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俺と後輩

 俺はいつも通りカウンターに立とうとギルド内を歩いていると、ギルド長であるアイザックさんに手招きされた。

 アイザックさんも元々は、王から表彰をされた事が何度かある凄腕のB級冒険者だ。銀色の癖毛に、戦闘では1人で戦っていたとこから『バトルウルフ』の二つ名を持っている。

 普段は目の下にクマを作りながら忙しそうにギルド内を歩いている姿しか見ていないが、今日は俺に用事があるらしい。


「おはようございます。何かありましたか?」

 

「おう。今日から受付の新人がくるんでお前に見てもらいたいんだが大丈夫か?」


 アイザックさんは壁にもたれ掛かりながら、俺と話す。その目の下には相変わらず隈があり、疲れていることが伺えた。


「新人ですか? この時期に珍しいですね。でもそれならガンフォルさんとか年齢が近い人の方が良いんじゃないですか?」


「ん? あぁ、新しい奴は今17なんだよ。ジグロ、お前の1才下だな」


「え、17ですか!?」


 アイザックさんの言葉に思わず驚く。

 世間には知られていないが、受付の仕事はB級レベルの力が求められている。しかし、現在上位ランクはA級4人、B級約600人、C級約2300人。A~C級を全て含めても、10万人に1人の確率だ。

 C級に慣れれば立派と言われるこの世で、十代でB級レベルがある事は滅多にない。


「お前が驚くのかよ。英雄さん?」


「アイザックさん、そんな言い方やめてくださいよ。俺がそう言われるのは精霊の力があってこそですから」


「あれだけ『愛される』って事も俺には才能に思えるけどな。


そうだ、その新人何でか知らねえけどもうお前があの『ジグロ』って知ってたぞ。じゃあそこの部屋に待機させておいたから、あとよろしく頼む」


 アイザックさんはそういうと、手をヒラヒラさせて別の場所に向かって歩き出した。もう少し深く新人について聞きたがったが、忙しそうな後姿を見て諦める。

 俺はアイザックさんが見えなくなると言われた部屋をノックした。


「はーい、どうぞっす」


 中の返事を聞き戸を開けると、金髪で人懐っこい顔をした男が椅子の前に立っていた。その子は入ってきた俺と目が合うと、何故か急に挙動不審になる。一体どうしたというんだ。


