1-06 着替えと分別と移動
さて、問題は服ですヨネ~。・・・この子のお姉さんは
意識がないから、すんなりお着換えさせることができた。
私は異性の病人や怪我人の裸を見て興奮するような人間ではない。
怪我や病気の方が気になるからだ。相手の気持ちに立たなくては
治療もスムーズには進まない。
女の子が着ていた服はお姉さんと同様に、既に服として機能を
果たしていない。服としては上下一つの布で構成されており、
腰のベルトで裾の長さを調整しているような服だった。
意識のある女の子が、よく知りもしない私に裸を見られるのは
さすがに抵抗があるだろう。
髪の毛を拭いたタオルを取り去った後、少し厚手の長袖シャツを
頭から被せる。
「服を着替えて欲しいけど、私が居るのは恥ずかしいでしょう?
だから見ないようにするから、着替え方を説明するね?」
「・・・うん」お姉さんに着せたものと同様のものを
袋から取り出した様にみせる。
ボタンで裾幅を変えられる、通した紐で縛れるスカートだ。
少しの間、説明する。
「・・・わかった」
上下分離しているタイプは珍しい様だった。
女の子に見える位置に私が移動して、背中を見せる。
「破れた服の両袖を脱いでから、
さっき頭に被せた服に袖を通す。絵の着いた方が前だよ。」
「わかった」「できたら次の指示をだすから呼んでね。」「うん」
「着替えていいよ。」「うん」
それを確認したのか、後ろでごそごそと聞こえる。
「この絵柄って何?」そんな事を聞いてきた。
「そこには『CMスポンサー』って絵が書いてあるんだよ。」
「しいえむすぽんさー?って何?」
「うーん・・・服を作った人や着ている人を応援して
くれる絵って言えばいいのかな?」
「そうなんだ・・・」「できたよ。」
よくわからなかったみたいだ。(大事だよソレ、苦笑)
「じゃあ、腰のベルトを外して。」「うん・・・外した。」
「脱いでいる途中の服は腰より下まで降ろせるよね?」
「うんできる。」「そこまでできたら、また呼んで。」
「・・・できたよ」
「さっき説明して横に置いた紐のついている
スカートを紐側を上にして腰に巻いて。絵が表。」
「・・・うん、できた。」
「こっちも違うしいえむすぽんさーの絵が書いてあるね」
「はは、見づらいけどねぇ」
「後は私が手伝えると思うからそちらに行くよ?」
「振り向くけど良い?」「うん」
振り向いて女の子の方へ移動する。脱げないように腰紐を
女の子の腰に合わせ。ボタンをしめていく。
「これで良し。持ち上げるね?」
隙間から出ている、着ていた前の服の裾を踏みつけて
女の子の脇を抱え上げる。するとスッポリと脱げた。
「はい、よくできました。」女の子を褒め称える。
そして女の子を脱げた服の隣に置く。
「・・・どうしてわかるの?」・・・うん?何が?質問の意味が?
私が男だから、女性の服に詳しいのか疑問に思ったのかな?
