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第77話 石のドラゴン

 前回と比べればピクニックのような気楽さで、階段を上へ上へと進んだ。いくつかの罠は外せなかったが、現れた敵は問題なく倒した。そしてそのまま、さほどの困難にも出会わずに目的の場所へと着く。

 いよいよ本番だ。ここまで上ってくる間に、それぞれの役割分担を決めた。巻き込んだヨルマにも、巨人族の怪力を生かしてもらうことにしている。


「この扉の向こうが石のドラゴンの出る大広間だ。中に入れば隠れる場所はない。みんな準備はいいか?」

「問題ない」

「シモン、リリアナを頼んだぞ」

「任せておいてください。僕はこう見えても力持ちですからね」


 長い魔法の詠唱中は無防備になるリリアナ。こんな接近戦に極大魔法は、あまり向いていないのだ。だが今回の敵は巨大すぎる。リリアナの破壊力のある魔法を一回は当てておきたい。

 そこでリリアナの詠唱中にもしもドラゴンが攻撃してきそうになったら、シモンが抱きかかえて逃げることにした。余計な荷物は持たずに身軽になったシモンが、腕の力こぶを自慢している。どの程度の力こぶかは……言わないでおこう。


「今回の要は魔法使いチームだ。アル、クリスタ、俺たちはひたすら走って撹乱する。狙うのは右足のみ。立ち止まるなよ」

「もちろんだ。さっさと行こうぜ」


 扉を押し開き中へ進むと、部屋の中央にある魔法陣がキラキラと輝く。その上には以前と同じように、美しいイリーナの幻影が現れた。


「おや、あなた方は。再びここへ来ましたか。二度目なら説明もいらぬでしょうね。若き獣よ、そなたの仲間の力、見せてもらいましょう」


 イリーナの幻影は背中に手を伸ばし、大剣を両手で持つと、頭上に掲げた。

 今度はもう何が起こるか分かっている。イリーナが消えるより前に、武器を構えて持ち場へと散っていった。


「力を求める者達よ、力を示しなさい。さすればその身に、さらなる力と責務が課せられるでしょう」


 イリーナが剣を足元の魔法陣の中心へと突き刺す。


「来るぞ、油断するな!リリアナ、頼む」


 リリアナはすでに、長い詠唱を始めていた。無防備なリリアナを守るべく、側にはシモンとゾラが待機。魔法陣からは一番遠く、大広間の入口を入ってすぐのところだ。

 俺たちの中で一番の破壊力を持つのはリリアナの魔法だが、今回はそれだけで決着がつくとは限らない。魔法が発動するまでの時間稼ぎじゃあだめだ。撹乱しながら、俺達も奴を倒すつもりで攻撃する!


 イリーナの姿は消え、そのあとには前回と同様、距離感がおかしくなるような巨大な石のドラゴンが現れた。


「へえー。本当にバカでかいな」

「エリアス、油断するな。アル、行くぞ」

「おう」


 最初の狙いは奴の右足の関節だ。俺は手に持った戦斧を振りかぶって、足にめいっぱいの魔力を込めた。

 速さこそ俺の武器!


「はああああっ!」


 奴は前回と同じように、左足を上げて俺を踏みつぶそうとする。思った通りだ。

 間にあわせてやる!

 奴が足を上げようとした瞬間に残った右足の側まで駆け寄り、戦斧を関節に叩きつけた。


 ガッ!

 鈍い音がして石のかけらが砕け飛ぶ。

 そのまま斧を手元に引き戻し、もう一度振りかぶる。

 パアアアンッ。

 高い場所で破裂音がした。


「ギュオウアア」

「はっはーん。リリアナ、この爆裂魔法、最高だな!」


 ヒューが放った魔法がドラゴンの背中に当たったようだ。ドラゴンが気を取られて大きく首を回した隙に、俺の斧がもう一度足の関節を削る。

 同時に俺の反対側からアルが攻撃。両手に持った掘削用の魔道具を二度、三度と突き立てた。


 パン、パーンと続けて数発の魔法が上空で炸裂している。ヒューとレーヴィの魔法攻撃だ。炎を風でくるんで投げつけ遠方で爆発させる、リリアナ直伝の複合魔法。カリンもヒューたちとは反対側に回って攻撃を始めた。


「アル、気を付けて!」


 カリンから声がかかった。足元にいるとドラゴンの動きが分かりにくい。

 後ろに逃げると同時に、魔法を嫌がったドラゴンが足をバタつかせた。ぶわっと風が当たる。

 アルも足踏みを避けて後ろにふっ飛ばされたようだ。


「大丈夫か?」

「ああ、問題ない」


 体勢を立て直して、俺たちはドラゴンの足元からいったん距離を取った。

 何発か打ち込めば関節から足を切り落とせるかと思ったが、無理か。固い石が多少削れるものの、ダメージを与えているかは分からないレベルだ。


 俺とアルが引いた代わりに、今度はクリスタが前に出た。後方にいる魔法使いになるべく注意が行かないよう、身体強化が使えるクリスタも前線で撹乱する。

 クリスタの手には数本のくさびがあった。小型のナイフくらいの鈍色にびいろの楔、その端には青い魔石が埋め込まれている。

 クリスタはドラゴンに駆け寄っては、俺とアルが攻撃した場所に、五本の楔を次々と正確に打ち込んでいった。


「よし、次はこっちだ。クリスタちゃんは下がって!」


 ヒュー、レーヴィ、カリンの三人が前に出て杖を構える。


「届け、トゥルエノヴェロス」


 杖から放たれた稲光がドラゴンの右足へと走る。

 威力はさほど強くない雷の矢だが、その向かった先には魔石付きの楔があった。

 パシン。バババババッ!

