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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第三部
129/212

第55話② 神都の戦い


 一方、その頃。


「ハッ! 強い敵は大歓迎だ!」

 興奮気味のワドはグランバニクと敵対していた。

 互いの鎗と大剣が火花を散らし、誰も横槍を挟めない熾烈な戦いを繰り広げていた。

「ロウ・グランバニク! その名覚えたぞ!」

「好きにしなさい戦闘狂め」

 グランバニクの低姿勢から振り抜かれる大直剣はまるで曲刀のような撓りを見せながらワドを襲うが、その勢いは鎗の柄をギャリギャリと滑るように削り、勢いが殺される。

 一転、大剣を鎗で掬い上げたワドは、手ぶらになったグランバニクに容赦なき突きを見せるが、巨躯の見た目に反して俊敏なグランバニクの脇を鎗はすり抜けた。

 フォンフォンと空から振り降りる大剣を手に取り様、横薙ぎに払われる鎗と再び激突し、今度はワドの握っていた鎗が弾き飛ばされる。

「これで終わりよ!」

 ワドが丸腰になったその隙、グランバニクはワドの首を一刀両断した。

 しかし

(なんだこの手応えのなさは)

 頭と胴体に分裂したワドの鎧からは出血の類は見られず、ただ青い炎だけがゴウと音を立てて燃え上がった。

「残念だったな!」

「!?」

 ワドは頭と胴体を分裂させたままそれぞれを自立させ、転がった鎗を取りに行った。

「この俺を倒したお前には、俺の真の姿をお見せしようじゃないか!

 パージ!」と唱えると、ワドは頭、胴体、四肢の6つ分に分裂した。

「この俺の本体は炎だ! この炎消えるまで俺は死なんのだよ!」

「何よそのハチャメチャな身体は」

 頭と胴体、足からは炎の刃が生まれ、両腕はそれぞれ浮遊しながら器用に鎗を振り回す。

「最初からこの姿でやるとつまらないんだよ。

 蹂躙してしまうからな」


 炎を消す方法にも思いを巡らす暇などなく、六方から迫る攻撃にグランバニクは徐々に削られていった。

「卑怯とは言うまいな、これでも操作も難しいんだからな」

「ぐっ」なす術もなく膝をつき、グランバニクは息を荒らげた。

「言い残すことがあるなら聞いてやろう」

「隠し玉を持っているのがお前だけだと思うな……!」

 懐から銀色のネックレスチェーンを引き千切ると、グランバニクは

「月に咆えよ 我が狼」と唱えた。

 すると、突如彼の骨格がバキバキと音を立てて変形し始め。全身を真っ白な毛が覆った。頭は細長く口先は尖り、肉を切り裂く牙と鋭い爪を生やした異形が生まれた。

「獣人だと!?」

 それは人と狼が組み合わされたかのような見た目をしていた。

「グランバニク家は、ゾールマン家の分家。

 獣の血を引く者だ!」

 獣と化したグランバニクは強靭な腕で大剣を振り回し、風を巻き起こしながら四方八方から攻撃してくるワドを遠ざけた。


(これはまずいな……! 四肢の炎が消されかねない勢いだ)

 ワドの身体は炎が本体であり、鎧は炎を保つためにある。そのため、強い風に晒されたり、水をかけられたりすると、炎が消えてしまう。だから、鎧をバラバラに分解するパージは身を切る技でもあった。

 グランバニクがワドの手足の炎が少しずつ弱まっていたことに気づいていたかどうかは定かではないが、大剣(巨大な団扇)が巻き起こす風は、ワドにとって殺人的であった。

 それでも―――。

(だが、俺といえども二度も引かぬ!

 コイツは此処で殺す!)




 ロロベトの緊急通報からレジスタンスの襲撃場所へと向かったホロンスの耳に、ロロベトから新たな追加情報が与えられた。

「レジスタンスが誘導作戦を行っているかもしれん! 怪しげな連中が地下大空間に降りて行っているのが見える! ホロンス急げ!」

 モルバノと神都には神期の時代に作られたとされる下水処理施設、地下大空間が存在している。その施設を通れば、モルバノから神都まで検問も通らずに入り込めてしまう。

 ただ、この男にかかれば、迷路のような地下大空間をネズミの如く這い進んだとしても、その小賢しい知恵を捉えるのも容易いことなのだ。

(相変わらず感知範囲が桁違いだな、ロロベト……)

 ロロベトはいつも、バーブラの横に立って小さく収まっている、老いぼれた亀のような、一見弱そうな魔族だ。その見た目通り、戦闘はからっきしだが、彼の真骨頂は丁寧に編み込まれた感知魔術と、それから得られた情報を皆に伝える伝文の雷魔術だ。

