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消えたかった少女とモフモンたち  作者: りぢ
1章 少女はお礼をしたい
4/9

4 球体が出てきたぞ!

 女の子がこんな、大猿の息の根を物理的に止めることを、嫌だと思う人は必ずいるだろう。

 けれど私は私だ。

 勝手に女だからと決めつけるのならどうぞ。

 大猿はモンスターであり、人間にとっては脅威であるからこそ討伐すれば、証拠品を対価にある程度の金額が支給される。

 なお証拠品とは心臓部にある魔石のことだ。

 それから肉体部分も食事に使えるモンスターが多い。

 普通の家畜より味が落ちてるモノもいれば、美味しいモノもある。

 けれど、魔石は一味違う。

 魔石とはその名の通り、魔力の入った石のことを指す。


 人間には、魔力を持つ者と持たない者に分けられる。

 持たない者が多く、例えば前世での父と母は2人とも持っていなく、私も持っていなかった。

 貴族達は魔力をフルに使い、互いの血を混ぜることにより更に強くのし上がろうとする。

 尚私達のような貴族や王族でない一般の平民の中からたまに出る魔力持ちは、お金で買われる。

 貴族と無理矢理婚姻を結ばされるのだ。

 それは誰もハッキリとは言わないが、近親同士で結ばれることが重なったことにより、血が濃くなりすぎたことが十中八九の原因だろう。

 貴族の間で子供が生まれないことが問題になっているとは、平民の間でも専ら話題となっている。

 主に嘲笑の話題として。

 そんなことにかまけているからお前は平民なんだとは口が裂けても言えない事実である。

 貴族に対しての同情もないが。

 だから貴族や王族に殆どの魔力持ちがいる。


 そんな貴重な魔力が入った石の使い方はこれまた単純で、割れば放出されるのだ。

 放出される時に願いを言えば、魔力の足りる願いならば叶えられる。

 入っている魔力の大きさはモンスターによって違う。

 強ければ強い程入る魔力が大きいとされ、平均して魔力の大きい順に細かく様々な種類に区分して分けられている。


 私達人間にとって、大猿などのモンスターは生きる為に殺すものだ。

 家畜を食べる為に殺すことと何ら変わりはしない。

 戸惑い苦しむ姿を見ることの方が余っ程辛いことと思わないのだろうか。

 それか、人間が沢山モンスターによって殺されても良いと思っているのだろうか。


 モンスター愛好家だと主張し、モンスターを間引きだと殺すことが如何に人として残酷なことをしているかを説いている人を思い出す。

 本気で馬鹿なのかと思った。

 他意はなく、唯心で思っただけだ。


 こんな風に嫌なことをことをグダグダと思い出しては頭の中で正当化し、意味の無い論破を繰り返す。


 結局私は本心では申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 食べることは生き物に感謝しながらすることではない。

