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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第一部
15/212

小話・ルター三兄弟との出会い


「ふぅ……コレで一安心だね」

 ネロスは、体に篭もっている熱を吐き出した。

 クロー鉄鉱山を占拠していた魔物たちを殲滅し、聖剣の力で坑道内の瘴気を浄化。戦いの中で落盤し、塞がれてしまった道を自前の馬鹿力でこじ開けながら帰り道を確保し終えた……そんなときだった。

「だ〜し〜て〜」

「ん?」

 子どもの声のような声高な音が、奥の瓦礫に塞がれた道の方から聞こえてきた。

「だ〜し〜て〜」

「どんちゃん騒ぎで崩落して〜」

「出られなくなったの〜」

(子どもがいたのか!?)と、ネロスは一瞬焦ったが、そもそも坑道内は常人が生存できない程の瘴気で満たされていた。恐らく魔物の残党だろう。

(けど、みんなが鉄鉱山に戻ってきたときに鉢合わせして、戦いになったりしたらいけないね)

 ネロスは瓦礫の蓋をバターのように聖剣で切り裂き「「「わっ!?」」」取り除いた。

「下級の魔物か」

 閉じ込められていたのは、同じ格好をした人の子どもサイズの、道化師の様な三体の魔物だった。一体だけ三角帽子を被っているが、放たれる魔の量からして三体とも同じ下級程度だろう。

「な、何者だ貴様ッ! こ、このルター三兄弟がお前の鼻毛をチリチリに焼いてやろうか!」

「やろーか!」

「やれるもんならやってみろよ」

「「「ひ、ひぃーっ!!」」」

 聖剣から魔力を放って威圧すると、ルター三兄弟なる魔物たちは揃いも揃って後ずさり、壁に背中を張り付けわなわなと震えだした。

「バーブラ様八竜様女神様ぁーっ! 誰でもいいからお助けぇーっ!!」

「魔物が女神に助けを求めるだなんて、一体何の冗談だ?」

「ま、魔物じゃないもん!

 “魔族”だもん!」

「どっちだっていいさ」

 ネロスが聖剣を振り上げると

「兄ちゃん!助けてーっ!」

「は!?待て!俺を盾にするな!」

「うぎゃぁーっ!やられるぅー!」

「…………。」

 ルター三兄弟は非常にうるさく喚き散らした。あまりに魔物らしくないというか、あまりに情けないというか……とてもやりづらい空気に、ネロスは振り上げた聖剣をゆっくりと戻した。

「だいたい何なんだ!いきなり現れてお前は何様だっ!

 初対面の人に剣を向けるなんてマナー違反だぞ!」

 挙げ句の果てには、帽子を被った魔物が謎の理屈で逆ギレし始めた。

「何様って、僕は勇者だよ」

「勇者ぁ〜?」

「それに、君たちは魔物だろう?

 だから、倒す」

「待て待て待て待て待て」

「勇者、今一度考えよう!」

「何を?」

「どうして魔物だったら問答無用で倒さなければならないのか!? 10秒で答えよ!」

「はあ?」

「10!」

「待って」

「9!」

「いや、何このカウント」

「8!」

「え、何? なんで倒すのかって?」

「7!」

「魔物だから」

「100点満点中3点!補修授業が必要です!」

「うるさいなぁ……わかったよ、わかった。

 三体まとめて切ってあげるからそこ横一列に並びな」

「何もわかってないじゃないか!」

「じゃあ魔物とは何か!

 勇者!答えられるか!? はい!10!」

「魔物とは何かだって?」

「9!」

「うーん、ベラ教えて」

「カンニングすんな! 8!」

「死した者の魂が、死者の世界に、行けず、漂っている間に、魔に、おかされて、具現化したもの……ありがとう、ベラ。はい、答えたよ」

「だったら分かるだろう!?」

「何がだよ」

「俺たちが! ピュアでプリティでクールでちょびっとお茶目なスーパーグレイトフルベストソウルを持っていることに!」

「ことに!」

「何を言っているのかさっぱり分からない」

「つ・ま・り! 外見じゃなく! 魂を見ろって言ってんの!」

「刮目しろ!俺たちのソウルを!」

「ぼくたちの魂、きれいでしょ〜」

 ネロスは腕を組み、魂を見ろ!と言わんばかりに胸を張るルター三兄弟の方をじーっと見つめる。

(魂がどうのは分からないけど、確かに……悪い魔物って感じではないんだよなぁ……なんなんだ?魔族って)

 少し考えても答えは出ず、ネロスは溜息を吐いた。聖剣との魔力の連結も解除して木剣へと戻し、腰帯に提げる。

「悪いことするんじゃないぞ」

「そ、それってまさか」

「見逃してくれるって、こと?」

「少なくとも僕は君たちが悪いことをしているところは見ていないし、君たちが束になってかかってきたところで僕に勝てるとも思えない」

「ハッキリ言いやがったぞこの鼻潰れ短耳族め」

「だけど、もし誰かに危害を加えようものなら、今度は容赦しないからな」

「う、うん……! 勇者様バンザイ!」

「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」

「勇者様サイコー! イケメーン!」

「……そ、そうかな、ちょっと照れるな」

 なんて少し目を離した、瞬間。

「勇者のバーカ」

「は?」

 ネロスの目の前で「うわっ」小さな光の玉が爆発し、目くらましをくらった。

 その隙にルター三兄弟は脱兎の如くネロスの脇をすり抜けて逃げ出した。

「バーカバーカバーカ!何がイケメンだ!お前なんか中の中だよ〜!」

「街の中に一人ぐらいいる平凡顔〜」

「平凡顔〜」

「だ、誰が平凡顔だ!!

