精霊の生贄 その1
その日、新世界では不思議な現象が起きていた。
始まりに街に、旅人が集まっていた。
ただ静かに、佇んでいる。街に人が集まりすぎて、移動制限が起きるぐらいの人数が集まっていた。
住人も、それを咎める事も無く、ただ静かに見守っていた。
普段は、咎人として侮蔑していた旅人にも優しく接していた。
「外がなんだか凄い事になっているな・・・」
山羊の館から、心眼で外の様子を確認すると、凄い事になっていた。
今から俺がやる事を、外の人たちは知っているみたいだった。
「折角だから、歩いて行こうと思ったけど、覚悟を決めよう」
ある程度の情報を、外に流したので、個人が特定される覚悟はあった。
ここまで影響力があるとは、D-3達はかなり凄いみたいだ。
「準備は良いか?」
「はい」
ほむらの言葉も、だいぶ上達した。この3日、住人には6日間、一生懸命勉強したらしい。
「にへへへ」
指にある指輪を見ながら、にへらとわらう。この辺も、先輩の精霊から色々と学んだらしい。
「絶対に、守るから」
その小さな手を握る。あんな思いは二度と経験したくない。咎人の挑戦できるチャンスは3回と聞くが、3回目は無い。
出撃前に、装備を確認する。
朱色の太刀 攻撃力 40 (技 袈裟切り)
無名 改 攻撃力 25 (獲得経験値上昇 大)
脇差 玩具 攻撃力 0 (玩具)
炎の鉢金 防御力 5 (火の加護 小)
侍の裃 セット装備 防御力 20 (刀攻撃力上昇 中)
旅人の足袋 改 防御力 10 (駄洒落耐性 小)
猫の根付 改 (猫神様の加護 大)
基本的に、装備は変えていない。D-3達との会話から、精霊の生贄を言うイベントは、クラスチェンジ前後に起きるイベントだと思われる。
そのころのクリアを想定しているなら、無理に上級の装備を探すよりも、プレイヤースキルを伸ばすために実践や練習をしたほうがいいと思ったからだった。
ただ、脇差だけは変更している。
攻撃力の無い武器を探した結果、これしかなかった。玩具とあるように、攻撃力は無い。
ただ、鉄製で使いかた次第では怪我をする事もあるので、取り扱いには注意しましょうと、説明書には記載してあった。
後はほむらからもらった、炎の鉢金が増えている。額を守る防具で、ほむらの手製だった。
照れながら、手渡されたときは、思わず抱きしめたくなるほど可愛かった。
過度なスキンシップを、住人とすると通報されそうなので、ぐっと我慢した。最近、姿を見ていない懲罰委員さんは、監視しているはずだから、自重は大事だ。
「いざ、参る!」
門が開き、外に出る。
その瞬間、精霊の門灯が、激しく燃え上がる。
応援してくれているのか、怒っているのか、それは不明だが、反応があるだけでも嬉しい。
それをきっかけに、物凄い数の視線を感じる。
少しざわついていた空気は、一瞬で張り詰める。
静まり返った人ごみの中を、ほむらと一緒に歩き出す。
面倒だから、一気に転送装置を使うと言う選択肢は無い。折角集まってくれたんだ、堂々とその中を歩き出す。
「頼む・・・」
誰かの小さい声。それに応える様に、手を振る。
「まかせて、シュガーは、守ってくれるから」
ほむらがそう言うと、声援が始まる。 拍手が巻き起こる。
お祭りが始まった。
多くに人に、応援されて、迷宮探索ギルドへと到着する。
この間、警戒はしていた。これだけ目立つ場所で、PKを仕掛けてくる相手がいないとは限らない。
目立つのが好きなPKは、多数存在する。実際、この瞬間を狙ったPKの計画は多数存在していた。
だが、そのほとんどは事前に潰された。
情報屋連合が、その全てを集結して情報を集め、PKKとの協力の下、ことごとく退治していたのだった。
PKKに捕縛されてPKは、一定期間ログインできなくなる処置が出来る。
これにより、ある1人を除いて、計画は失敗に終っていた。
「やっぱり、ここにいたのか・・・」
「オリオンか?」
「俺以外に、お前を見つけられる存在がいると思うか?」
「確かに、いないだろうな」
構えていた、長距離ライフルを降ろして、その男は両手を上げる。彼の名前は東郷。狙撃を得意とするPKだった。特殊称号”13”と言うのを持っていることでも有名。
オリオンとは、初期のギルドメンバーだった。
「狙うなら、この場所だと思ったよ」
「誘導されたわけか・・・」
狙撃の場所を探していると、思いのほか警備網が引かれていた。さりげなく、有名ギルドの上位プレイヤーが巡回していて、行列も、しっかりと整備されている。それに気づかない雑魚PKが、各所で返り討ちに会っていた。目標が現れた時には、大掃除は終っていたのだ。
「俺は何もしない。だから、このまま少しの間捕まえるのは待ってもらえないか?}
「いいだろう」
東郷の提案を、オリオンは素直に受け入れた。嘘を言っている可能性は無い。東郷は何もしない。オリオンは、その事を信じていた。
東郷は、最初は狙撃の腕を磨く普通のプレイヤーだった。荷物持ちを失って、ゲームの中で、こんな思いをするのは辛いといって、捻くれていった過程を知っている。
「運営の、思い通りになってたまるか!」
そう言って,PKに走っていった。運営は、認めてはいるけどPKの事を否定的な立場だと理解している。そう言う部分が、各所にある。
こんな、駄目な事をした運営に対しての嫌がらせ。それが彼がPKをする主な理由だった。
それに賛同する人たちが、PKの中で一代派閥を作っていた。今回の計画だと、おとりとして動いているPKもかなりいた。
「捕まったら、この瞬間をこの世界で体験できない」
「知ってるよ、お前の仲間は、捕まえても強制ログアウトはしていない」
「感謝する」
この場所は、高台で狙撃するなら最高の場所だろう。距離がありすぎて、普通の人には無理な場所。
それでも、可能性から外せない場所だった。
だから、オリオンがここに来た。
「お互い、最高の場所から見物させてもらおう」
「そうだな・・・」
ターゲットが、扉を開ける。ここからが本番だ。
その瞬間、にぎやかだった街から音が消える。
試練の、始まりの時がきた。
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