巻き込まれた手がこぼれだしていて、血が滴っている。

「こ、殺したのか……?」

 会場もどよめきが起こる中「!?」ウィーズリーは何を思ったか、自身の周囲に土の壁を作った。まるで誰かに襲われそうになったかのように。

「あれ、決着ついているんじゃ……?」

「いや、待てよ」

 圧縮された大地から見えていた手と血がいつの間にか消え失せ、ウィーズリーの背後にレキナの姿が現れていた。

「くそっ!」

 ウィーズリーは焦った。完全に術中に嵌ったと。


 それから瞬く間に決着がついた。


 幻惑術―――相手を惑わす魔術の達人であるレキナに、短期決戦を仕掛けたウィーズリーの魔術の一切合切が効かず、最後にはレキナがウィーズリーの背中に杖を突きつけたからだ。


 どよめきは消え去り、歓声が上がる。

(すげぇ……攻撃魔術一度も使わずに勝ったぞ)

 つまるところ、レキナはかなり手を抜いてウィーズリーという七つ星の魔術師を下したことになる。会場のボルテージに比例してホロンスは高ぶった。


(準決勝を共に勝ち抜いたら、決勝で姉貴とぶつかるんだ……どっちが勝つんだろう)


 続け様に行われる準決勝、順当に勝ち進むベラトゥフ。

 またしても相手のリタイアで勝ち進んだレキナ。

 会場のボルテージは最高潮に高まっていく中で、彼女たちは決勝戦でぶつかる筈、だった。


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