 ちくしょう!待て!!」

「誰が待つかってんだ〜!

 魂の汚い勇者め〜! ははははは!」

「っ……」

 慌てて追おうとするも、なんだかルター三兄弟を倒すやる気も起きず「はあ……」ネロスは彼らを見逃した。

 だが、それから数秒後。

 ルター三兄弟の舌の根の乾かぬうちに……。

「穀潰し共がああああッッ!!!」

「「「うわああああああんんん!!!」」」

「あららら」

 出口の方へ向かった筈のルター三兄弟が何故かネロスのいる奥の方へ涙目で戻ってきた。

「報・連・相も出来ねぇのか!ガキ共が!

 この鉄鉱山を占拠しておくことがどれだけ重要なことか分かっていないようだな!!」

 そして、武装した熊のような大柄な魔物がルター三兄弟を追い詰めるように坑道内へ入ってきて

「てめぇか……勇者とやらは」

 ネロスと鉢合わせし、岩をも噛み砕きそうな強靭な牙を挑発的に見せびらかした。どうやらこのクロー鉄鉱山を統括していたのは中にいた魔物ではなく、外から様子を監視していたこの魔物らしい。トトリの街を牛耳っていたヤンゴンという奴と同レベルの魔を放っている。

「バーブラ様はお前のことをえらく買っていたが……ふん、どこの街にでもいそうなガキじゃねぇか」

「誰が平凡顔だ!」

「そこまでは言ってねぇだろうが」

「勇者ぁ!助けてくれぇ〜!」

 ルター三兄弟はネロスの背後に回って「あ、おい、ちょっと!」彼の両腕と首にガッシリとしがみついた。

「しがみつくなよ!邪魔だって!」

「よーし!そのまましがみついてろ馬鹿兄弟!

 お前ら諸共勇者をぶっ殺してやる!」

「「「ひぃ〜〜〜!!!」」」

 悲鳴をあげたルター三兄弟はより一層強くネロスにしがみつく。ガチガチに震えているところから、作戦というより本心(恐怖心)からのようだ。

「くっ、そ!邪魔ッだなあ!!

 無理矢理引き剥がすよ!?」

「初めて存在が役に立ったなクソ兄弟、喜んで死ね! 勇者を道連れにしてなああ!!」

 魔物の巨躯な肉体から放たれた強烈な一撃は、ネロスたちを弾き飛ばしつつ坑道を破壊、彼らを大量の土と岩で生き埋めにした。

「手応えはあったな」

 確実に硬い骨に当たった感触。頭を直撃した筈だ。いくら勇者とはいえ人間。頭部を激しく打ちつけ、数トンに及ぶ土と岩で生き埋めにされればただでは済むまい。

「しっかし、またこの坑道を瘴気で満たす為に魔物共を調達してこなければならんとはな……面倒く」

「おい」

「!?!」

 魔物がその声に振り返るよりも先───白銀の剣が魔物の肉体を斜めに真っ二つに切り裂いた。

「ばっ、ばか な ッ」

 魔物の目に最期に映ったのは、土に汚れた勇者のこめかみ、僅かに血が滲んだだけの掠り傷だった。

 パァ……、と、魔物の肉体が消滅し、聖剣の力で浄化された青白い魂は、瞬く間に掻き消えていく。それを確認してからネロスは武装を解除し、こめかみをすりすりと撫でた。

「いってぇ……流石に直撃は舐め過ぎてたか」

 聖剣を腰帯に提げ、ネロスはルター三兄弟を土の中から掘り起こす。

 助け出された彼らは呆気にとられたように目を丸めていて、ぽかーんと口は開けっ放しになっていた。勇者が掠り傷しか負っていなかったから、そして、自分たちが無傷でいたからだ。

「相手が雑魚だったから”庇ってあげた”けど、それでも直撃受けていたら君たち死んでたよ」

 魔物の攻撃がネロスたちにぶつかる瞬間、魔物が放つ魔力の矛先を、ネロスは全て自分が引き受けることでルター三兄弟への被害を最小限に抑えていたのだ。

 ルター三兄弟のうち帽子を被った一体は、気恥ずかしそうに俯きながら小さく呟いた。

「ゆ、勇者……」

「うん?」

「あ、ありがとよ……」

 魔物に感謝されるなんて複雑な気分だな、と、頭を掻きつつも、ネロスは笑みを浮かべた。

「人里から離れて三人仲良く暮らすんだよ」

 と、言った矢先……。

「「「お礼のプレゼント!!!」」」

「ん?」

 ルター三兄弟はネロスの前に、人並みに大きい、今にも爆発しそうな熱の塊を置いて走り去っていた。

 所詮は魔物……懲りない連中である。

「ギャハハハ! 俺たち三人で作る最強魔術をくらえ〜!」

「火炎の炎魔術をギューギューに圧縮したぜ!」

「ドッカーン!するよ〜!」

「……こういうときはなんて言えばいいの、ベラ。

 おきゅーをすえる、ね。わかった」

 パンパンに膨れ上がる巨大な熱球を抱えたネロスは

「ふんっ!」

 軽く助走をつけて真っ直ぐと投げつけた。

 勢い良く飛んでいった熱球は、容易にルター三兄弟の足に追いつき

「「「え?」」」

 バァアーンッッッ!!!

 大きな破裂音と共に情けない三兄弟の断末魔が響き渡る。その声はみるみる遠ざかっていき……消えていった。

「うん、そうだね、ベラ。僕もそう思う。

 魔物は人より丈夫だから、どうせ生きてるだろうさ」

 パンパン、と、手で全身についた土汚れを払い落とし

「さて、グラッパたちの元へ帰ろっか」

 ネロスはクロー鉄鉱山を後にした。


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