新世界へ
少しだけ先の、もしかしたら実現するかの知れない世界の物語。
VR技術が進化して、実際体で体感できるレベルまで到達した。
色々な分野で活用され、それが娯楽まで浸透した。
ダイブ式のVRゲームの時代となり、いくつもの作品が生まれ、消えて言った。
そんな時代の中、安定して存続しているゲームがある。
”新世界”と言う、剣と魔法の物語。
王道要素の強い作品で、色々な企業とタイアップしながら人気を集めていた。
俺の名前は佐藤一。
20の自称プロゲーマー。数々の賞金ゲームに挑み、そこそこの資金を得た男である。
賞金ランキングは日本ランクで平均より少し下。得意なゲームはシューティングだ。
今回、初めてスポンサー契約をしてのゲーム参加をすることになった。
これでも、小学校から剣道をやっていて、高校総体に出場した経験もある。
結果は、2回戦負けだが、それを今回のスポンサーが見ていたらしい。
2年前の大会に、その人物がいて、俺のことに気づいた。そして、今回の話に繋がったと言う。
そんな過去の話なのに、覚えていたみたいだった。
「あの時、君が躊躇ったのは何故?」
それが、新世界の開発者であり、大企業ISHINの社長の質問だった。
「怖かったからです・・・」
あの試合、最高のタイミングで俺の突きは相手に決まるはずだった。
何度も練習はした。正直、筋トレをしても中々筋力が付かない体質なので、力の剣道では後手に回ってしまう。
色々と、工夫をして、相手の動きを誘い、返し技を中心に練習を繰り返してきた。それが、上手くできるようになってからは、試合に勝てるようになり、県大会で優勝できた。
その日々の中で、突きを研究して、試合に使う事を考えていた。ただ、危険な技になりそうだったので、1人で練習を繰り返していた。人形相手に、突きを繰り返していたのが駄目だったかもしれない。
その日の相手は、中々隙の無い選手だった。だから、絶好のチャンスの瞬間、これ以上無く絶妙なタイミングで、突きを放った。
ただ、それが当たる直前、体が硬直した。一度だけ、人形相手に決まった最高の一撃。
あの時と、同じ感覚を体が感じた。あの時、最高のタイミングでの一撃は、人形を吹き飛ばした。これが、人相手で、しかもカウンターとなるタイミングで成功した場合、相手はどうなるか?
そんな事を、一瞬の内に感じてしまい、体は硬直してタイミングが鈍り、相手の一撃をこちらが受けてしまう。
その後も、調子は戻らず結果はそのまま敗退。相手も、この試合で調子を崩したらしく、次の試合で負けてしまった。
それから、怖くなって剣道をやめてしまった。先生は、残念だと言ったけど、俺の事を理解してくれたみたいだった。
相手の選手は、次の年に優勝して日本一の剣士となった。それを聞いて、俺の心は複雑だった。
その後、元々ゲームが好きだったから、VRゲームにのめりこんだ。シューティング系のゲームと相性がよかったみたいで、こちらでも全国大会に出場できるだけの腕があった。
集中すると、視野が狭くなりすぎると言われるけど、近距離高速銃撃戦の覇者という変なあだ名がついてしまった。
一部のジャンルでは有名人になったけど、現在シューティングゲームの人気は低い。
「もう一度、違う場面で戦えるとしたら、君はどうする?」
「迷わず、突き刺せるようになりたいです・・・」
「なら、そうしてくれ。あの時、現実世界で恐怖を感じた人間が、電脳世界で自由になったどうなるか、僕は知りたい」
それが、社長の言葉だった。何か、意味のあるような、あの人にも何か目的があったのかもしれない。
ただ、電脳世界なら、あの時出来なかったことが出来るかもしれない。
剣と魔法の世界なら、色々と考えた剣の技を実現できるかもしれない。頑張ったけど、実力不足で完成しなかった動きを、実現できるかもしれない。
そう気づいた時、俺は契約書にサインをした。
新世界では、大規模なプレイヤー同士の戦いがある。
その個人戦に、半年後にに出場する。それが最初の契約。
既に、ゲームの開始から化け物と呼べるプレイヤーが上位を独占している世界。
そこに食い込むための日々が、始まるのだった。
ナインテールが上手く進まないので、気分展開にちょっと書いています。
もしよろしければ、ブックマークや評価をしてもらえると嬉しいです。
励みになるので、よろしくお願いします。