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某異邦人の放浪記  作者: 明々後日の咆哮
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1-03 都合で即完治できない① 乖離傀儡術


 そのまま先ほどの女性の所へ戻る。男の声は聞こえなくなった。

風術で結界みたいなものを作り、安全を確保する。下種野郎の死体は

見せたくないし、見たくもないので、術を通して土や落ち葉を被せた。


 怪我や傷は完全治癒・回復術を使えば直ぐにでも治すことができる。

しかし、私は過去の酷く苦い経験から、それができない。

速攻ですぐに人外扱いされてしまう。それは碌でもない経験だった。

また、即完治の治癒術はやはり無理があり、怪我人や病人に結局負担を

強いる事になる。


 どうにもならない、余程の時以外は絶対使わない事を心に決めていた。

問題はその治療加減が非常に難しい事である。


 女性は血まみれの状態で本当に死んでいるように見えた。片腕も無い。

(「私の右手知りませんか?・・・」なんて冗談思ってる場合ではない)

私の腕に抱えらえた女の子は、その姿を目の当たりにして呆然自失。

 隣にそっと置いたが、横になり蹲ってしまった。

相当ショックだったのだろう。・・・しかし、まずは女性の治療を・・・



 おびただしい血の付いた服を割いて傷口を確認する。

致命傷になるほど女性の胸の傷は深く無い。憶測だが逃げようとした時、

(死因をケツに剣が刺さった事で死んだ(事にしておく))下種男に

右腕ごと切られたようだ。傷口を洗い流すため、麻酔と消毒薬を生成し、

同じく生成した生理食塩水に混ぜ込む。救助時に風術で止血していた

腕元を紐で縛る。風術を徐々に解除しつつ、生成したそれを使用

しながら、傷口を洗い流す。切断された右腕も洗浄して元の位置に戻す。

高位治癒術と高級回復ポーションを使って、主要な組織を再生し繋ぐ。


      ・・・切断された腕を元の状態に戻す。

        本当ならこれも有りえない所業。

  しかし、私が可能な能力を隠すため、できる治療もせずに、

   『一生片腕で暮らせ』なんて、それはとても酷い話だ。


 何より『お前も全て自己都合的な理不尽を人に与えるのか?』と、

      散々理不尽さを味遭わされて、味わって来た

     自分の矜持が絶対に許さなかった。お前もかと。


指摘されたらごまかす。人外扱いされかねない事だが覚悟は決めた。


・・・。


 右腕の治療を進めていく上で分かった事もある。緑の化け物が

女性を傀儡にしようとしていたらしく、嗅がせていたものは、

ほぼ『乖離傀儡術』に用いる道具だった事だ。

診ながら治療するからに、女性の雰囲気が普通ではなかった。

香炉は回収してある。(臭すぎ)


 乖離傀儡術は、体の持ち主である本人の魂を、何らかの異常状態に

することで、本人から体自体を奪う『乖離術』、そして使役する『傀儡術』。

傀儡術だけでは操作が制約制限される。乖離術と一緒に使われて

しまう事が多い為、2つの術名が1つの術名として呼ばれる事も多い。


 乖離術で体を奪われると仮死状態に近い位、代謝が酷く低下して、

体自体は死に難くなる。(切られても、血がドバっと出ない。) しかし、

新陳代謝がおかしくなる為、暫くすると乖離状態となった体からは独特の

変な臭いがするが、その時は既に傀儡術で操作されている事から、

その点を誤解されている事も多い。

 また異常状態にした魂が、完全に抜けてしまったり、体の自由を

長期間奪われ続けたままだと、魂が戻れなくなってしまい、

実際死んだようなモノになってしまう。


 傀儡術は文字通り、傀儡にする術である。本人の意識を消すか

洗脳して操作できるようにするか・・・。等々何か色々されてしまう

らしいが詳しくは私も知らない。


 体を他の者が好き勝手に使う。生死なんて元々問いてないから、悪い

奴は盾に使ったり、罪を着せる為、その状態で他人を襲わせたりする。

碌でもない外道魔術の一つだ。


 これら2つの術は”後で元に戻せる”という前提で、術が基本的に

造られていない。使われた体の用途が”使い捨て”だからである。

使われた側やその身内は堪ったものではない。被害者達が必死に

なってその後の研究を行った事は言うまでもないと思うが、そのお陰で

2つとも、元に戻せる方法は作られてはいる。しかし、全てではない。

しっかり調べ対処しないと術式が違って悪化すらする事もある。


 超身勝手な術なので、”基本戻せない”というのが常識である。

さらに他の理由で元に戻せる状態が稀になっていくから、

”戻せない”という事に拍車をかけてしまっている。


 乖離傀儡術を施された後、大概置かれる環境が酷い。(食事、寝床無し等) 

日に日にそれらが積み重なって、魂と体への状態が悪くなっていく。

発見が遅くなる事も多く、時間が経過している事で元に戻せないのだ。


 この女性の場合、出血多量の状態で緑の化け物から導入を受けた様子。

しかし私が序盤で阻止したから、落ち着く場所で術式を調べて処置すれば

何とかなるだろう。しかし、元に戻すにも時間と道具、そしてコツがいる為、

私もすぐには戻せない状態だった。

今はどうにもできない。しない方が良い。そう判断する。ある程度状態が

分かったので、引き続き物理的なケガの治療を続ける事にした。


 引き続き診断と簡易治療を施していく。流れ作業のような感じで。

殴られた跡の頭部の傷、他の部位の怪我の止血と消毒。

瞬間接着剤を使用して傷口ができるだけ目立たないように治療する。

切られた胸は傷が残らないように治癒術をかけ、ガーゼを当てて、

さらしのように軽く包帯を巻く。先にゆったりめの前割れのシャツを着せる。

後で腕を首から吊るす為、着せておかないと着られない。

治療中の右腕を添木と包帯で固定し、破邪符・聖護符を巻いておく。

顔も殴られているが、隣で蹲っている女の子ほど酷くはない。湿布を貼る。

足とかはケガをしている様子は無い。ロングタオルをスカート状に術で

仕立てて加工生成し着せる。血だらけの破れた服は回収し、閉まっておく。


 睡眠を促す薬や乖離を抑える薬、造血剤等々を水に混ぜ、少し口先が

長い吸飲み容器にいれる。女性を抱きかかえた状態で吸飲みを

口の中へ差込みゆっくり流し込む。・・・少しずつ喉が動く。飲んでくれた

から大丈夫。最悪は回避できる。効かない場合は、吐き出してしまう。


 三角巾で右腕を首から方に吊るし、私が着ていたフードがついた

白いローブを着せる。『隠者のローブ』という、隠蔽効果があるローブだ。

(逃避に必需品だと思って。)暴力を振るわれた顔なんて見られたくは

無いでしょう?

体に負担を与えないように抱えて移動できる状態にした。


・・・作るのって大変です。あとからあとから・・・

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