精霊の生贄 その2
迷宮探索ギルドの受付は、静まり返っていた。
外にいた多くの人の姿はここには無い。いつもの職員がカウンターにいる。
「久しぶりだな」
管理人のおっさんが、視線厳しく話しかけてくる。
「そうですね、色々と準備をしていましたから」
「今日は、どの迷宮に行くんだ?」
「どこにも行きません」
「では、何をしに来たんだ?」
「面倒な事はしたくありません。試練を、はじめてください」
「ほう?」
にやりと、管理人は笑う。
「ここで始めてもいいのか?」
「場所ぐらい、準備できますよね?」
「そうだな、我の名にかけて、残酷なショーを始めよう!」
次の瞬間、世界が暗転した。
「我が名は、精霊王。新世界の王の1人。精霊族を束ねる者なり!」
精霊王の声が響く。
「咎人よ、足掻いて見せろ!
管理人が、精霊の関係者と疑っていたけど、精霊の王だったとは想定内。
下手に迷宮の中でイベントが起きるよりも、挑発すればここで起こせると思ったけど、出来てよかった。
「御前試合と洒落込もうではないか!」
視界が開ける。そこは、和風の庭だった。
昔見た時代劇というものの、御前試合という偉い人の前で戦う場所が作られていた。
ご丁寧に、、観客席みたいな物も用意されている。街にいた、全ての人がいるような、広大な空間が出来上がっていた。
「侍らしい場所を用意したぞ」
大声援が巻き起こる。これでは、失敗するつもりは無いけど、絶対に出来ない。
「感謝する」
刀を抜いて、構える。
「ほむら!」
手を繋いでいた相手の姿を探す。強制的に、別の場所に移動させられている。
視界の先に、その姿を確認する。まだ無事だった。ここまでは、前と同じ。だが、今回は黒い武者が中間にいる。
前より小柄で、兜と仮面のの加減で、性別や顔はわからない。
そして、大きな弓を構えている。
「・・・」
その弓を、大きく引く。
「来い、ほむら!」
指輪を掲げて、その名前を呼ぶ。
その瞬間、精霊王の顔が陰る。予想通り、精霊王は試練をクリアして欲しいみたいだ。
このままだと、試練は失敗する。
精霊の言葉で、来いというのは、動くなと訳される。ほむらが話せる様になり、色々と確認すると、細かい部分で意味の違う言葉があった。
かなり、いやらしい設定だけど、きちんと会話をすれば違和感に気づく。
髪の毛がぼさぼさで、寝癖がついていた時に、注意したらその言葉は大嫌いと言う意味だったらしく、号泣されて困った事もある。
その結果、言葉の違いに気づけたので良かったと思う。
ほむらとは、打ち合わせしてる。精霊王の目的が知りたいから、最初は動くことなく、その場所で待つようにと。
「召喚、我が精霊ほむら!」
「はい」
そう言うと、指輪が光る。遠くにいる契約者を手元に引き寄せる言葉。
「・・・」
ギリギリのタイミングで、矢が放たれる。
ほむらは、召喚されて俺の腕の中。矢は、何も無い場所を通り過ぎる。
「・・・」
黒い武者が、こちらも向く。
これだけで、涙が出そうになる。
「むーーーー」
腕の中のほむらがむくれる。だって、仕方ないだろ?
予想通りというか、これしかないと思っていた。
「よる!」
その名前を呼ぶ。
「・・・」
反応は無い。これも、ある意味予想通り。
ここからは、考えないといけない。行動次第で、失う可能性がある。
「どうしたらいい?」
解らないことがあれば、相談すればいい。精霊の事は、精霊に聞く。
当たり前の事を忘れて、取り返しの無い失敗をしたから、慎重に。
「お姉ちゃんは、怒ってる」
「怒っている?」
一度で成功しなかったことを、怒っているのだろうか・・・。
「ちがう、よくきく」
「聞く?」
黒い武者に意識を集中する。何か小声で呟いている。そこを集中して、声を拾う。
「わたしだって、あんなふうに抱っこしてもらった事ないのに、なんであのこばかり・・・」
ぶつぶつと、よるが呟く。
「確かに,同じそんざいだけど、ずるいです、ひきょうです、くやしいです」
怒っていて、我を忘れているのかもしれない。
ただ、言葉が随分成長しているのも嬉しい。ほむらと、同調している可能性もある。
「おとうさまのやりかたは、まわりくどいです。つぎは、おとうさまですよ、かくごしてくださいね・・・」
にやりと、黒い波動を撒き散らしながら、呟く姿は恐ろしい。
どうやら、俺が思っていることと、怒っている理由は違うみたいだけど、やる事は決まった。
「問題は、どうやって謝罪するかだな」
怒っているなら、謝るしかない。
「まずは、武装解除」
手にしていた刀を地面に突き刺す。裃の上を投げ捨てる。
「白装束か・・・」
精霊王が、俺の姿を見て呟く。
「こんな事もあろうかと、かな」
上の衣装を脱ぎ捨てる事で、白装束へ衣装変え出来る仕掛けを用意しておいた。
そして、玩具の脇差を取り出す。
玩具なので、攻撃力はない。
「玩具だけど、間違った使い方をすれば、こういうことも出来るはず!」
脇差を、自分に向けて力いっぱい突き刺す。
「侍なら、これしかないだろう・・・」
激痛が、体を駆け巡る。自傷行為による、死亡は無い。システムで制限されている。それでも、痛みはある。
「ごめんね、よる」
俺の行動に、びっくりしたよるが駆け寄ってくる。
激痛のせいで上手く動かない腕で、かろうじて小さな頭を撫でれた。
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