 彼の感知範囲は神都中を網羅している。その他、彼と同期できる魔族がいれば、その分だけ範囲を広げられる。そのため、ロロベトは一時期、神国全土からトトリまでの監視役として猛威を振るっていたのだ。

 だが、ネロスたちとの戦闘でトトリにいる連絡役は死亡し、レジスタンスとの戦闘で、神国南部のユイフォートやエストの連絡役も生死不明となってしまった。

 それでもまだ、バーブラたちの迅速な連携には、彼の役割はとても重要だった。


 ロロベトに促されるまま地下空間へと降りてきたホロンスは、怪しげな連中が向かう方向に待ち構えるように移動し、そして、遭遇した。

「!!」

 現れたのは―――三人の覆面に守られた、一人の男。

「ジュスカール……ッ!!」


「はて、“何処かで会ったことがありましたかな”?」


 道を塞ぐように現れたエルフに対して、三人の覆面は戦闘態勢に入るが

「殺生は最低限にしなさい」と、ジュスカールは彼らを制した。


「私たちは救おうとしているのです。バーブラによって不当に占拠された町を。

 そして、バーブラたちすらも、救おうとしているのですよ」

「なんだって?」

「バーブラたちは魔族、つまり、魔物化の変性術をかけられた人々。

 その解呪の術式を、私は持っている。大女神から賜った大切な術式なのです」

 ホロンスは目を丸くした。最初は嘘だと思った。それと同時に、疑念が生まれた。

 魔王がわざわざ動かなかった理由。そして、現場に駆けつけるホロンスの背中から感じた凶悪な魔力の圧と耳を劈く雷魔術。

 大女神テスラは、雷魔術を得意とした賢者だったという。

 もし、大女神テスラが何らかの方法で干渉してきているのなら、レジスタンスに対して何か切り札を用意させていてもおかしくはない。それが、魔物化の変性術の解呪だとするなら、ホロンスにとっては“大歓迎”ではあった。

 だが、ジュスカールを信じるなど、ホロンスにはできなかった。


「20年前、15月、豪雨の日、俺は、神都へ帰る途中のあんたを殺した。

 お供のゼスカーンと一緒にな。

 それなのに何故、まだ生きている?」


 そう問いかけると、ジュスカールの顔は一変し

「そうか……そうですか、あなたなのですね」と、苦虫を嚙み潰したような顔をして

「誠に残念です。魔物でないのなら話せばわかると思っておりましたが、その次元にいるべき相手ではないらしい」

「その点は同感だな」

 ジュスカールは覆面たちを制していた手を振り払った。



『自分の心配をしたほうがいいぞ、ホロンス』


(四対一か……確かにキツイな)

 魔王からかけられた言葉を噛み締めながら、ホロンスは冷気を拡散させた。

 相手は封印術使いだ。魔術師を黙らせる沈黙の封印術を範囲魔術として使われれば、詠唱法は封じられる。徒手戦にもつれこんだら多対一、勝ち目は薄い。

 だから、彼は“魔弾術”を使った―――。

「!?」

 パンッ! 不意をつく先制の一撃。 指の爪サイズの氷の粒が高速で飛び、覆面の一人の脳天を貫いた。

(これで三対一)―――覆面の一人はジュスカールを庇うように位置し、実際は一人がホロンスの方へと飛び出してきた。

 挨拶とばかりに沈黙の封印術が唱え、詠唱法の使用を禁じた。ただ、魔弾術は詠唱法ではなく、組成法だ。ホロンスを捕えなければ彼の魔術を防ぎようはない。

 パンッ! 揉み合う中で覆面の胸を貫く一撃。それは心臓を避けたが、行動を止めるには十分すぎる威力だった。

「どうしたこんな程度か?」

 人に使うなと口を酸っぱくして言われてきた殺人殺法を使っているとはいえ、あまりに手応えのないさまに疑問符を浮かべていると―――。

 がしっ! 何かがホロンスの足首を掴み、そのまま彼を押し倒した。

「!?」そいつは、胸を打たれた覆面ではなく、脳天を貫いた―――即死のはずの覆面だった。

「彼らは確かに少し鈍いですが、不意をつくのは上手いんですよ」

「まさかお前―――最初から!」

「死霊術というのは、実に危険で便利な能力です」

「ぐっ」三人の覆面に覆い潰されるホロンスに、ジュスカールは勝ち誇って言った。


「これは大義なのです。

 そのため、多少の犠牲は止む無しと私は考えます」


 そして、ジュスカールは一人で地下大空間を進んでいき、神都、大神殿の真下で、羊皮紙いっぱいに刻み込まれた術式を広げ、起点となる魔力を流し込んだ。


「これで神国は元に戻る!

 大女神万歳!!」


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