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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第三部
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第55話① 神都の戦い


 オリハルコンの大剣が地面すれすれに滑り、独りで魔王の足元から切りあげる。魔王の膝から胸骨をガリガリガリと削った大剣は、振り上げた勢いそのまま回転して、横薙ぎにマイティアを狙う。

 ガリィ! 魔王の真後ろに立つマイティアを庇って魔王の右手と大剣が衝突し、暴れる大剣を掴んで止めた直後―――ビュン! 高速で駆け抜ける雷の鑓、雷鎗の雷魔術がマイティアを一直線に貫こうとして、魔王の魔法障壁にギリギリ搔き消された。

 圧倒的な実力を持つ術者によって命を狙われている感覚に、マイティアは生きた心地がしなかった

「ずいぶんな挨拶だな、テスラ」

「オリハルコンの大剣に切られて無傷だなんて、相変わらず意味が分からないわね、骨だけのくせに」

 ラタの口から出るのは、女性の言葉だ。そして、魔王はテスラと呼んだ。あの大女神の名前を。マイティアの疑問が幾重にも浮かぶが、その問答をさせて貰える余裕はなかった。

 すぐさま雷鎗の雷魔術がマイティア目掛けて放たれる。それを魔王が庇いながら、ガキィン! 魔王の手から離れた大剣による重い斬撃も半自動で振り下ろされる。ラタ(テスラ)はその様を見ているだけだ。


「ミト、あいつ(ラタ)は今、テスラによって操られている」

「操られている?」

「あいつは死霊だ。私が一度殺し、テスラが勇者の死霊術を使い蘇らせたのだ。

 私を封印した時代からそのまま、あいつが君に教えた通り、変な場所で数百年眠っていたのだろう」

 ラタは死霊だった―――だから、地竜遺跡の臨界による時差の影響をもろに受けることがなかった。

 だから、マイティアの聖樹の魔力の砲撃を掠めた傷が大きく抉れ、未だに治り切れていなかった。

 だから今、“術者テスラ”による支配を受けているのだ。


「今度は何にご立腹なのだ?

 エバンナを殺し損ねたことへの腹いせか? それとも、王族への私怨か?

 カタリの里まで殺しに来たことを恨んでいるのか?」

「全てによ」

 次々に炸裂する魔術の爆発音に負けないハッキリとした声で、テスラは怒りを露わにした。

「ようやく酒飲みが目を覚ましたというのに、この有様とは。浮かばれないな」

「わかった気にならないで」

 雷獣の雷魔術で生み出された雷の猛虎が魔王に飛び掛かり、視界を覆い隠すうち魔王の背中側に転移した大剣がマイティア目掛けて飛ぶ。

 ガギィンッ! 魔王の魔法障壁を貫いて彼の腕に当たり撥ね返る大剣に、マイティアは声も出せずに腰を抜かした。魔王が守ってくれなければ大剣が彼女の頭を貫き、即死だったろう。

「ミト」

 そんなとき、魔王からマイティアを呼ぶ声がした。

「手加減してどうにかなる相手じゃない」


 鼓膜を破ろうとしてくる雷撃の嵐の中、悩む時間などなかった。


 バキバキと音を立てて魔王の骨格が太くなり、マイティアの二回りほど大きくなると「ちっ」雷撃の嵐を呑み込むように霧散させた。

「大丈夫だ、私が君を守る」

「ネロス……!」

 リミッターを外された魔王はマイティアを抱え込むように空いた腹の内に収め、次々に繰り出される雷撃を魔法障壁で封じ込め、その魔を吸い込み強大化していく。

「滑稽なのよ。化け物のくせに」

 テスラ(ラタ)は魔術による応酬を止めると、オリハルコンの大剣を魔術で浮遊させながら飛び出してきた。


 テスラにあったのは一糸乱れぬ殺意だった。

 術者であるマイティアを狙い続けるが、それを魔王に阻まれる。しかし、魔王はマイティアを守るのに必死で、攻撃に転じることができなかった。

「口は達者だけど防戦一方じゃない」

「どう、してっ―――今の今まで姿を現さなかったあなたが!」

「あなたと言葉を交わす気はないわ」

 バヂィィイン!! 魔王の魔法障壁を貫通した招雷の雷魔術が魔王とマイティアを襲い、二人はその場に膝をついた。魔法障壁のお陰でかなり威力が抑えられた筈なのに、マイティアの膝に力が入らない程の威力があった。

 テスラは勝ち誇ったかのように追撃の魔術を準備していたところで「……らしくないな」という魔王の言葉に、頬を引きつらせた。

「なんですって?」

「お前はもう少し理性的だったんだがな。

 更年期障害か?」

「楽に死ねると思わないことね」


 だが、そのときだ。


「!?」

 テスラに向けて毒の膜が展開し、彼女の視界を塞いだ。

(毒魔術?! 一体誰が)

 魔王は封印術以外の魔術を使うことができない。では、あの王族か? いや、あれに毒魔術なんて野蛮なものを学ぶ機会はなかったはずだ。

 次々に迫りくる酸の毒魔術を避けながら、毒魔術が放たれる方向に雷鎗の雷魔術を放つと「おっ、と」そいつはお茶らけた様子でテスラの一撃を避けた。

「お前は……っ!」

「俺は部下を犬死させるのはあまり好きではなくてな」

 現れたのは、バーブラだった。

 彼が、腰を抜かしたまま動けないマイティアを抱えていた。

「どうしたテスラ、先読みが甘いんじゃないか?」

 マイティアの下から離れた魔王はテスラに飛び掛かり、テスラの魔術たちを自身の強大な魔法障壁で呑み込んだ。こうなれば徒手戦にもつれこむ訳だが「くっ」魔王の魔法障壁のせいか、死霊術の支配が鈍く、魔王の手が容易くテスラの首にかかった。


「未来予知は、その力を持つ者同士が接近すればするほど狂うものだ。

 このままラタを殺させたくなければ───」

「主導権があなたにあると思ってるだなんて甚だ心外だわ」

 首根っこを掴まれても尚、テスラは強情に魔王の言葉を遮った。この女はどんな時でも強情なだけだと魔王は疑わなかったが───。


「何の音だ?」

 徐々に大きくなっていく地響きの後、それは突然、空に映し出された。



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