第壱章ー肝試しー
「じゃあ、くじ引きな!」
言い出しっぺであろう男子が、目的地に着くとすぐに小さく折りたたんだ紙をいくつか取り出した。どうやらくじ引きで肝試しのペアを決めるらしい。
「こっちが女子で、こっちが男子な。人数の関係で1グループだけ男子同士の組み合わせになるけど、勘弁な」
なるほど、まめな性格なのだろう。キチンとくじを二つに分けて用意している。それでも不安な男子2人はペアになってしまうのだが。
皆が各々のタイミングでくじを引き始め、日向と織人に回ってきたのは最後になってからだった。
残り物には福があると、織人は最後に引くがどうやらそれは外れだったらしく、言い出しっぺの男子と同じペアになってしまった。
「西牙くん、3番?」
日向が3と書かれた紙を片手にペアは誰なのかと辺りを見回していると、不意に背後から声をかけられる。
「あ、3番だ。私とペアだね」
へへんと犬歯を覗かせ笑いかけてきたのは伊吹加那であった。
何となく、そうなるのではないかと予感していた日向は加那に向かって何か返事をしようと振り返り、目に入ってきた物に出かけた声を飲み込んでしまう。
「っ!?」
「ん?」
影が完全に顔の形となり、二つに増えていた。
ここまで完璧に見えてしまえば、見るのが苦手な日向でも、この影の正体はわかってしまう。
(生霊……)
生霊。彼女に対して何らかの嫉妬か怨みか。どちらにせよあまり良くない気を向けてくる人物が2人はいると言うことだ。
生霊自体は特段珍しくもないが、ここまでくっきりと見える生霊に、日向は出会ったことがなかった。故に、言葉に詰まってしまう。
一体、どれほどの思いを持ってここまで彼女に接してきたのか……。
「どうかした?」
「あ、いや、何でもないよ」
加那の言葉で現実に引っ張り戻された日向は影から視線を外し、取り繕うように笑う。
「ははーん?さては西牙くん、私の美貌に見惚れてたな?」
「なっ!?」
ほぼ初対面である日向に対し、そんな冗談を言ってのける加那。客観的、いや誰が見てもその容姿にケチをつける者はいないであろう加那である。そんな事を言われ、完全に出鼻をくじかれてしまう日向。
「いやいや、良いんだよ少年。大丈夫、私は慣れているから」
ねっ、とまるで太陽のように笑って見せる加那に日向は、なるほど、あの織人がマドンナと言ってみせるだけはあるなと内心納得する。
男子の人気は勿論、女子からも慕われている彼女ではあるが多感なこの年齢ともなれば妬みを抱く者も少なくないか、と自分を納得させ、小さく深呼吸をして加那へと向き直る日向。
「まったく。嫉妬してしまうくらいにね」
「お、言うね少年」
日向もまた、皮肉を持ってして加那の言葉に返してみる。
その返しに感心したのか、満足げに笑って見せる加那。
「所で西牙くん、ルールは聞いた?」
「あ、うん。織人から聞いたよ。
確かトンネルの向こうに地蔵があるから、そこをUターンしてここに帰ってくるんだったよね?」
「そうそう。それと知ってる?このトンネル、出るらしいよ?」
「出るって、その、幽霊とか?」
「うん。何でも昔、このトンネルで事故が多発して、その時に人が結構死んでるんだって。だからこのトンネルは廃止になったなんて噂もあるみたい」
「そうなんだ。初耳だな」
そんな感じで加那と雑談していると、加那とペアになったと勘づかれたらしく、妬ましそうな目でこちらを見てくる男子達に気付く。特に織人から感じる視線が痛い程にわかるが、これを日向は華麗にスルー。
溜息を吐き、諦める男子達。とりあえず何か悔しいのでこの帰りに日向にジュースでも奢らせようと硬く決意を固める織人。
そんなこんなで最初の男子ペアがルートの安全確認を含め、スタートした。