俺と助け合い
洞窟を進んでいると、シャムの姿が見えてきた。
あっちも俺に気がついた様で、走りよってくる。
「ジグロさーん、待ってましたよ。って肩に何乗せているんですか?」
「ああ、これは飛……」
(まずい、飛竜って言うところだった。何て言おうか……)
(飛竜何て言えば良い?)
「キュイ(お主の好きに)」
好きにが一番困るんだよな、何事も。
んーと、じゃあ七色に光っているし……
「こいつはアルク。アルク=シエル。俺の新しい友達だ」
俺がそう言った瞬間、何故か体がとても熱くなった。そんな体に違和感を持ち首を傾げると、急に目が霞みまともに立っていられなくなる。
ドクン
(何だ? 何が起きている?)
霞んでいく視界で辺りを見渡すと、肩にいたはずの飛竜も横たわっている。
まさか――――。
「ジグロ様、何故主従契約を!」
意識を失う寸前に聞こえたジェイドの声で、自分のしたことを理解した。
目を開くと、日が山に隠れようとしている頃だった。体を起こそうとすると、目覚めた俺に気がつきシャムが駆け寄ってくる。
「あ、ジグロさん。目覚めましたか?」
「……シャム」
「良かった~。ジェイドの言っていたこと嘘じゃなかったんですね!」
「ジェイドの言っていたこと?」
「はい。ジグロさんは契約のとき魔力切れで倒れたって」
シャムの言うことに違和感を持つ。本来、魔力切れは一日ぐらい経たないと治らない。なのに六時間ほどで治るなんて。
「シャム、魔草はどうした?」
「え!?」
「魔草は何に使った?」
「えっとーー」
シャムはどう見ても何も持っていない。それに俺の質問に答えようとしない。今俺が思っていることが、事実だとすると全て繋がる。
「ジェイド何をさせた?」
「何と言いますが、その、魔草をジグロ様に……」
その言葉で先程の考えが合っていたことを悟る。しかしシャムはそれで良かったのだろうか?
「俺に全て使ってしまったのか?」
「みゃ、ごめんなさい……」
「いや、怒ってないんだ。けど魔草はお婆ちゃんに必要じゃなかったのか?」
俺の言葉でシャムは何を言っているのかという顔をする。
「目の前で倒れている人がいるのに、無視することなんてできません。
それにきっとお婆ちゃんはまだ大丈夫です」
……シャムは幼いのに何て強いんだ。きっと心の中では、お婆ちゃんが心配なはずなのに。
「シャムありがとう。それとごめんな。
その代わりと言っては何だが、お婆ちゃんのところへ連れてってくれないか?」
「ジグロさんをお婆ちゃんのところへ?? 良いけど何で?」
「何かわかるかもしれないから」
「……わかった」
シャムの家は町のはずれにあった。
「ジグロさん、ここだよ。お婆ちゃーん、ただいま!」
「お邪魔します」
シャムがベッドに駆け寄っているところを見ると、そこにお婆ちゃんがいるのだろう。
「今日ねギルドの人が体調見てくれるって。きっと良くなるよ!」
シャムに続いてベッドへ行くと、顔色が悪い人間のおばあさんがいた。
ふとベッドから出ている指先を見ると少し黒くなり、手には痣がある。これは……。
「シャム、この手の痣は前からか?」
「ううん、一年ぐらい前からかな」
「……言いにくいがこの人は呪いがかかっている。一年ぐらい前からだとするともう大分進行している」
「呪い!? これは病気じゃなかったの?」
「俺に、任せてもらえるか?」
「……うん!」
シャムはしっかりと頷いた。
魔草の恩もあるし、シャムの言葉を借りるなら“目の前に倒れている人がいるのに、無視することなんてできない”だな。
「みんな来てくれ!」
俺の言葉に答えるように、部屋には無数の精霊が現れた。
「ふにゃあ!」
「「「「お呼びですか、愛し子よ」」」」
「ああ、少しの間力を貸してくれ」
「「「「御意」」」」
俺は精霊の返事を受け、お婆ちゃんに手を向ける。そして行うのは、本来は存在しない光魔法と聖魔法の複合魔法。愛し子の俺だからできる魔法だ。
「光を与えし精霊よ、癒しを与えし精霊よ、我に力を―――悪しき力よ、消滅せよ」
詠唱が終ると部屋に暖かな光が満ちる。暖かな光は星のような雫へ形を変え、部屋に降り注いだ。暫くして部屋に降り注いだ光が消えると、精霊たちは何事もなかったように消えていた。
「お婆ちゃん大丈夫ですか?」
「ん……。あぁ、暖かいね」
「お婆ちゃん! どう、大丈夫!?」
「ああ。シャム、この人は?」
「ジグロさんだよ。ギルドで働いているの」
「そうかいそうかい。英雄様と同じ名だねぇ。ジグロさん、ありがとうございました」
「いえ、シャムに俺も助けてもらったので」
お婆ちゃんは起き上がろうとするが、顔を歪める。無理もない、俺は呪いを解いただけだ。
「体力は戻って無いので横になってて下さい」
「悪いねぇ」
その会話を聞き、今まで静かだったアルクが口を開く。
「キュイキュイ(我の血を使えば良かろう)」
「(アルク?)」
「キューイ(竜血を使えば体力も戻る)」
確かにそうだが、その行為はアルクが竜だということを意味する。どうするべきか……。
「(アルクは良いのか? 竜だとばれるぞ?)」
「キュキューイ(良い。我も魔草の恩を返すべきだ)」
「(そうか、わかった。)」
アルクの言葉を聞き、俺はお婆ちゃんと向き合った。
飛竜の名前であるアルク=シエルはフランス語で虹です。元はアルク·アン·シエルですね。虹にした理由は「七色に輝いている」って飛竜を表現したからです。
あとアルクがキュイキュイ言っているのは、シャムとお婆ちゃんがスキル:言語能力を使えないからですね。