第壱章ー肝試しー
それから最初の男子ペアが帰ってきて、安全が確認された所で、次のペアがスタートしていった。
「んー、いよいよ始まっちゃったか」
「伊吹さんって、こんな所にくるイメージなかったから意外だったよ」
「そう?割と好きだよ、皆で集まってワイワイするの」
「あ、そうじゃなくてさ。えっと、ホラーとか?あんまり得意そうじゃないかなって思って」
「まぁ、得意ではないかなー。夏のホラー特集とかをたまに見るくらいかな」
「じゃあ何で参加しようと思ったの?」
「んー、ほら、あそこにいる子。あの子とは中学からの親友でね。あの子の誘いは断れないんだよね」
指差す先にいたのは、加那とよく一緒にいる女の子だった。今はペアになったであろう男子と談笑している。
「でも、私も全く同じことを思ったよ?君もこんな集まりに参加するなんて思わなかった」
「ははっ。ぼ、俺も一緒だよ。ほらあそこの、くじ運のない男子に連れてこられたんだ」
「あー、なるほどね。君たち仲良いもんね」
「うん。ありがたいことにね」
この際恨めしそうに見てくる織人は無視するとして、日向は存外楽しんでいた。家柄上、あまり肝試しとかといった行為は控えたかったのだが、加那の影もこれ以上の変化は見受けられないし、安心してよさそうだ。
「あ、でも一つ疑問なんだけどさ」
「うん?」
「なんで西牙くんは一人称が笠井くんといるときはぼくで、私だと俺になるの?」
日向の脳内でぎくりと聞こえた気がした。まさかただのクラスメイトの一人称に気付くとは、と目を一瞬逸らす。加那はただただ純粋に疑問に思っただけみたいで、首を傾げて返答を待っている。
「えっと、別に対した事じゃないんだけど……」
「おーい、次は3番のペアだぞー」
特に隠すようなことでもなかったが、何となく理由を説明するのが小っ恥ずかしかったため、なんとか言い訳をしようとすると織人がそれに被せるように日向達を呼ぶ。
「あ、私たちだ」
「あぁ……」
タイミングが良いのか悪いのか。言っても良かったが、言わなくて済んでホッとしているのを加那は察したのかニヤリと笑い、後で教えてね。っと、ぼそりと耳元で呟き、スタート地点へと駆け足で走って行く。
(……どうも、心情を読むのが上手いなぁ……)
内心で溜息を吐きながら、日向もスタート地点へと足を向ける。
(……まぁ、何もないと思うけど……)
加那と話していて気も紛れた。特に嫌な予感もしないし、何も起きないとは思いつつも、日向は首からぶら下げたお守りを無意識にギュッと握りしめていた。