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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第三部
136/212

第59話③ 分岐点



 木彫りの人形から突如実体化した、8番目の女神、ベラトゥフ。

 その登場に、神官兵たちは慌てて跪いた。


「ベラトゥフ様?! め、女神様ですかっ!?」

「そうよ豚の角煮たち!」「ぶ、豚の?」

「正真正銘、8番目の女神ベラトゥフですとも!」

 わぁ、と歓声が上がりかけたその瞬間

「惑わされるな!」

 ジュスカールが慌てた様子で声を荒げた。

「本物の女神が人形などに身を宿したりしない。これは偽物だ!」

 これにベラトゥフが素っ頓狂な声を返す。

「ニ・セ・モ・ノぉお?! こんなキャラの濃い奴の偽物が作れるもんなら作ってみなさいよ!」

「い、一理ある」

「しかしジュスカール様が偽物とおっしゃって……」


 混乱する神官兵たちの隙をつき

「早く逃げなさいよチャーシュー麵

 この身体じゃ持っても1分が限界よ」

「なん―――」

 ベラトゥフは早口に戸惑うルークの背中を押した。

 どう見ても彼女はホロンスと似た容姿で、血縁関係を思わせる。これにホロンスは驚愕したまま言葉を失くしている。

 時間が許すなら問い詰めたい、そんな気持ちを押して、ルークは突如現れた彼女の正体を尋ねることもなく、背を向けて走り出した。


 ルークが走り出すと、混乱していた神官兵たちは武器を握り直し

「八竜信者を逃がすとは」「やはり偽物か!罰当たりな!」

 女神ベラトゥフ目掛けて刃を振るった。

 だが、その刃は皆、彼女の鼻先でカチリと止まり、動かなくなる。

「うぐぐっぐああ!」

 銀の武器を通じて、それを握る神官兵たちの腕が突然凍り付いたのだ。

「無彩色の魔力がっ、無力化されたのか?!」

「種を明かしてあげるほど優しくありませんよ」

 肘までガッツリと凍り、動けなくなる神官兵たちの横から

 スッ! ナイフが空を裂いて、回転し追尾。再びベラトゥフを狙うも、パシッ、と、空中でキャッチされる。

「チッ、意外と動けんのかよ」

「肉弾戦がお望みならその方が節約になるわ、キャンディちゃん」

「舐めやがって!」

 ベルビーのナイフが何十本と空を舞い、それぞれが意思を持ったかのようにベラトゥフを襲う。

 だが、ベラトゥフは握った一本のナイフと体術で次々に躱しながら撃ち落としていき

「ひっ!?」

 隙間に放った細い氷柱の氷魔術がベルビーの眉間を狙うも

 パキン! 氷柱の氷魔術は大剣の刀身に阻まれて塵と消えた。


「いつ見ても美しい魔術ね、ベラトゥフ」

「あらどうも、お褒めいただき感謝するわ。だけど知り合いだったかしら?」

「…………。」

 グランバニクはベルビーを下がらせると

「!」

 息つく間もなくベラトゥフの懐まで接近し

「  」耳打ちをして

 大剣を振るった。


 ベラトゥフの銀髪を掠って空を切った大剣が、ビキビキ、と凍り付く。だが、他の神官兵と違って、グランバニクの腕は凍らなかった。彼の身体は予め、魔法障壁を腕に集めていたからだ。

 氷の棍棒と化した大剣を振るう隙をついてくるベラトゥフに体当たりし、体格差で吹っ飛ばした彼女へ大振りの一撃をかます。だが、その一撃は――――「あっ」。

 ポッ。

 ベラトゥフは、手のひら大の木彫りの人形に戻ってしまったことで、空振りに終わった。


 地面に落ちるひび割れた木彫りの人形をグランバニクが拾おうとしたとき

「にゃおん」

「む!?」

 黒猫が木彫りの人形を掠め取り、走り去ってしまった。

「……してやられたか」

 その言葉の割には、グランバニクは黒猫を追おうとはせず、笑みを浮かべていた。




 ホロンスの目に映ったのは、あまりに“懐かしい”背だった。

 自分とほぼ同じ容姿をした、女性のスノーエルフ。見間違うはずなどない。

「姉貴……っ」

 魔王復活時の動乱で、他の女神と共に滅ぼされたとばかり思っていた、姉ベラトゥフの魂が存在していたことに、彼は驚きを隠せなかった。自分が重傷を負っていることなど忘れて興奮するほどに。


「あれはお前の姉だったのか」

「ルーク様、俺も姉貴もあなた様の部下だったんです」

「俺のことをチャーシュー麺と言ったあれがか?」

「あれがです」

 信じられないという顔をするルークに、ホロンスは尋ねた。

「ところで、あの人体人形ホムンクルスはどこで?」

 任意の依り代に魂を宿らせる人体人形なんて早々作れるものじゃない。この手の錬金術の使い手と言えばホロンスの脳裏には一人しか浮かばなかった。

「あれは魔王から貰ったものだ。俺ではない何者かの分岐点になるとか言ってな」

「魔王が? 分岐点……」

 思い浮かんだ人物とは違う名前を出されたが、魔王とマイティアが繋がっていることを考えれば、“魔女”からの贈り物であることはなんとなく察しがついた。


(姉貴の魂は残っている……ただ、人形を依り代にしていたってことは、肉体がないってことだ……)


(肉体が……あれば……賢者が戻る……)


 ホロンスは力の限り拳を握りしめた。己の役目を理解したかのように。


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