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第12話 まずは基地を整えて

「ところで、この石板に書いてあるのがお前の一族に向けてのメッセージなら、仲間に連絡をとらねえとな?」

「くええ……」

「ここからお前の住んでた山って近いのか?」

「ぐええ」

「遠いのか」


 ポチは、ぐええ……といいながら、地面にべったりと貼りついてしまった。しっぽだけがゆらゆらと元気なく揺れている。簡単に帰れる距離じゃないんだろうな。

 とはいえ、知ってしまったからには放っておくわけにもいかない。聖なるルーヌ山とやらに、ポチの一族を探しに行く。それを、これからの当面の目標にしよう。

 ポチは今のところ、ただ一人の俺の家族なんだから。

 ああ、イリーナの森のみんなは……、今も森のどこかで元気に暮らしているだろうか。誰か、俺の知ってるやつは残ってるのかな。

 いつか帰りたい。

 あの日、村が人族に見つかったときの惨劇を、なるべく思い出さないように……。俺はただ、幸せだった日々だけをまぶたに浮かべた。


 ◆◆◆


「そういえば、お前人の姿になれるんなら、なんでずっと子狐でいるんだ?」

「くあっ? ぐええええええっ!ぐえっ、ぐああ」

「こ、こら、怒るなって、分からんわ!」


 どうやら聞いてはいけない事だったらしい。

 怒ったときのポチの反応は、かなり可愛い。と思っているのは内緒だ。

 しかし……どういうタイミングで怒りだすのかが、全く分からないんだが!


 しばらく俺に頭突きを繰り返していたポチだったが、飽きたらしくまた洞窟内の探検を始めた。俺ももう一度隅々まで調べることにした。


 洞窟の中は、イェスタという幻獣がかなり長いこと、住んでいたようだ。

 湖のあるほうの部屋は入り組んでいて、小さなくぼみがたくさんあったが、通り抜けられるような道はない。足元もごつごつした岩で、暮らしにくそうだし、イェスタもこの部屋は使っていなかったようだ。

 広間の方は快適というほかない。気温も外よりは格段に過ごしやすく、所々天井に穴が開いているものの、雨風は充分にしのげるだろう。地面は岩のデコボコを埋めるように土で覆われ、苔や背の低い草が所々をじゅうたんのように覆っている。

 ベッドやテーブルは森の木を使った手作りのようだ。つまり、丸太を切って転がしているだけともいう。

 ベッドのそばには服や寝具だったのだろう、シーツ以外にも布の残骸が残っていたが、残念ながら着れそうな服はない。


 そして、かまどや鍋が見つかったので煮炊きできるのも素晴らしい!

 食器や鍋はいくつかは落ちて割れているものもあるが、ほとんどはきちんと隅に片づけられている。

 かまどに使っている煉瓦や、この鍋や食器は、形も綺麗で大きさもそろっている。きっとどこかの人里から持ち込んだに違いない。ということは、ここからさほど遠くない場所に人里がある可能性が高い。もちろん、百年以上前のことだが。


「ここを拠点にして、人里を探すか。ポチの一族の住む山にも行かなきゃならないしな」

「くあ?くえくえ!」

「本当はもう少し、人里から離れていようかと思ったんだが」

「……ぐああ」

「まっ、ここに居てもやることもないし、ポチが生まれた場所も見てみたいからな」

「くえっ!」


 ◆◆◆


 結局、本格的に人里を探す探検に出られたのは、それから十日も後の事だった。

 それまで何をしていたかと言うと、食べ物と住環境の充実だ。


 最初の野営地から洞窟までは寄り道せずに2時間ほどかかる。まずは二往復して干し肉を運び、洞窟の中に持ち込んだ。

 実の生る木は洞窟の近くにもたくさんあって、あの美味しい黄色い房の果実もすぐ近くで見つける事ができた。しかしジーナの実は今のところあの一本しか見つかっていないので、翌日、両腕にいっぱい抱えて持ってきた。洞窟の中を流れている川のなかに、石で簡易に囲いを作って放り込んでおけば、数日は冷え冷えのおいしいジーナの実を食べられる。

 森の中で見つけた蔓芋の実も、抱えきれないくらい千切って持って帰った。途中、コロコロといくつも落としたので、数年後にはこの辺り一帯が蔓芋畑になっているかもしれない。

 その頃はもう、ここには住んでいないんだろうが、ちょっと見てみたい気もした。


 最初の野営地からは、カプロスの毛皮ももって来た。洞窟に持って来てからも数日、外の川の水に浸けておいたのだが、昨日ようやくなめす事ができた。

 塩水につけた革は何度か綺麗に洗い、揉んで毛も抜いた。今は外の木に張りつけて乾かしているところだ。


 そう、塩水。なんと洞窟に引っ越した翌日、ポチが塩を見つけてきた。

 洞窟からは少し離れた場所なのだが、森の中に木が少なく開けた岩場があって、そこに岩塩が露出している。動物たちもここに塩を舐めに来るようで、俺が行った時も鹿が慌てて逃げていくのが見えた。俺は剣の柄で岩を割って、いくつかの塩の塊を洞窟に持って帰った。これで肉に味がつけられる!


 そういえば、カプロスが死んで数日たつと、あちらこちらでシカやウサギを見かけるようになった。

 肉食獣や危険な魔物にはまだカプロス以来出会っていない。けれど、いないわけではないだろう。荒くれ者のカプロスがいなくなった今、いつ襲ってくるかも分からないと、気を引き締める。

 毒のありそうな蛇は何度か目にした。毒の有り無しを判断できないので、見つけたら躊躇せずに即、首を落としておく。

 まあ、焼いて塩を振った蛇が、かなり旨いから……という理由もある。


 洞窟で過ごす毎日は、忙しいような暇なような、何とも楽しい浮足立つ日々だった。だがずっと、このままではいられない。

 重い腰をあげて、人里を探すためにポチと二人、洞窟を後にした。

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