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俺と昔の

 俺とナツで話しているときに突然現れた二人組。そいつらは仮面をつけ、フードを目深に被っているため表情がわからない。わかっているのは声からして、男女ということ。


 そして、俺の名を()()()と呼んだことぐらいだ。


「ナツ、やめておけ。こいつらはそんなのじゃ無理だ」


 静かに手を動かすナツに、俺は言う。ナツの手の行き先は、恐らく腰に隠し持ったナイフ。

 ナツは少し躊躇ったが、最後は二人組から目を話さずにゆっくりと手を腰から戻していく。


「こいつら、ねぇ。ジークそんな言い方すんなよ。寂しーだろぉ?」


「そうよ、私とジークの仲じゃない」


 目の前の二人組は何が楽しいのか、笑ってそう言ってきた。しかし仮面をつけているため、実際の表情は読めない。


「……俺はもうジークじゃない。こんな所に何しに来た?」


「あー、大丈夫だ。用事はちゃんとあるからな」


「けど、今はさっきの理由を聞かせてくれないかしら」


「「何故私たちパーティー仲間に何も言わずに、こんな所にいるかを」」


 その言葉を聞き、ナツは俺と二人組を困惑したような顔で見比べる。

 そんなナツの様子を視界の端にとめながら、俺の表情はかつて『竜のうたた寝』と、『英雄』と呼ばれた男の顔に変わっていった。


「何でここがわかった?」


「あら、無視かしらぁ? ま、いいわ。ここがわかったのは、そこに隠れているドラゴンがきっかけよ」


 女は何もないはずの空中に手を出し、そう言った。

 するとそこから少しずつ空間が歪み、アルクの形になっていく。

 完全に見えるようになると、アルクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


『我も衰えたものだな……』


「ふふ、違うわよぉ。わかったのは私の生まれ持った性質のせいね」


 女は目の中でうっすらと光る魔法陣を指差しながら、そう言った。男は、アルクと女を見ながら俺に話しかけてくる。


「あれの対処は元々俺らに来た依頼だったんだぜ?

 でもドラゴンの依頼を受けた時は別の依頼をやっててな、行こうとしたときにはもう誰が完遂したって言うじゃねえか。そんな早くドラゴンを対処出来る奴はそうそういねぇよな。しかも褒賞式も開かれねぇと来たもんだ。

 だとするとそいつは表には出て()()()()人間で、実力はトップクラス。


 俺とレイアは仕事の合間となっちゃあそいつの情報を集めたぜ」


 男は一度そこで言葉を止め、こっちを振り返る。

 やはり仮面で表情は見えないが、長い付き合いだったせいか俺にはどんな顔をしているかわかった。

 そしてこれからどんな顔をするかをも。


「そんな奴はお前ぐらいしか心当たりがなかったからな」


 そう言って笑う様子は俺の予想通りで、変わっていないと安心できた。


「フレイ……」


 きっと懐かしかったせいだろう。俺の口から、かつてのパーティー仲間の名前がポツリと漏れた。


「やっと呼んでくれたなぁ。嬉しいぜ」


「あら、フレイだけずるいわ。私の事は呼んでくれないのかしらぁ」


 女は仮面のしたでぷうっと頬を膨らませ、早く名を呼べと俺に訴えてくる。相変わらず、こいつらの感情は分かりやすい。黙っていなくなった俺をまだ慕ってくれているみたいだ。

 まるで昔に戻ったかのような光景に目を細めていると、袖をくいっと引っ張られる。見るとアルクがまだ警戒してろと目で訴えていた。

 その横で俺達の様子を静かに見ていたナツが、申し訳無さそうに口を開く。


「あの、失礼ながら何しに来たっすか?」


「うん? あぁすまねぇ、久しぶりにジークに会えて嬉しかったもんで」


「あらあら、時間が無いわねぇ。ギルドにいる理由と名前を呼んでもらうのは、次会った時にお預けかしら」


 二人はそう言うと横に並び、手を繋ぐ。すると徐々に足元が光り、光は文字に変化していく。浮かび上がった文字の並びから、転移魔法のようだと推測する。

 その魔法を使った二人はというと、先程とは違い感情無く機械的な声でこう言った。


「「伝令、伝令。ヨーゼと思われし者が見つかった。A級冒険者は全員参加。以上」」


 言い終わるのと同時に二人はまばゆい光を残し部屋から消えていった。


 部屋に残されたのは、二人からの『竜のうたた寝』としての言葉。決して逆らえない___からの言葉。

 そして言っていた内容は____。


「ーーロさん、ジグロさん、大丈夫っすか?」


 ナツの声ではっと顔を上げる。そうすると見慣れたギルドの景色が視界に入り、今の俺はギルドで働くジグロということを思い出す。


「ナツ、悪い。考え事してた。何だって?」


「いや、ジグロさんが全然動かなかったのでどうしたのかと思ってただけっす」


「そうか、心配かけたな。今日は初仕事だったのに、こんな事になってすまん」


「俺はジグロさんと一緒にいれるだけで十分っす。受付にいる理由はまた今度っすかねー」


 そう言ってナツは歯を見せて笑う。

 その様子を見ながら、俺は何も聞いて来ないナツの優しさに感謝した。俺はナツの肩に手を置いて、意地悪そうに笑う。


「午後から覚えてもらうこといっぱいあるからな。頑張れよ」


「はい! よろしくお願いします!」


 ナツの良い返事を聞き、俺達は部屋を出た。何事もなかったように。




 ……その日ナツの弱音がギルド内に響いたのはここだけの秘密である。

ちょっとずつジグロの事が明らかになってきましたね。次話ではもう少し掘り下げていきます。

そういえば総合ポイントめっちゃ増えてました!皆さんのお陰です!

これからも頑張るので、『英雄は受付に。』をよろしくお願いします。

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