 感謝することは後悔を打ち消す為の言い訳に過ぎなかった。


 お腹が空いた。

 もう限界だった。


 先程解体ショーをやり遂げたのだ。

 父がやっている姿は何度か見たが、それをしたのは初めてである。

 それに、今の私の姿は、前よりも一回り以上は小さい分、余計に体力は削られる。


「料理作ってる間、他の奴らが起きても眠らせられる? 」


「ぎゅ! 」


 肯定してくれたことに甘えさせてもらい、作り始める。

 とは言っても簡単なことしか出来ない。

 鍋も調味料もここにはなかった。


 先程引き抜いた爪の跡へ己の手を引き入れ、心臓部分をぐちゃぐちゃと描き混ぜれば、硬いナニカに手が触れる。

 それを掴めば案外簡単に取ることが出来た。

 拳大の大きさである。

 魔石だ。

 麻布の服にあるボロボロなポケットに突っ込む。


 ふわりと羽が一枚上から降って来た。

 なんだと思えば頭の上に微かな擽ったい感触がする。

 もしや、と頭の中で想像した瞬間に「びびっ」と小さく鳴く声がした。

 なるほど、羽毛で大部分な面積は占められているのだろう。

 とても軽い。

 手乗りならぬ頭乗り梟だ。

 これを少なからず気に入った私は、なるべく落とさないようにと料理へ移ることにした。


 さて、ここから本格的な食事を作る。

 そうとは言って本格的も何も、調味料も鍋もないのだから出来ることなど限られているのだが。

 出来そうなことと言えば大猿の皮を、針のように細くした爪で、大猿の毛を編み込んで縫い合わせて、簡単な蒸し器を作るくらいか。蒸し焼きも出来るだろう。

 けれどそれをするにも時間が掛かるから今はお預けである。

 今回は唯焼くだけ。

 火を起こしてその中に猿をぶち込むのである。

 丸焦げくらいで感染症の心配も無くなるだろう。

 小さなこの身体がどこまで菌なに強いかは分からないが、奴隷として今まで生きていたのだから弱くはないと信じたい。


 ろーが元は私の為に倒そうとしてくれたモンスターを、ろーへの感謝の為に最後まで食べ切るところまでやろう。


 まず一番の関門は火を付けることである。

 ああ、考えるだけで面倒臭い。

 ろーへの感謝によって集中しなければ。


 幸い森だから燃えやすい草や枝はそこら辺に落ちていたし、火を起こせそうな摩擦度の高い石も転がっている。

 そして魔石もある。

 1回しか持たないが、やるしかない。


 体感にしておよそ1時間掛け、大量に落ち葉と木の枝を1箇所に集めた。


 そして、魔石を思い切り地面に叩き付け、願い事を言う。






「────ここにずっと燃える炎を作って! 」






 言い方が間違ったと分かったのは、次の瞬間のことであった。


 ぶわ、と身体から何かが抜けていくことが分かる。

 体力ではない、根源的なナニカが。

 その恐ろしさに鳥肌が立つ。


 そして光り輝く魔石から飛び出した魔力は上へと大きく登って行き、更に大きな光となり、ゆっくりと、私の集めた落ち葉や木の枝の上へと落ちて行く。

 落ちるにつれ、色は透明から赤へとなり、更に青へと色を変える。

 透けた青色はこの世のものとは思えないくらいに綺麗だった。


 まん丸い球体の見た目は、綺麗であると同時に可愛さまである。

 大きさは大分大きく、私の上半身と同じくらいであった。


「我はマシアハ。我を呼んだのは貴女か? 」

 

 男性なのか女性なのか。

 中性的でどちらとも取れる性別の声音は、透き通っていて、つい聞き惚れる。


「え、? 」


 呼んだ。

 その台詞に戸惑う。

 確かに私は炎を呼んだが、こんな異次元の存在を呼んだ覚えはない。

 可愛いフォルムと声のギャップに加え、話す内容まで惑わなければならないどころかまず話せたことが驚きである。


 しーん、と互いに静まり返る。

 それを心配そうにろーが「ぎゅぎゅぎゅ! 」としきりに何かを訴えかけようとしていた。

 雰囲気の重さが耐え切れないのだろうか。

 それは可哀想なことをしてしまった。


「よ、呼んだ覚えは、ないでーす」


「では『ここにずっと燃える炎を作って』と言った人に覚えはあるかね」


 ああ、と嘆いた。

 間違いなく、手違いでもなんでもなくこの球体は来たらしい。


「あははー私ですね、はい」


 最早苦笑いを通り越して軽く本気の笑いが滲み出る。


「そうか。なら来てやったんだ。早く今から燃やして欲しいモノを言え」


 軽い命令口調の中にある、ワクワクとした、楽しむような言い方が滲んでいた。

 ここであれ、と考えが変わる。

 もしかして、この球体は、言い方こそ少し私にとってはキツイが、唯の親切な人なのでは、と。

 特に炎をチラつかせて脅すこともしていないし。

 呼んでないとんでもなく強大なものが来たからというだけで警戒するのは間違っていたのではなかろうか。


 何故こんなにも警戒していたのかは、呼んでおらず、また、あの大猿の魔石で喋ることが可能な程に知能が発達したモンスターを連れてくることは不可能であると分かっていたからだ。

 大猿は、一応は人間が倒せるモンスターの中で弱い方である。

 対して人間の言語で話すことの出来るモンスターは、全員が危険度マックス、生きて帰れると思われる人物など今までに1人だっていないし、例に漏れず全員チャレンジした後には帰って来なかった。


 ようするな私が警戒したところで、怒りを買えば殺されることは必須だろう。

 つまりは言うことを聞くことがどちらかといえば重要だったのかもしれない。


 そんなこんなで覚悟を決めた私は大猿だった肉塊の1つを渡しながらこう答えた。


「この肉をとりあえず一切れ分丸焦げになるくらいまで焼いて欲しいや」




 次の瞬間、灰になった肉塊だったモノがここにはあった。

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