「・・・うーん、君は料理を手伝ったりするかな?」「するよ?」
「じゃあ、野菜を洗う、皮をむく、適当な大きさに切る、鍋にいれる。
順番はどうかな?洗う前に鍋に入れる?」「・・・わかった」
なんとなく納得したみたいだが、関心されているような眼差しだった。
苦笑いしながら、
「それにお姉ちゃんを着替えさせたのは私だよ?」って言ったら、
「あっ」女の子の顔が成程って顔になった。
が、すぐにそのあとは複雑な顔になった。
「(お姉ちゃん、この男の人に全部見られたんだ・・・。)」
聞こえちゃってます。
着替えさせる際、変な想像なんてしてませんよ。苦笑。
「顔に塗り薬と、湿布を貼るね。」残りの部分を簡易治療する。
実は殆ど治ってるので、スキンケアクリームと美容美肌パックだったりする。
軽く包帯を巻いてと。・・・うん、顔の見た目は怪我人だ。
表情があまり良く見えない。
「顔の方も終わったよ。今は少し酷いけど、ちゃんと治るから大丈夫。」
「ホント?」「あぁ元通りになる。」「・・・良かった。」
自覚していたのだろう。
「あ、あとコレも付けて」「!」道具が付いたネックレスを取り出し、
女の子の首に手をまわして着けようとしたが、飛び跳ねられた。
実はトラウマにさせないようにする為のわざとの行動だったりする。
「あっ、ごめんねチョットびっくりしちゃったか。」「う、うん」
つけようとしたネックレスを見せる。ネックレスのトップ、つまり
中央には『神楽鈴之根付』がついている。
魔力を通す際に取り出して現物を見た時、思い出したことがあった。
入手した時、装飾品としても綺麗だったから、盗まれる危険もあると
思って、チョイと加工したんだった。と。
神楽鈴之根付は直径4cm程度の大きさ。黄金でできた小さな鈴が
沢山付いており、その中央に小さな宝玉が6つ、少し大きな宝玉が
1つ付いたものだ。見た目も綺麗。道具としての効果(意思疎通)と、
覚えていないが加護が幾つかある。(なんだっけ?・・・)
要するにそれなりの価値があり、盗まれやすい手頃な大きさなのだ。
ブローチにもできるし、文字通り根付にもできる。だが盗まれやすい。
だから、私はネックレスのトップに加工したんだった。
根付と合わせて負けじと黄金のチェーン。数個の宝石に隠蔽の術と
逆探知の術が施してある。
道具に目を付けられないようにする事と、盗まれたり、これを
与えた人に危険がある時に見つけられるように施したものだった。
『神楽鈴之根付』というより『神楽鈴之首飾り』と言えるのだが、
ま、いっか。よく覚えていなかった私が悪い。
「・・・綺麗。これは?」「『神楽鈴之根付』という道具で会話を
手助けしてくれるし、加護が付いている。」「加護って?」
「うーん、お守りって事かな。(覚えてないんだよ)」
「君にとって大切な物だから、無くしたり、取られちゃ駄目だよ。」
(私にとっても大事なんですけどね)
「・・・うん」じゃあ着けるね?「・・・うん」 かなり綺麗な首飾り
仕様になっているので気持ちがそっちのけになってくれたようだ。
あんな嫌なことはすぐ忘れる方が大変よろしい。
「これで良し」「・・・ありがと。」
「大切にしてね」「・・・うん。」
フードのついた上着を羽織らせる。・・・こんなもんだろう。
「さてと、応急処置と着替えは終わったね。」「応急処置?」
「そう、一時的。」女の子は少し驚いている。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんも君も絶対治す。」
「・・・」「絶対にだ。」
疑われているかと思って強調したが、どうも違うらしい?よく分からない。
「まぁ、ちゃんと治療したいけど、今あまり時間が無いんだ。」
「向こうに人が居る。怪我人もいる。君たちの連れでしょ?」「うん」
「とりあえず、移動しよっか?」そう言ってタオルなどを片づけ始める。
お姉さんを抱えて移動できる準備をした後、女の子に背中を向ける。
お姉さんを起こさないように小声で「『おんぶ』って分かる?
私の首元に両腕を回して抱き着く。そうそう、そんな感じ。」
「両足を広げて、私が足を抱えるから・・・じゃあ移動するね?」
襲われていた所を眠らせた術が解けてしまう頃合いになっていた。
少し急いでいる事をわかってくれたのか、女の子は躊躇せず
背負われてくれた。移動の途中、女の子が心配する。
「・・・大丈夫かな?、皆殺しだって言ってた」「そうなのね」
「みんなの所に着いてもまだ声は出しちゃだめだよ?」と伝える。
私に抱えらえて、眠っているお姉さんを背負われている横から、
心配そうな感じで除き見みていて、「・・・うん」と頷いた。