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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第三部
138/212

第60.5話 色

「大丈夫か?」と、心配する魔王の声に

「うん」と、ソファの上で目覚めたマイティアは短く返した。

 しかし、彼女はぐったりとして、起き上がらない。ゆっくりとした深呼吸を続け、隈の濃い目を幾度か瞬き

「ネロス、少し、いい……?」

 マイティアは静かに切り出した。


「ずっと頑張ってたんだけど……、私の身体……そろそろダメみたい」

 魔王は既視感を覚えた。それでも彼の胸が軋む。それが現実に言葉として出されたことがひどく冷たく、魔王の心に突き刺さった。

「ただ、あなたに会いたかっただけなのに……運命って残酷なのね」

「…………。」

 記憶を失ってから、自分マイティアの日記を頼りに探してきた“勇者”。

 その勇者が、魔王の魂を持った死霊だった。その事実をちゃんと受け止め切る前に、怒涛のように事が進み、マイティアたちは袋小路まで来てしまった。

 重傷を負ったホロンス、バーブラだったルーク王子、魔王に仕えると言うゼスカーン。木彫りの人形のまま行動制限のあるベラトゥフ。頼もしくも心許ない彼らとこれから何をどうしたらいいのか? 魔族は皆殺しになり、神国はレジスタンスの手に渡った。魔物の姿をしたバーブラ(ルーク)と魔王を連れて何処に落ち着けるというのだろう? 否、世界から“敵”とみなされている魔王とバーブラのことだ、誰に危害を加えてしまう前に人知れず術者マイティアたちと共に滅びるのが“正しい”のかもしれない。

 いずれにせよ、頼りになるのは魔王の予知夢だろうが、魔王は寡黙かもくなままで、未来のことを誰よりも知っているはずなのに話さないでいる。もしくは、話したくないのだろうか。


「ネロス……」

 すっ……と、血の気の失せた細い指が魔王の強張った頬骨に触れる。

「魔に包まれた魂の奥で……私の冷えた心を温めてくれる、優しい光が見える」

「ミト……」

「例えあなたがどんな姿でも……私にとってはあなたがただ1人の勇者なの。

 だから……最期まで……、……」

 魔王の頬に触れていた手がすっ、と、羽根のように落ちる。

 魔王はその手が落ちる前に手に取り 


「ミト、君はまだ“生きられる”んだ……」


 まるで祈り縋るように握りしめ、魔王は無責任な言葉を発した。

 魔王の予知夢が描いた断片には、彼女の選んだ未来が示されていた。彼の導く未来に、彼女は“いる”。それは確かになるだろう。だが、それは選んだ結果でしかない。選ぶ権利は彼女にあるのに。

 魔王の言葉に、マイティアは驚く様子を見せなかった。既に覚悟を決めているのだろう。


「……これが最後になると思うから……。

 ねぇ、ネロス……我儘を叶えてくれる?」


 彼女は薄らと笑っていた。

 雪のように真っ白で、触れたら溶けて消えてしまいそうな頬に無骨な指骨が触れると尚、無垢な笑みを浮かべた。


「私はこの魂を捧げる……魔王の罪を、共に贖うために……」


「……マイティア」


「嗚呼……愛してる ネロス

 あなたの魔さえも……私の肺を温かく満たし

 あなたの呪いさえも、熱い抱擁ほうようのよう……。」



「報われなくても構わない……だからせめて」




「ネロス

 あなたの色で、私を穢して」



 拒む理由など、彼にはなかった。

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