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クゼルバイク国史 リルフィナ騎士姫伝  作者: アル・ソンフォ
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第3話 父王との面談

クゼルバイク第六代国王ジェンドル・ヴァス・ハウフクレツは苦虫を潰したようなそれでいて諦めにも似たような表情をしつながら執務机に頬杖をついていた。

国王は目の前に直立不動の姿勢を保って立ち続ける一人の若者を見る。短めに切り揃えられたダークブラウンの髪を有するその若者の締まった表情には褐色の瞳が輝いている。そして、活動的な丈の短い青を基調とした立襟の上着、白色の乗馬ズボン、綺麗に磨き上げられた皮のブーツを均整の取れた五ジート強(約一七五センチ)の身体に纏っている。まさに騎士に相応しい姿をしている。

しかし、目の前のそれはまだ騎士ではない。その若者の名はリルフィナ・リーン・ハウフクレツといい現時点の正式な身分は王女、姫君と称されるべきものである。そして、姫君といえば色とりどりの宝石や絹で作られたドレスを纏って美しく着飾り、恋だの愛だのに憧れる詩を作ったり、未だ見ぬ気高き殿方とのダンスを夢見たりするのが普通なのである。

しかし、第一王妃であるエシュリナとの間に生まれたリルフィナ王女はその身に纏うものに相応しく馬に跨り、剣を振るい、弓を射、鎧を纏うことを好み、それらのものとは無縁である。

ため息をつくと国王は、姫君というよりも正騎士に相応しく育ってしまった自分の娘に告げる。

「リルフィナ、お前を願い通り王国正騎士に叙任することとした。叙任式は二旬後(二〇日後)に行う。」、

「はい父上、いえ、国王陛下、私の剣と忠誠をクゼルバイク王国に捧げます。」

苦悩の表情の国王と対照的にリルフィナは誇らしげな表情と共に見事な敬礼をする。

「しかし、リルフィナよ。何故、わざわざ馬上剣術会に出てまで正騎士になることを願った。余はお前を姫君らしくあるよう強制した覚えはない。騎士身分が欲しかったのならあのようなことをしなくても近衛騎士団の連隊長ぐらいならば任じてやれたのだぞ。」

国王は、あの時のタフールの騎馬の民を思わせる見事な馬術と舞うかのような巧みな剣術を見せ見事優勝を果たした若い武人が自らの娘であったことを知った驚きと、勝者に与えられる恩賞として正騎士への叙任を願われた時の衝撃を思い起こす。

「父上を驚かせたことは申し訳なく思っています。」

目の前の娘からは反省の言葉が聞こえたが、その姿を見ていればあのような無茶をする前に騎士に叙任しておくべきだったと内心思ってしまう。

「全くだ。それになんか匂うな。また王宮を抜け出してアルゼス公が持っていたアレで遊んでいたな。」

「アレですか?ああ、アルゼス公がクレイア帝国から手に入れられた鉄筒のことですね。最近では、二〇〇ジート(約六七メートル)先の的ならほぼ全て、三〇〇ジート(約一〇〇メートル)なら七八割、半ファルジート(約一六五メートル)でも半分は当てることが出来るようになりました。また、その威力ですが・・・」

嬉々として異国の兵器の試し撃ちの結果を報告しようとする娘を手で制する。

「その鉄筒の話はいい。ヒューメルまでお前の正騎士叙任を認めるよう説得してきたが、兄妹二人して何を企んでいるのだ。」

リルフィナは父王の言葉に一瞬きょとんとしたが、頷くとちょっとだけ笑みを浮かべて答える。

「いいえ、父上。私と兄上の思惑が一致しただけです。私は騎士になりたかった。兄上は王太子という立場ではし難いことを気軽に頼める身近な存在が欲しかった。ただそれだけのことです。」

国王は少しだけ考え、娘であるリルフィナを見据える。

「なるほどな。そういえばその鉄筒、将軍達と異なりヒューメルは好意的に評価していたな。」

その言葉に対するリルフィナの言葉は真面目であるよう努めているようで若干の明るさがある。

「そうです。兄はその行動や判断に重い責任が伴う王太子ですが、私は所詮王女です。私が変わったことをしてもそこまでの責任は求められません。あの鉄筒がこの国に意味がなかったとしても私が試しているだけなら失敗しても問題とならないでしょう。」

「なるほどな。いままでの常識に外れること。王太子という立場では軽々に動けず、王女という立場ではできないことをしやすくするためにお前が正騎士という身分になろうとしたわけか。」

「はいそうです。父上、私は兄上を妹というより弟のような立場で支えたいのです。」

国王は、どう見ても王女というより王子のようにしか見えない娘を見て開き直った表情をし、一つだけ確認をする。

「最初にも行ったと思うが余はとうにお前を姫のように扱うことをあきらめている。男子であるレンバートをお前の学友とした時点でな。しかし、何故、馬上剣術会に出場して願いをかなえようとした。それだけは答えてくれるかな。」

リルフィナは父王の質問に対し、一息呼吸を置くと胸を張って答える。

「どうせ求めるなら与えられるより勝ち取りたかっただけです。父上」

娘のその堂々たる答えを聞き、国王は再びため息をつくのであった。


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