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消えたかった少女とモフモンたち  作者: りぢ
1章 少女はお礼をしたい
3/9

3 ろー爆誕

「なッ⋯⋯なんの言葉を掛ければ宜しいのでしょうか⋯⋯」


────御自分デオ考エ下サイ────


「デスヨネー⋯⋯」


 質問すれば当たり前の如く言われる。

 けれどチュートリアルと言われた以上、やり方をちゃんと教えてくれるということだ。

 まさか最後まで説明しない筈がない。

 つまり、このモフモフは実質私のモノと捉えて良いのではないのだろうか。

 ここまで考えてからフラグが頭をチラついたので何も考えていないことにした。


 再び攻撃されないかが心配になった私は、ふっと脳裏から浮き上がった言葉を素早く口に出す。


「モフモフちゃん? あ、くん? もあるか。まあいいや。キミ、私の仲間にならない? 一緒にお話沢山しよ? 楽しいよ? 」


 必死に笑顔を作りながら、自分で引くレベルの猫なで声である。

 そもそも優しげな声を使う時の己が媚びてなくとも媚びてると感じ、気持ち悪いと思うが。


────⋯⋯マア良イデショウ────


 その人間らしい言い方は録音してあるのか、直接言っているのか、それとも私の幻覚なのか。

 少なくとも先程モンスターとぶつかった時、私はモンスターテイマーという単語など一切思い出して等いなかった。

 けれど深層心理という厄介な言葉が存在している。


 頭の機械音が告げたとほぼ同時に、ぴこん、と小さな音がモフモフのモンスターから聞こえた。


 なんだとそちらに目を向ければ、今にも飛び掛からんとモフモフの毛並みを逆立てていた姿から、元の体積に戻る。

 それでもモフモフには代わりない。

 先程の状態がデフォルトだと思っていたが、よくよく見れば逆立てていたのだろうと元の状態に戻ってから気付いた。


────好感度ガ1上ガリマシタ────


 地道に好感度を上げることが攻略の鍵らしい。

 一言だけで上がるというのは簡単という意味か、はたまた逆に一言で下がる可能性を秘めているとも捉えられるのか。


 少なくとも分かったことは、モフモフを手に入れるには更に言葉を掛けるという事実である。



「こっちおいで! 」


「遊ぼうよ! 」


「会話出来る? 何考えてるか教えて? 」



 しかし何度言葉を掛けても好感度が更に上がる気配はない。


 遂にヤケクソとなった私はこう言い放った。


「疲れてない? 私は疲れたんだわ、一緒に寝よ? 」


 次の瞬間、モフモフが勢い良く体全身を使い身震いし始める。何が起こっているのか呆然と眺めた。











「へっ!? 」


 どうやら眠っていたらしい。


 目を開ければモフモフが目の前で心配そうにこちらを見つめていた。

 恐る恐る手を伸ばし頭を撫でれば、嬉しそうにされるがままになる。

 そのままもう片手で身体を持っても抵抗はされず、モフモフは抱き締められる形となった。

 大体梟とほぼ同じ大きさの為、抱き締めるのは容易だ。


「なにがどうなった!? 」


 そう言いながら起き上がった瞬間に、目を見開いた。


 大量のモンスターが私の周りに転がっていたのだ。

 転がっているのだから怖がりはしないが、内心穏やかになれる筈はない。


「ぎゅっぴっぴー! 」


 えっへん、とでも言いたいのか誇らしげな鳴き声を出すモフモフに、私は脳内で予想が立てられた。


 もしかしてこの子は、睡眠に相手を誘うのではないのだろうか。

 先程私が目覚めたのは、この子に眠らされたのだ。

 意識の飛ぶ一瞬前に見た、"全身を使い身震いをする"行為が相手を眠らせる行動なのだろう。

 それがどれくらいの対象で、どれくらいの範囲に効果があるのかは知らないが、少なくとも周りに転がっているモンスターと、私を眠らせてピンピンしていることがまた事実であった。

 脳内に聞こえていた声の主は周りにはいなかったのだからいないだろう。


 そこまで考えた時に、違和感が浮かぶ。

 脳内に聞こえていた声。


 ──⋯⋯脳内に聞こえていた声?


