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第53話 遺跡散策

 転移陣はきっとこの砂の下にある。確認のため、今度は三人で砂浜を掘ってみた。膝より少し深いところで硬い岩に手が当たり、思った通り転移陣が見える。場所と大きさをしっかり見ておいて、もう一度砂をかける。

 転移陣は接してなくても、魔力を流し込む場所さえ間違えなければ発動する。なので、個人用の転移陣はこうして土や砂をかけて隠しているのだと、リリアナが前に言っていた。

 リリアナが作った崖の上やラビのいる無人島の転移陣も、もちろんしっかりと土の下に隠されている。


 自分たちが入っている間、他の人がこの場所に来るようなことは多分ない。しかしもちろん用心はしておく。砂を掘った痕跡を消すのは、簡単だ。

 ごく普通の景色に戻った砂浜で、三人そろって転移陣の上あたりに乗る。


「じゃあ行くぞ」

「おう」

「……」


 地面に向かって魔力を流すと、薄っすらと転移陣が光を放つ。明るい砂浜で、それが俺の目に見えたのは本当に一瞬だった。


 気が付けば、足元は硬い石の床。転移陣の光はすぐに消え、闇に包まれる。

 真っ暗な空間に、洞窟か何かを想像し、俺たちは武器を構えた。しかし一瞬の後に無数の明かりが辺りを照らす。

 カリンが思わずため息をついた。それは大国の王宮にも匹敵する、大広間だった。

 俺達が立っているのはそのちょうど中央。周りには大きな四本の柱が天井を支えているほか、何もない。床は綺麗に磨かれた大理石だ。白い壁には、等間隔で明かりの魔道具が設置されている。


「あ……」

「どうした?リク」

「……いや、魔力を吸われてるんだ。おそらくこの城に」


 それはリリアナと一緒に、冷却の魔法陣に魔力を流した時の感覚に似ていた。しかし流れ出す量はずっと少ない。問題は無さそうだ。

 アルとカリンが警戒して緊張感を増すが、大丈夫だと手を振っておく。


「俺は特に変わったことはないぜ」

「私も何ともない」

「大丈夫だ。明かりをつけるのに使われたんだろ。大した量じゃない」


 そんな事よりも広間をよく見たい。装飾品など何もないが、荘厳な雰囲気に心惹かれる。少々魔力を吸われたとしても、明かりがつくのはありがたかった。俺達はそれぞれ、思い思いに気になったほうに目を向けた。

 奥の壁際には、上に向かう階段が見える。ぐるりと見回しても、ドアらしきものはない。四本の柱には何か模様が彫られている。カリンはそれが気になったようで、そのうち一本の柱に向かって歩み寄った。

 俺とアルは階段の方へ向かう。


「リク!ちょっと待て」


 アルが声を上げた。

 振りかえると、カリンが膝をついている。

 先に気付いて駆け寄ったアルが、カリンの肩を抱いて支えた。


「す、すまぬ、急に魔力を吸われて驚いてフラついたが、大丈夫だ」

「さっきまでなんともなかったのにな。今度は俺も吸われてる」

「アル、もう支えてくれなくてもいい。吸われなくなった」


 俺も近づいて三人一緒になると、アルとカリンからの魔力の流出は止まった。

 くっついたり離れたり、色々試してみる。どうやら、バラバラになるとそれぞれから魔力が吸われ、固まっていればその中の一番魔力量の多いものから吸われるようだ。


「団体行動しろってことだな」

「……そのようですね」


 不本意そうにカリンが俺のそばに立つ。

 三人そろって、柱のひとつに近付いてみた。柱に彫られている模様は、伝説の魔物と勇者たちの戦いの様子を描いたもののようだ。所々に説明と思われる文字もある。その文字は魔法陣に書かれているのと似ていて、俺達には読めない。


「リリアナがいればきっと読めるんだがな」

「あー、あのちっこい狐か。ここにいるかと思ったんだが、いねーな」

「読めないものをいくら眺めていても仕方がない。リリアナ様を探さねば。さあ、上へ行きましょう!」


 カリンが先頭に立って、階段に向かい歩き出す。

 あ、こら、そんなに急いだら……


「うっ」


 慌てて追いかけたが、俺たちと離れすぎたことで、カリンはまた魔力を吸われた。今度は一瞬体勢を崩しただけで、すぐに持ち直したんだが。


「そんなに慌てるなよ。どうせ上に行くしかねーんだから」


 アルは乱暴に言いつつも、左手でカリンを抱き寄せて、そのまま肩を組んで歩きだした。カリンはアルの距離感に戸惑いつつも、黙って歩く。

 普段はツンケンして俺を無視するが、調子が狂うのか、今は雰囲気が柔らかい。

 アルも殺伐とした雰囲気はすっかり引っ込めてしまい、陽気に前へと進んでいった。


 ◆◆◆


 長い階段を上っていくと、途中で広間の灯りが消え、上の階の灯りが灯った。

 下の階と違ってここはいくつもの小さい部屋に区切られて迷路のようになっている。

 古い遺跡には魔物が入り込んでいることが多いが、今のところ、そんな気配はない。それは良いけれども、先に入ったはずのポチの気配もなく、小部屋を一つ一つ確認しながら通り抜けるのにも気が急く。


 廊下を歩き、ドアを見つけるたびにノブに手をかける。どの部屋も抵抗なく開き、中を見ることができた。いくつかの部屋は何も置かれていない空っぽの部屋だったが、中には家具が置かれていたり、壁に絵がかけられている部屋もある。


「ここは……図書館みたい」

「これほどまでに本が並んでいるとは」


 近寄って手に取ってみるが、やはり文字は読めない。

 しかし長い年月を経たように見える本だが、手に取っても形を保っている。


「部屋の様子を見れば、人が住んでいたようだけれど」

「ああ」

「でもこうして物が綺麗な形で残っているということは、ずいぶん長い間、誰もここに入らなかったということか」

「どうだろうな。理由はともあれ、せっかくの本の山だが、文字は読めん」


 貴重な資料かもしれないが、今、それを読み解く時間はない。

 次の部屋は武器庫だ。アルが目の色を変えて調べ回ったが、どれもこれも、ごくありふれた古い武器に過ぎなかった。


「ちっ、こんなんじゃねえ。もっと他にあるはずだ」

「次の部屋に行ってみよう」


 そうして残らずドアを開けて歩いたが、結局アルの探し物も、俺たちの探し人も、見つからないままに、次の階へ上る階段が目の前に現れた。


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