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消えたかった少女とモフモンたち  作者: りぢ
1章 少女はお礼をしたい
1/9

1 プロローグ

初投稿です、宜しく御願い致します

 消えたいと願ったら叶った。

 意識だけ存在してはいるけれど、姿も、環境もまるで違う。




 そうかこれが転生か、と理解した。

 宗教の言語で、生まれ変わることで、通常であれば肉体は当たり前だが、人格と記憶も消えることを指す。

 どうやら人格と記憶は残っているから、厳密に転生と言って良いのかは分からなかった。


 前の人生もそこそこの良い人生を送れていたと思う。

 父は冒険家として、母は踊り子の育成教師として。

 給料はギリギリだったが、望んだ学校に行かせてくれた。

 友人にも少なからず恵まれ、身分が全てのこの世界で、能力が低くとも嫌がらせも受けなかった。

 お金がなければ子供の頃から出稼ぎをする街で、私は確かに幸せ者だったのだろう。


 だからこそ出来損ないが目に付いた。

 もっと馬鹿なら良かったと何度思ったことか。

 理由なんてモノはない。

 重度の人間不信になった。

 1ヶ月も友人といるだけで苦しくなる。


 人生の最後の記憶を思い出していた。


 単純な話だ。

 学校が辛くなってサボった。

 前日に盛大な失敗をやらかしていた。

 単純に失敗したことと、嘘を付いたことだ。

 どんなことかは朧気に覚えているが詳しくは思い出したくもない 。

 唯、帰り道は誰とも話せる気力も、歩く気力さえ無くなって、何度も蹲りながらようやく帰宅することが出来た程だったことが確かだ。

 サボったからと言って親のことすら信用も出来ないから、誰にも言えず唯街を彷徨いていた。


 何故こんな子の自由を尊重する親のことすら信用出来ないのだと怒る者もいるのだろうけれど、そもそも人間不信の切っ掛けは両親だ。

 切っ掛けなだけであって、悪くは無いけれど。

 仕事の手伝いで出来ないことがあれば父はなんでこんなことも分からないんだと怒鳴り付け、母は大丈夫だと慰める。

 けれどそんな母だって、酔って騒げばやれば出来るとしか言わない。

 結局のところ、私は出来損ないで、それを露骨に慰めるのは偽りの気持ちで、私自身はできない人という評価なのだと分かったのである。

 人間は、簡単に優しさと言って嘘を付くのだと理解した。

 虚言癖が、年齢が2桁に行かず出始めたのは、無意識でそれを分かり始めていたからなのだろう。


 だから今までどんなに下手でも褒めるし凄いと言う。

 言葉など誰よりも軽い自信はあった。

 勿論上手いと本気で思っても言うけれど、どれを本気で思っているかなんて誰にも分からない。

 そんなんだから一層誰も信じられなくなると言われればその通りだがもう止められなかった。

 歩み遅く進んだ先はどこかの宗教の入り口だった。

 特に行こうと決めた訳でもなく、本当にたまたまである。

 そこがあまりに人々が多く活気に満ち溢れていたから、こう呟いていた。




『消えたい』




 死ぬにも自殺しか出来ず、例えば馬車に自ら引かれれば家族がその責任として賠償金を支払うことになる。

 更にそれが商人や貴族であることが大半だが、その場合私の家との身分差は大きい。

 恐らく両親共々奴隷になるだろう。

 だから自殺は出来ない。

 だから消えるしか無い。



 存在を消して、いた、という事実を消してしまいたいと願った。



 転生したらしい、という状況を確認している最中もこの4文字の根底は消えなかったから驚きはしなかった。

 というより、驚くことが出来るのは気力に余裕がある時にしか出来ない。

 心が余りにも磨り減っていたのだから出来る筈が無かった。

 唯現実を受け入れているのか認識しているのかも怪しくなりながらも、そういうモノなんだと頭に情報を入れ込んでいく。





 眼前に広がるのは銀色の鉄格子。

 横と後ろには長い間まともな掃除をせず本来の色を失った白い壁。

 一つだけ後ろの壁に、天井付近で付けられた窓は開閉ストッパーにより半分も開けられない。

 そして開けるには、窓の下に立て掛けられている、今にも崩れそうで、乗れば確実にギシギシと派手な音がなるだろう梯子を使わなければ不可能だ。

 部屋には梯子と、煎餅布団しか置いていなかった。


 白く細い小さな手、茶色い麻布で出来た着心地の悪いぶかぶかの服。

 私の感覚だと、中等科への入学許可は確実に出されない程の年齢だ。

 高等科へ遅れながらに進んだ私とは確実にないだろう。

