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勇者の死霊術  作者: 山本さん
幕間 腹ペコ賢者が女神になるまで
153/212


 黒曜石の原盤。

 それは、“魔王の魂が封印された”過去の遺物だ。


 ゲルニカは、それを時間軸の狂った臨界、地竜遺跡から持ってきた。

「えぇ、なんでぇ?」

「そりゃあお前、操れるからさ。絶大な力をな」

 勿論、魔王を復活させるためだ。


 ただ、黒曜石の原盤から魔王の魂を抜き出すには、術式を解除しなければならなかった。更に残念なことに当時の地底国の魔術師たちには解除できない代物だった。

 だから、ゲルニカは解除を、名だたる魔術師が集うナラ・ハと、封印術の権威である神国の両方、別々に“頼んでいた”。神国からは出来ないと返答が来たものの、ナラ・ハからは音沙汰がなかった。半年もだ。

(数百年経っていて黒曜石の原盤の術式にピンと来る奴がいるとは思わなかったが、半年経っても音沙汰ない事をみると、休戦の代償に突き出された難題の意味を理解しちまったようだな)

 あとはどう交渉材料にしていくか、ゲルニカは画策する。女たちを抱きながら。

「ねえゲルニカちゃんてば」

「ああん?」

「地竜遺跡ってぇ、一度入ったら出られない怖ぁい場所なんでしょ~?」

「おう、よく知ってるな。そうだとも。俺様じゃなきゃ無事に出てこられやしねぇ」

「どうしてゲルニカちゃんは無事だったのぅ?」

 娼婦にそう聞かれると、ニヤリと笑みを浮かべて

「そりゃあ八竜ウェルドニッヒ様のお陰さ」

 両腕に刻み込んだ刺魔タトゥを見せびらかした。

「この両腕には、当時の俺の全てをなげうって手に入れた不老の八竜魔術が刻まれている。だから、時間軸が狂っている臨界を通っても無事なんだよ」

「へー、なんかよくわかんないけどぉ、ゲルニカちゃん老いないってことなのぉ?」

「凄いだろうぅ? ガハハハ」

 

「ゲルニカ様!失礼致します」

 女たちとの饗宴きょうえんの最中、突如として扉が開かれ、妖艶ようえんとした空気が一気に消え失せる。

「人が女ぁ抱いている最中になんだ、くそったれ!」

 娼婦に金を突きだし、ゲルニカは部下の緊急報告を受けた。

「明日のジャバオラン卿との会合の地へ向かう道中で襲撃があるとの密告がございました。明日の会合は先送りにした方がよろしいかと」

 服を着て、葉巻を咥え、煙を吸う。そして、ゲルニカはハッキリと否と言った。

「先送りにしたって襲撃作戦も先送りになるだけだろうが。迎え撃つぞ」

「へ」

「迎撃だ迎撃ぃ! その準備をしとけ馬鹿野郎ども!」



 交易の街レ・アッカ。シェールとの国境に近く、王国ともレコン川を挟んだところにある、地底国南端の街。

 ゲルニカたちは大鉄の鎧を着こみ、クロスボウを持ち、戦に向かうかのような完全防備の姿でジャバオラン卿の邸宅に向かっていた。とても会談しに行く恰好ではなく、ジャバオラン卿の使者たちは困惑していた。

 だが、そこで、予告通りの襲撃があった。

「死ねゲルニカァアアア!!」

 それは町全体を舞台にした、ゲリラ戦だった。

 物陰に隠れて、町の商人にふんして、通行人にまぎれて、建物の二階に潜入して、地面の下に潜り込んで、4,50人近いドワーフが一斉に現れ、そして、影に溶け込んだ。

「最高にイイ気分だ!

 一人残らず殺せ!」

 一瞬にして街中が戦場に変わり、関係のないドワーフたちが阿鼻叫喚で逃げ惑う中を、魔術と鋼鉄の矢が飛び交う。

「父さん!」

 土煙が舞う視界不良な中を、怒号が飛び交う。繋いでいた親子の手もいつの間にか離れている。

「カバジ……?」

「グラッパ!早く逃げろ!」

「カバジがっ、俺の息子がまだ!」

 ドゴォン! 巨大な爆発音と共に「ガハハハハハ!!」人々の恐怖を貫くように高らかな特徴的な笑いが響く。ゲルニカだ。

「来いよ来いよ! 俺はまだまだ生きてるぜェ!!」

 全身を鋼鉄の大鎧で包み、身の丈をも超える大鎚を軽々振るいながら、地形破壊の魔術を駆使する。それで建物が傾き倒れようとも、住民たちが蟻地獄に巻き込まれようともお構いなしだ。

「んン?」

 だが、倒れた敵の影から黒い狐のシルエットが現れたとき、ゲルニカから余裕がなくなった。

 シュン、音も遅れる俊敏な跳躍、旋風のように駆ける狐に、ゲルニカは右目(義眼)を取られたのだ。

「―――野郎ッ!」

 義眼を奪われ、焦るゲルニカに鋼鉄の矢が降り注ぐ。これにゲルニカは「ひっ」近くにいたドワーフを磁力の土魔術で引き寄せ、肉壁とした。

「カバジィイイ!」

 肉壁にした若いドワーフを捨てたゲルニカは、片目で必死に狐を探した。義眼は奪われてはいけなかった。あの目には術式が隠されているからだ。

 だが、既に狐は何処にも見つからなかった。

「―――俺を虚仮にするとはやってくれんじゃねぇか!」

 その後、数十分に渡り戦闘が続き、ゲルニカはゲリラ戦を勝ち切った。

 有言実行、自分を殺そうとしてきた連中を皆殺しにしたにもかかわらず、その顔には最初の余裕はなかった。

(誰だ―――この俺様相手にあんな芸当が出来る奴は)

 ゲルニカは自他共に認める強さを持っていた。そんじょそこらの連中に後ろを取られるようなことはない、と自負している。

(いや、“知っている”だろう人物に絞った方がいい……。

 “黒曜石の原盤”のことを―――。


(ナラ・ハのバカ殿様か!)


「ゲルニカ様、如何されますか? このままジャバオラン様のところへ参りますか?」

「いいや、中止だ。中止!

 今すぐシェールに兵を集めろ。今すぐに出兵だ!」


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