”4” 血縁のない姉は天使
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《えーと……つまりそれは》
混乱する脳内を少し落ち着かせ、状況を整理する。
《あなたは僕をこの世から消し去るために、姉として僕の家に入り込んだんですか?》
「全然ちゃうし。人の話聴いてた? 私はあくまでゆーわの“管理”を任されただけ」
《それ管理じゃなくて監視じゃないでしょうね……》
韻を踏んでいる。
が、そんな駄洒落に天使が構ってくれるはずもなかった。
「まぁ、ゆーわ君は今の所女子校に居座ってるただの変態幽霊みたいだし……」
――否定できない。
「特に問題もないから、……そうだなぁ、しばらく様子見ってことで」
《……成仏させなくていいんですか》
僕は特に邪念の余地もなく、ほとんど流されるようにその疑問を口にした。
――が。
「いいや、それは私の仕事じゃないしね。――……私たちの仕事は、殺したり成仏させることじゃなく――
この世から完全に消し去る
――ことなんだから」
《…………》
落ち着いた口調。変わらない表情。――それなのに、今の義姉の言葉は、ひどく冷酷な響きに感じられた。
鳥肌が立った。
――……なんだこの、感覚は。
まるで、僕がこの天使に恐怖しているみたいじゃないか……。
「勘違いしないでよね」
と、文面では照れ隠しともとれる言葉を、アンギラはさも何事もないように、“普通のことを言っている”ように、発した。
「私は今、あなたをこの世から消し去ろうなんて目論見はさらさらないから」
《…………》
「何? その疑るような怖い目は。可愛くないわよ」
――と。
何か、違和感を感じた。あるいは親和感。もしくは既視感。
《“消し去る”……?》
「ん? どうしたの? 可愛い弟君。おねーさんに言ってみて」
わざと胸の谷間を見せつけるように、アンギラは前屈みの慈愛顔で、僕に猫撫で声で話し掛けてきた。
しかし、その時僕が感じていた“何か”は、その誘惑に打ち勝ってしまうほどに、強く根強いものだった。
《アンギラさん……》
「ん? おねーちゃんなんだけど」
当然のように無視する。
《あなた……もしかして》
僕は、訊ねる。
半信半疑で、文字通り半ば思い付きでしかなかった。
――女子中学生を虐めていた生徒を、この世から消しませんでしたか――と。
驚くことに、答えはイエスだった。
*
「で?イマイチ筋書きが呑み込めないんだけど……説明ヘルプ」
《いや、――つまりさ……》
場所は変わって淑聖女学園三年F組の教室。
時刻は七時四十五分ほど。まだ椅子は一割ほどしか埋まっておらず、仲倉にとっては幽霊と会話するにはベストな環境なのだろう。
ちなみに、ようやく仲倉も周りの視線を気にし始めたようで、僕と会話する際には必ず声を潜め、片手を添えるという配慮をし始めた。こういっちゃあ何だが、普通なら誰しもすぐにやることだ。
義姉に対面した(何も知らない方からすると意味不明な文面だ)日の翌日。ようやく事の発端から一週間が経ったところで、――つまりはまた地獄の月曜日の朝を迎えたところで、僕は仲倉に一連の事件の解決編を語る羽目となった。――まぁ、聞いたことをそのまま伝言するだけの形だが。
「まず、三島ちゃんに痣を付けた犯人は、一体誰なのよ」
《いきなり直球な質問だな……もうちょっと前後の流れっていうか……》
「三島ちゃんに痣を付けた犯人は誰なのよ」
《…………》
怒らせてしまったらしい。
さすがにそれに抵抗する度胸は僕にはなく、仲倉に勝ちを譲った。
《帆波ちゃんの身体をあんなにしたのは、恐らくこの学校の生徒だ》
「下の名前ちゃん付けは今は見逃すけど……――え?何?淑聖の?」
《ああ。――いくら頭のいい学校でも、いじめっ子や不良はいるもんだろ》
「いやまぁそうだけど……」
納得のいかない表情だった。
僕は目線がほぼ同じ高さに来るように、空中で腰掛けるような形で浮遊する。
「でも、そうしたら三島ちゃんが痣の原因が判らないわけないでしょう――まさかあの娘、私たちに嘘をついたの?」
《いや、三島の名誉のために一応言っておくが、あいつは本当に痣がイジメでつけられたことを知らなかったんだ》
「? ――言っている意味がよく判らないんだけど」
眉を顰め、気分が悪いような仕草をとる仲倉。こんな姿はある意味新鮮だった。
《要するに》
と、これ以上焦らしても仲倉の反感を買うだけだと思い、まとめる。
《イジメっこの生徒たちが三島に暴力を振るって、見かねたうちの迷惑天使がそいつらをこの世から消去したってわけだ》
「……ああ!」
やっと得心がいったように、仲倉は手をぽん、と叩いた。
そう。
帆波ちゃんが自分を虐めていたことに気がつかなかったのは、その記憶さえもすべてあの義姉の手によって消し去られてしまったからなのだ。
「しっかし」
と、真相が明らかになってもなお、仲倉の表情に機嫌は戻らない。
「私、後輩がいじめに遭ってたのに、なんにも気付いてあげられなかったのか……」
《いや、気持ちは判るが……第一、中一のいざこざなんて僕らには知る由もないだろ。――それに、知っていたとしてもどうせ憶えちゃいない》
どうせあの天使に、まるまる消されてしまうのだから。
しかし、僕のフォローも意味を成さなかったらしい。
「そしたらなおさらだよ」
と、意味深なことを言い、仲倉は頭の後ろで手を組んだ。
「でも、そのアンギラさんって人、天使の割には容赦ないのね」
《ああ、どっちかっていうと死神みたいだ》
あの時の、アンギラの表情。
人の存在を消すことを、何とも思っていないようだった。
――もしかしたら、気付かないうちに今も誰かがどこかで消されているのかもな……。
そう思った。
あのいじめっ子たちがどういう理由で虐めをしたのか。そして彼らはいったい誰なのか。――そんなこと、今となっては“彼女”にしか判らないのだ。
そのときだった。
教室のドアが横に引かれ、
「おはようサンデー!」
という、元気な声が飛び込んできたのは。
その小柄な少女は、ペンギンのような足取りで、しかし素早く、呆気にとられる仲倉の前に仁王立ちし、こう宣言した。
「今日、肝試しをしますっ‼」
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ひき続き次回も……