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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第二部
105/212

第46話 邂逅(かいこう)



 天を穿うがつ青々しい巨木。

 天上天下唯我独尊。威風堂々たる発芽の様を読んだ句に恥じぬ。

 これぞ世界樹。新たなそれが、古城レンス・タリーパを食いつぶし、ナラ・ハの森に君臨した。


 そんな手前―――樹根の竜の繭から登場した、妖しき人骨。


 “ソイツ”は再び、かつてと変わらぬ姿で、この世界に顕現したのだった。


「マイティアちゃん……会いたがっていた勇者っての、まさかさ……いや、そんなことねぇよな?」


 ただ、以前との違いは、ソイツの“傍”に女がいることだった。

 ずっと、ラタが守ってきた、可愛らしい女性だ。

 複雑な事情で記憶を失くし、頼れる身寄りも伝手つても大してなく、記憶を失う前の自分が書き記していたという形見の日記の中の男に会いたいのだけれども、世の中は一人の女性には厳しすぎるから……ラタは、彼女の味方をすることにした。

 彼女の名はマイティア。そして、フォールガス……王族だった。

 ラタの兄、ハルバートの子孫で―――。


 つまるところ―――罪深き”四人の王”の、血族だ。



 マイティアは、ラタの動揺に複雑な表情を浮かべつつも、彼の問いに頷いた。


「いや、待てよ、待て待て

 どう見たって死霊、だし……死霊術、だよな?」


 会いたがっていた男、それが本当だとしてもだ。

 少なくともソイツは骨だ、尻尾もあるし。生物じゃない。死霊だ。


 意味がわからない、わからないってもんじゃない。理解し難い状況だった。

 マイティアは良い子だ。間違いなく善い子だ。たった一月弱の同行だったが、ラタにはわかる。若いのに倫理観もある。正義感もしっかりしている。王族の血は争えない、正しさも扱える人間だ。

 死霊術が、罪であることを、悪であることを理解できないほど幼いはずがない。



「そいつは―――魔王だぞ」



 万が一、いや、かなりの確率で知らない可能性が、ある―――そうだ、その可能性が残っていた……ラタは、ほんの一握りの希望(逃げ道)を抱いた。


 さてはて、ラタは人骨を魔王だと明かした。知りませんでしたと泣いて謝って今後を話し合おうじゃないか。

 魔王が、人類の敵だって流石にマイティアはわかっているはずだ、だってそもそも―――。




「知ってる」



「───知っ、てる、だ……?」





 王族が、今 また


 ”同じ過ち”を 繰り返そうとしている。







 ガシ ャ ァ ア ン !


 ラタの振るったオリハルコンの斧が、“マイティアを守る魔王の左手”に阻まれて粉々に砕け散った。

 武器を失い、八竜魔術を二回も放ったせいで魔力もほとんど回復できていない。今、反撃されたら殺される。

 絶望の底で、ポキリと膝が折れる音がした。


 だが、魔王は襲って来る気配はなかった。ただ、術者マイティアを守るように構えているだけだ。


「するってーと俺は……。

 魔王を勇者と信じるお姫様を守って来たってのか? え?」


挿絵(By みてみん)


「……騙す形になってしまったのは謝るわ」

「騙す? 騙すだって?───わっはっはっは!

 何を言っているんだ?」

「私も……彼が魔王であることを、後から聞いて知ったの」

「だから、知って……知ってどうしてそうなるんだよ!」


 フードに隠れて、マイティアの表情は見えにくい。


「死霊術は! 人の!魂を穢す術だ! わかるよな!?

 自分たちの利権のために誰かの魂をひずませ利用する! それが罪だとわからないほど!お前さんはバカじゃねぇだろうがよッ!」


 一瞬……フードの下で、唇を噛む顔が、ラタの目に映った。


 ───話は通じる───今なら

「私は……」

 ───今度こそは───。

「彼と―――話、を 」


 互いの意識が強固に向き合っていた……そのとき!

「「!?」」


 突如、バチッ! ラタとマイティアの首に痛烈な電撃が走った!

 意識が吹っ飛ぶ激痛に

「  」マイティアは声も出せずに両膝を着き、四つん這いになった。


 何処からともなく現れた純白の装束に金色の刺繍───神官兵が

「そ、れは―――!?」

 何の説明も名乗りもなく、黒光りする石板を掲げ唱えた。

「「「魂よ 封ずる―――」うち二人の頭が、刹那せつなのうちに魔王の手で刎ね飛ばされながらも

「───ネ ロス っ」

 魔王の体から煙のようなものが出て、しゅるるるる、と、音を立てて魂が石板に吸い込まれていく―――。


「テメェら誰だゴラァ!」

「ぐっ!」

 しかし、電撃からあっという間に復帰したラタが残った一人の手を弾き、黒い石板が空を舞う。

 プツッ、と、千切れた魔王の魂。魔王はその場に片膝を着く。

 マイティアを捕縛しに向かって来る他の神官兵を、ホロンスが足止めする横で。

 舌を嚙み、意識を失うのを堪えたマイティアが、魔王の許へい寄る―――。


「私、は……時、間が、欲し、い の」

「!?!」


 そして、ラタの目の前で

 魔王は―――マイティアを ギュッ……と、抱き寄せた。



( なん だ ? )


 ラタは、神官兵から石板を奪取し、取っ組み合いになりながら、頭の中が真っ白になってしまった。

 死霊は―――満たされる事のない激しい飢餓きがで魂がさいなまれ、生前どんなに相思相愛でいたって死霊術師を殺して”楽になろう”とする筈なのに。

 二人は抱き合ったまま、ぽぁ……と、淡い、虹色の光を放っていた。聖樹の魔力で中和された魔王の無彩色の魔が、僅かな色味に分解し―――あらゆる魔術を封じてしまう魔王の魔法障壁が解けたかのようで……。



 まるで本当に―――”愛し合って”いるかのようではないか。



 ラタが神官兵と睨み合っている隙、別の神官兵を退けたホロンスが

退くぞ!」と、二人の傍に近付き、転移魔術を唱え始める。


 それに気付き、慌てて止めようとするラタを

「つまんないことすんじゃないわよ」

「ぬあにぃ!?」

 レキナが幻惑術で足止め―――。


 そして―――ホロンスは、マイティアと魔王を連れて消えてしまった。


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