 避雷針となった楔に雷の矢が当たる。楔の魔石がその矢を吸い込み、閃光が迸った。楔は激しく音を立ててドラゴンの足の中へとめり込む。この楔も武器ではないが岩を割るための魔道具だ。


「トゥルエノヴェロス、トゥルエノヴェロス」


 流星のように次々と雷光が放たれ、楔はさらに奥へと打ち込まれた。


「ギュエアウアアッ」


 ひときわ大きな声でドラゴンが叫ぶ。石でできた太い右足がメキメキと音を立ててひび割れていくのが見える。


「下がれ!」


 俺の声で魔法使いたちが攻撃をやめて壁際に引いた。

 ドラゴンの右足のヒビは膝のあたりまで伸びている。そしてバキッという音とともに右足が割れて本体が大きく傾く。


「やったか?」

「まだだ」


 横倒しになるかと思ったが、多少不安定な格好のままドラゴンのやつはそこに踏みとどまった。痛みは感じていないようだ。

 さすが、石だからな。さらには首を回して攻撃してきた先を探している。

 壁際に下がった魔法使いと交代で、今度は俺たちが前に出た。


「もう一度、右足だ」

「気を付けて。こいつ、用心してる」

「おう!」


 ドラゴンは歩きにくくなったからか、羽を広げて俺たちを振り払おうとする。

 そのたびに強い風が巻き起こった。その合間を縫って今度は右足の膝辺りに二本の楔を打ち込むことができた。


「こっちからも行くぜ」


 エリアスの声が響く。エリアスとレンカが、ドラゴンの右斜め後ろに配置した据え置き式の大型弓から数発の弾を撃ち込む。そのうち四本が羽の付け根あたりにめり込んだ。弾はクリスタが使ったのと同じ魔石付きの楔だ。


「ギャアア」


 ドラゴンは首を左右に大きく振るう。

 視線の先には弓が。側にはエリアスとレンカが立って次の弾を準備してる。

 だめだ、間に合わない。


「弓は置いて逃げろ!」

「くそっ」


 怒り狂ったドラゴンが尻尾を大きく振りながら、歩きにくそうに移動を始めた。エリアスとレンカが名残惜し気にその場を離れる。ドッスドスと地響きを立てるたびに、斜めに割れた右足が短くなる。だが思ったよりも早く移動できるな。体が大きいから一歩が大きいんだ。設置していた弓を踏みつぶした。

 期待していた武器だったが、あっという間にガラクタか。


「思ったより走るのが速いわ」

「ちくしょう、弓が……もう使えねえか」


 弓を壊した後、そのままレンカに向かって行こうとしたドラゴンの鼻先に、レーヴィの魔法が背後から飛来する。

 後ろからの攻撃に、標的を探し振り返ったドラゴン。


「俺たちもいくぞ」


 あと二本は右膝に楔を打ち込みたい。しかもドラゴンの標的が一人に絞られないよう、走り回って出来る限り攻撃を当てなければならない。だがドラゴンも動き慣れてきたのか、俺たちが近付くと不安定ながらもドスドスと足で追い払おうとし始めた。

 厄介なのはその太く長い尾だ。奴が方向を変えるたびに、ぶんぶんと振り回される尾の勢いは、当たれば無事ではいられないだろう。

 リリアナも走り回るシモンの背の上で詠唱する羽目になっている。


「あの尻尾をどうにかしねーと」

「今のままじゃ、まだ無理だ。どうにかして足を歩けなくなるまで切り落とすんだ」

「立ち止まっちゃダメ」

「分かってる!」


 声を掛け合いながら、ドラゴンの足元に駆け寄っては一撃当てて逃げる。しかしドラゴンが巨大すぎて、どうしても足しか狙えない。どうにか体勢を崩して頭か胴を狙いたい。もっとも、足が折り取られても平気な石の魔物だ。普通の生き物と同じ場所に急所があるとも限らないのだが。


 手元の戦斧にちらっと目を落とす。

 こりゃもう駄目だな。刃は潰れて柄も曲がっている。

 最後の一撃だ。力も加減せずに、すれ違いざまに思いっきり関節に叩きつけた。


「ヨルマ、武器をくれ。掘削魔道具だ」

「おう」


 今回の戦いでは、ドラゴンが石でできていると分かっていた。だから武器が壊れるだろうと仮定して、予備を多めに持ってきている。元々はそれをシモンに持たせるはずだったがヨルマが来たので急遽武器係を任せている。

 俺に掘削の魔道具を渡したヨルマは、次にクリスタに楔を手渡すため、休む間もなく走っていった。


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