 何故さっきの私は、当たり前のように受け入れていたのだろうか。

 生まれながらの環境ならば受け入れるだろうが、そんなことない。

 一瞬身震いした。

 怖い。

 脳内の声と同じ方法で何かの脳波でも流されていたとすれば、違和感を感じなかった理由となる。


 例えモンスターに遭遇したとしても可愛いからという理由だけでその恐怖が消えやしない。

 モンスター。

 それは最も弱いと言われるスケルトンやスライムにしても、突然に戦闘経験のない人間数人で対峙して勝てるかどうかの存在である。

 その為脅威とされ、冒険者と呼ばれる者達によって倒されることとなっていた。

 現在人数は足りておらず、一部の村々はモンスター襲来により存外な被害を出した、という報告など日常茶飯事だ。

 今の私のいる環境が、私の知っている環境と全く違ったとしても、その常識は記憶として脳味噌に刷り込まれているのだから無理に決まっている。


 一度眠らされたのだ。

 また同じことを、そして更に上の技を使われる可能性だってあった。


 だけれども、どうして恐怖を感じないのか。


 理由は簡単だ。

 私に対して好意を向けているから。

 褒めて褒めて、とでも言うようにすりすりと羽毛なのか頭なのか分からない場所を腕に擦り付ける行為。

 騙そうとしていたとしてもこれは信じるしかない。

 むしろ本望です。


 そして、気付けばあれだけ聞こえていた声は止んでいた。

 本当に幻聴だったのかもしれない。

 否、頭のおかしい奴だと思われたとしてもそうであると望む。

 そうでなければ、もっと恐ろしいことになる。

 私自身の意識を見ることが出来る存在の声によって思考回路をある程度会話によって操作されることと同義だ。

 考えたくもない。


「とりあえず、梟みたいだから"ろー"でいっか」


 モフモフに懐かれたように感じれば、自然と癒される。

 それにこんな所で立ち止まっていては、大量のモンスターが起き上がり殺されてしまう。


「ろーはこいつらの息の根止めれる? 」


「ぎゅーーーー! 」


 聞けば、元気そうな返事と共にモコモコの身体で隣に眠っていた大猿みたいなモンスターへ体当たりする。

 けれどやはりモコモコの体なだけあり、ふわふわと当たっているだけに過ぎない。

 どれだけぶつかっても大猿にダメージが入っているようには見受けられない。


 その内衝撃により目を覚ましたらしい大猿は、だがろーの即座の眠らせる攻撃によって再び眠りについた。


 これでは埒が明かない。

 どうしようかと大猿を見つめていれば、ソイツの大きな手に鋭利に尖った長い爪があることを見付けた。

 十センチはあるだろう。

 「これか、」と小声で呟く。

 そして大猿を手で指して言う。


「ろー、一旦止まって。コイツがまた起きそうになったらコイツだけ眠らせて欲しいんだけどいい? 」


「ぎゅっ! 」


 飛び跳ねながら言うところを見るに、肯定しているということだろう。


 大猿に近づいて行き、片手で指先を、もう片手で爪を持つ。

 そして勢い良く爪を剥がそうとした。

 少しだけ剥がれる。

 数センチだけだが何度もすればキチンと全て取れた。


 そして取れた爪で思い切り左胸辺りを突き刺す。

 初めは骨に当たったが、何度も刺せばぽっかりと空いた場所に突き当たった。

 体重を掛けていたから大猿に倒れ込むようにして爪を突き刺した。

 ブチブチ、と何処かが切れる音がした途端、私の手が真っ赤になり、顔にまで飛び散る程の鮮血が大猿から溢れ出す。


 ようやく分厚い毛皮の表面を突破出来たらしい。

 その後は楽に肺まで爪は到達しただろう。


 後は二つに分かれた毛皮の部分をつまみ、ある程度中の筋肉が見えるところまでびりびりと削いでいく。

 そして爪を更に奥まで刺す。

 早くしなければ、息の根を止めるまでに大猿が起きてしまうだろう。

 なんてそれは可哀想なことか。

 痛みに悶え、肺までは既に到達しているから、そのまま死に行くことしか出来やしない。

 その一心でずぶずぶと筋肉や肺の中へ手を埋め込みながら心臓に爪を突き刺した。


 本当に心臓の音が止まったことは、もう片方の大猿の身体がズレないようにと支えていた手によって証明される。


「じゃあ、今日の食事はこれかな」


 大猿から爪を引き抜いた私は、疲れたように座り込んでからろーに告げた。

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