第壱章ー肝試しー
「おーい、日向」
「ん?」
四限目が終わり、弁当を広げている日向の机にパンをいくつか抱えた織人がやってきた。
「やっと飯だな」
「次が体育じゃなければ素直に喜べたんだけど……」
「そうか?俺には飯の後の数学とかの方が嫌だね」
わいわいと各々が食事を進める教室で、日向と織人もまた昼食を楽しんでいた。
と、そこへクラスの男が織人を訪ねてやってくる。
「なぁ、織人。今日の夜神社の前の古いトンネルで肝試しをするんだが、どうだ?」
「んあ?肝試し?」
「あぁ、初夏だしな。夏の風物詩だろ、肝試し」
もぐもぐとパンをかじりながら聞き流す織人はあまり興味がないらしく、少し眉をひそめている。
「なぁ、頼むよ。来てくれよ、な?
お前がくるなら来るって女子もたくさんいるんだよ、な?」
「あぁ?んでもなぁ……。日向はどうする?」
「うえっ!?」
まさか自分に選択肢が降りてくるとは思わなかった日向は食べかけていた卵焼きを落としそうになる。
「ぼ、いや俺は……」
日向もあまり乗り気ではないのか、同級生の男子から目を背ける。
それをみた織人は一つ溜息を吐いて断りを入れようと口を開くと、それに被せるかのように同級生の男子は口を開く。
「な?頼むよ。なんせあの伊吹も来るんだぜ?」
「伊吹加那が?」
へぇっ、と流石に織人も興味を持ったらしく、チラリと加那が座っていた席に目を向ける。昼休憩ということもあり、何処かに離席している加那はいないが、なるほどと織人は口角を上げる。
「伊吹さんって、今朝の?」
「お、なんだお前も興味持ったのか?」
伊吹加那がそういった、いわゆるお茶目な遊びに付き合ったという話はとんと聞かない。故に少し興味を持った織人だったのだが、意外にも反応を示した日向にニヤリと表情を向ける。
「いや、興味と言うか、何というか……」
煮え切らない返事をする日向だが、そこは織人も慣れたもので、日向から目線を背けて同級生と目を合わせる。
「いいぜ、俺と日向。二人参加だ」
「おお!助かるぜ!
じゃあ二人とも、今日の夜6時に北区の公園に集合な!」
「あ、ちょっ!」
日向の返事も聞かず、同級生は二人から離れて行く。
むぅ、とジト目で織人を見るが彼は上機嫌にパンをかじっていた。
「はぁ……。ぼくがこういったの嫌いなの知ってるだろ?」
「あぁ、知ってるが、お前も俺の性格よく知ってるだろ?」
もう一つ日向は溜息を吐いて諦めの表情を浮かべる。
そうだそうだった、この悪友はこういった性格だったと、どうやって家族に夜外出する言い訳を考えるかに思考を切り替えた。