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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第三部
143/212

第62.5話 報い



 その男はある日、顔と声を失った。

 両手両足を氷で固められた後、強烈な雷魔術を直に受けた顔は焼け爛れ、喉はくちゃくちゃに潰れたのだ。

 当時、男は死んだと思われていたが、霊安室で偶々彼の腹心が男の幽かな心拍を聞き取ったことから、男はギリギリのところで息を吹き返した。


 だが、その男は元の地位に戻ることはできなかった。彼の腹心以外、彼をその人と信じてくれなかったからだ。

 魔王復活時の動乱でいなくなった女神に男は助けを求めた―――或いは、今までの献身への対価を求めたのかもしれないが、女神が男の願いに耳を傾けることはなかった。


 男は女神が沈黙する度に身を削り、冒涜的な魔法陣を描出していった。神をも呑み込むとされる破壊物の術式を、己の身に刻みこむことで女神への依存を乗り越えようとしていたのかもしれない。腹心がやめてほしいと頼み込んでも、男は聞き入れず、自傷行為に及んだ。

 そして―――男の身に、破壊物の術式が完成した日のこと。

 彼の前に、女神が現れたのだった。

『長き苦痛でしたね。あなたの信仰はすくわれる』

 その言葉を受けたとき、男は人目もはばからず涙した。

『その力を持って、魔王の主導権を奪いなさい』

 男は女神の指示の内容を吟味することはしなかった。長く沈黙を貫く女神に対して疑心暗鬼になっていた分、反比例するよう盲信的になっていたのだ。


『あなたの働きに期待していますよ、ジュスカール』

『仰せのままに、我が女神よ』



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