 転生の根拠はこれだ。

 まさか変身魔法など覚えていない。


 突如景色が変わり、今までの私だった生き様以外覚えてないところを見るに、別の人の魂に入れられた、もしくは入れ替わったが適当だろう。

 そんな考え方は宗教に入っている誰かから聞いた。


 では次にここは何処か。

 恐らく。

 いや、恐らくですらない。

 似た場所を前に見たことがある。

 確か父に連れてこられた。

 目的は人では無く、戦闘用モンスターだったが、売られている環境と場所はほぼ同じだ。


 ここは、────奴隷商。


 理解しても、絶望はしなかった。

 寧ろ、当然かと思った。

 勝手に人間不信になって、勝手に逃げ出す、自分勝手で最低な人間なのだ。

 次の人生は底辺がお似合いだと判断されてもおかしくない。


 けれど少なからずショックは受けたのか、力が抜けて、へたり込む。

 大理石張りの床が尻に当たり、ジンジンと傷んだ。






 その時だった。


 ドンドン、と大きな歩く音が聞こえる。

 なんだとそちらに顔を向ければ、暫くしてから大男が登場した。

 いかにも筋肉質で片手には両手剣を携えていることからも強いのだろうと想像が出来る。

 傍には私と同じ、麻布を着る、薄汚れた若い女性がいた。


 偉そうに鼻でふん、と笑った大男は、目を意地悪そうに少し伏せ気味に、口角を上げながら馬鹿にする言い方で話し出す。

 無礼に女性を指差しながら。


「今日、コイツが借金を返済して出るようだ! 拍手で見送れ! 」


 何故私に言っているのか。

 それがイマイチ理解しておらず、また奴隷生活がどれ程辛く苦しいものか深く考えられていなかった私はこう答えた。


「おめでとう、ございます? 」


 反射的に笑顔で、なるべけ明るく言った。

 ぱちぱちと言われた通りに拍手すれば、大男がさぞ面白いように笑い出す。


 奴隷ということは分かっていたから大男の態度からして私より上の身分である為逆らってはいけないということと、何より今の気分からして相当に精神状態がマイナスに全てを考えていたから、偉そうな態度に怒りは全く感じることは無かった。

 だから笑いだした時も変なところを笑いのツボにする人とくらいにしか認識していない。


 けれどそれに酷く反応したのは、これから奴隷でなくなるらしい女性だった。


「待って! 待ってください! 」


 取り乱し、大男の太い腕にしがみつくように掴む。

 その細い腕はしかしあしらわれるようにして離された。


「お願いします、一生のお願いです。この子を、私の子を! 私の子を代わりに自由にしてあげて下さい! 」


 この人は私の母親だったのか、とようやく理解した。

 だから大男は私が祝福した時に笑ったのだ。


 離された腕をしかし再度掴み、私を見ながら言うその 目に光が灯っていた。それに圧倒される。


 それで、ようやく私は己が客観的に外から見ていることに気付いたのだ。

 現在の姿での状態での母は彼女である。


 このままだとどうなるのかも分からない。

 咄嗟に何か言おうと口を開いたが、短く掠れた「あ」の声は必死な現在の母らしき人の声によって掻き消された。


 それを面白そうに眺めた大男は、私と目を合わせて、それから尚一層面白そうに顔を歪めた。


「良いだろう、コイツを外に出してやる」


 もう一度掴んだ母らしき人の腕はあしらわれたが、満足げで、それ以降の動きはない。


「本当ですか? 」


「ああ。俺が嘘を付くことなんてあったか? 」


 ニヤついた顔でそう言いながら、鉄格子に付いた鍵穴に、ポケットから取り出した一つだけ付いてある鍵を回す。


「早くしろ」


 目付きの悪さと言葉の乱暴さに少し萎縮しながらも、言われたままに鉄格子を引けば隙間が出来たので出る。


 腕を大男にキツく引っ張られ、軽い痛みに襲われながら、私は歩いていく。

 母らしき人は今まで私がいた部屋の隣へと自ら入っていった。


 そこでようやく感情が芽生えた。

 いや、今までにもあったのかもしれないが、ようやく私自身があると分かった。


「っ────お母さんっ! 」


 けれど何を言えば良いのか分からないのは同じで、今までどのような呼び方をしていたのかも知らないままに、半ば叫ぶ形で口に出す。

 歩きながらも後ろを振り向けば、母らしき人の瞳から涙が零れ落ちたのが見えた。




「元気でね、エミィ」


 その言葉が届いた次の瞬間、私の視界から母が消え、眩しい程の青空が視界を覆った。

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