「あ、あ、ああああの俺、ナツ=ラタンって言うっす! これからよろしくお願いします!」


「俺はジグロ。よろしくナツ」


 そう言って笑うと、なぜかナツが顔を両手で押さえる。


「どうかしたか?」


「大丈夫っす、感動しているだけっす……」


「そ、そうか。

ところでナツは何で受付になったんだ? 十七才で受付になれる力があるなら、冒険者でも良いと思うんだが」


 俺がそう聞くとナツの雰囲気がガラリと変わる。その時のナツの目は、確かに上級者ランクと言う事を感じさせる強い目だった。

 これは相当な理由があるに違いない。そう思ったとき、ナツの口から衝撃の言葉が語られる。


「俺は、貴方に憧れたので受付になりました」


「ええっと、……どういう事だ?」


 ナツの口調の変化に驚きつつも、俺は質問する。


「俺は昔『竜のうたた寝』に、貴方に命を助けてもらいました。その時のから俺の目標は、憧れはジグロさん、貴方なんです」


 ナツは何故か俺が『竜のうたた寝のジーク』だと、確信を持っている。あのときの俺は、バレている筈がないと言うのに。

 受付で働くならいつかはあのジグロだと知られるため、嘘をついても仕方がないと思い俺は認める。


「……俺がそうだと良くわかったな」


「仮面の事ですか? もちろん俺も素顔はわからなかったです。けど、俺も貴方程ではないですが()()()()()()ので、貴方が愛し子と言う事はわかりました。

なので、試しに精霊に聞いてみたんです。あの人は誰って」


 ナツはそこで1回言葉を止め、クスクスと笑う。その笑い方は年相応で、先程までの張りつめた雰囲気はない。


「くく、すみません、ジグロさんって本当精霊に愛されていますよね。精霊に聞いたら皆ジグロさんの事を我先にと話し出して、挙げ句の果てに『会いに行く?』っすよ」


 ナツの話を聞いて、頭を抱えたくなった。まさか精霊達からバレるとは。


「それで精霊に着いて行ったら、ギルドに入って行って驚いたっすね! それからは、ギルドの人に何回も働きたいって言いに行きました。

数えられないほどそれを行ったとき、言われたんです。『受付になるためにはB級レベルの力がいる』って。

今思えばそれは諦めさせるために言われてたんでしょうけど、俺は努力しました。そしたら愛し子と言う事もあり、気づけばこうしてB級になれてましたね!」


「教えてくれてありがとな。おい、俺の事ナツに教えた奴は正直に出てこい」


 俺がそう言うと、気まずそうに下を向いている精霊達が現れる。それもゾロゾロと。

 その様子を見て、ナツが慌てて弁解する。


「自分が聞いたのが悪いっす。精霊達は怒らないであげて欲しいっす!」


「怒るつもりはないからな、話を聞くだけだ。皆何でナツに俺の事言ったんだ?」


「……ジグロの事を話せる人間がいた事が嬉しかったノ」

「ナツもジグロの事が本当に好きそうに見えテ、ツイ」

「ジグロの事ヲもっともーーーっと知って欲しくテ……」


 教えた理由はあれだが精霊は本当に反省しているようなので、笑って見せる。


「そうか。今回ナツだったからまだいいけど、今度からは言っちゃダメだぞ」


「「「わかったノ!」」」


「そうか、もう行っていいぞ。他の奴にも言わないように伝えといてくれ」


「「「ハーイ」」」


 精霊達が安心したように笑って帰って行く。その中に紛れる様にしている黒い影。


「おいジェイド、何帰ろうとしている?」


「そんな事はありませんよジグロ様」


 嘘つけ。名前呼んだら、びくってなったの見てたからな。というかさっき教えたところに名乗り出てなかっただろ。


「ジェイドにも怒るつもりはないから、ちょっと聞きたい事がある」


「何でございましょう? あぁ、ジグロ様と契約する準備はいつでも出来ておりますよ?」


「……ジェイドは基本愛さないんじゃなかったのか?」


 ジェイドは俺と良く一緒にいるため気付かなかったが、知らぬ間にナツも愛していたらしい。ジェイドが愛するって話はあまり聞いたことがないため驚いた。


「無視ですか? まあそれも良いものですが。

それに関してはナツはジグロ様の事が本当に好きなようなので、つい。ジグロ様を好きな者に悪い者はおりません」


 きりっとした顔でジェイドは言うが、内容があまりにもひどい。俺にはジェイドが愛す基準がわからない……。そんな決め方はやめた方が良いと思う、本当に。

 ナツも愛されている理由を初めて知ったようで、困惑している。


「もう用はすんだから帰って良いよ」


「そうですか、では失礼します。また何かありましたらお呼びください」


 ジェイドはその体を揺らめかせて、静かに風景に溶け込んでいった。


「ジェイドって精霊の中でも高位っすよね……」


「ああ、そのはずなんだがな」


 俺とナツの間に気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破ってくれたのはナツだった。


「ジグロさんこそ、何で受付にいるんですか? 前から気になってたんすよね」


「ん、俺が受付にいる理由は___」


「あらあら、楽しそうな話をしてるわねぇ? 私も混ぜてくれないかしらぁ、ジーク」


「おいおい、笑わせんなよ。何でこんな所に英雄様がいるんだよ。ま、会いたかったぜジークよぉ」


 俺がナツに答えようとした時、突如部屋に現れた仮面をつけた二人組。



 その二人組は俺の()()を親しげに呼んだ。

 

今までの話に手を加えてきました。

アイザックと、ナツは新キャラですね。好きになってくれると喜びます。

ブクマ、感想、評価ありがとうございます。本当に嬉しいです!

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