俺と稽古後
「ジーク様おはようございます」
声に反応して目をゆっくり開けるとフリフリの服に身を包んだ可愛らしい女性が立っていた。よくよく見なくてもわかる。昨日俺の身ぐるみを剥いで色々してきた女性たちだ。
どうやら彼女たちは俺を起こしに来た様で、微笑みながら俺がベッドから出るのを待っている。俺はまだ寝ていたい気もしたが、それは起こしに来た彼女たちに悪いと思ったため起き上がろうとする。
しかしそこで俺は体にある異変が起きていることに気づいた。
「痛ぁぁぁああ」
そう、体を動かそうとするとどこもかしこも痛いのだ。やけに体が重く感じ、思う様に動かない。
もしやこれは___
「あらあら、筋肉痛になったようですね」
「ああこれは呪いの類ーーってあれ、キンニクツウ?」
キンニクツウ? 今まで聞いたことが無い言葉に首を傾げる。
しかしこの女性、一目見ただけで呪いの種類まで検討がつくとは相当な実力者のようだ。まさか身の回りの世話をさせるふりをして力のある者をいれてくるとは……。
「どうすれば、どうすればキンニクツウは治るんだ!?」
「本来何もしなくても治るものではあるのですが。そうですねぇ、酷いようですしレオ様をお呼びしましょう」
あの白髪の男か。確かに魔術がどうたら言っていたな。あの男ならばきっとわかるはずだ。大臣だの言ってたし魔術の類に秀でているに違いないからな。
目の前の女性の考えに同意し頷くと、部屋の入り口の方でギィっと音がした。ありがたいことにすぐレオを探しに行ってくれたらしい。
俺は迅速な対応に感謝するように戸へ目線を向けたが、その瞬間予想していなかったものが見え思わず固まる。
それは俺の反応を楽しむ様に、いたずらが成功した子供の様にニヤッと笑うと口を開く。
「あーい、おいらを呼んだかい?」
「レオ様お速い到着ですね」
「いや幾ら何でも早過ぎるだろ……」
まだ朝食前ということもあってか寝巻き姿のままレオは俺の部屋に現れた。
俺の周りを囲んでいた彼女たちはレオの早すぎる登場に驚くそぶりを見せない。それどころかレオのために道を開け、静かに壁際に寄って行く。
「丁度顔を見せようと思って向かってたんだよねー。そうしたら風が声を運んでくれてさ」
「どういうことだ??」
レオは俺の言葉が聞こえなかったのか反応せずに、一人欠伸をしている。そして目が合うとへらっと笑いのんびり歩いてきた。そして俺に手を伸ばすと届きそうな距離まで近づくとベッドの端に腰かける。
……正直いうとそんなのんびりせずに早く治して欲しい。けれどこれから治してもらう者としては文句を言うわけにもいかず、静かにレオが治してくれる時を待つ。
「ジークは軟弱だな〜。今まで何して過ごしていたんだか。男なんだからこれぐらい表情に出さずに耐えてみなよ」
「できるわけないだろ! こんなに体が痛いのは生まれて初めてなんだから」
「ごめんごめん。けどさ、多分これから毎日体痛くなるよ? その度痛いって言っててもね〜」
レオは明日以降も体が痛くなると言ってくる。この男に何が見えているのかわからないが、その予言が当たる気がしてならないのは何故だろうか?
「なあ早く治してくれないか?」
「んー、治してもいいんだけどそれは体が成長している証拠だよ。ここで魔法を使って治すよりは自然に体が治るの待っていた方が良いと思うんだけどなー」
「体が成長……?」
「うんそうそう。だから魔法を使って無理に筋肉を修復させるよりは自然治癒の方が後々役立つよ」
ちょっと言われていることが難しくてわからないが、どうやらレオはこのまま自然に治るのを待つ方を勧めているようだ。
でも、正直この痛みがあるまま行動できるかと聞かれたら無理だ。ならば俺はどうすべきか……。
俺が悩んでいる横でフリフリの服纏った彼女らはせっせと行動し始める。どうやら朝食の時間が近づいて来たらしい。それを見ると悩んでいられる時間は少しのようだ。
「おーい、ジーク結局どうするんだ? 自然に治るのを待つようならおいらが抱っこして移動させてあげてもーー」
「あーあー! なんだ、その、体はこのままでいいから痛みを和らげる魔法っていうのはないのか?」
「なるほど、そうきたか。おいらはそれでいいけど後で後悔するなよ〜」
レオはそう言って笑うと俺に手を向け指を向けてくる。そして昨日のように指先に光をためるとそのまま俺に触れてきた。
俺はレオの言葉に少し違和感を感じるも目の前の魔法のことですぐにどうでも良くなる。
「なんかあったかい……」
「そう? まあ今ので多分痛みはなくなったはずだよ。ほら立ってみな」
言われるがまま体に力を入れ起き上がってみると、先ほどとは違い本当に痛くない。ベッドから降り軽く飛んでみても体に異変は一切ない。
「うわぁ、本当に治ってる! レオありがとうっ」
そう言って笑いかけるとレオも良い笑顔を返してきた。けど、俺はその後の言葉でそれが悪魔の笑みだったと知る。
「うんうんそっかー。じゃあ治ったことだしご飯の後はまたみっちり稽古だー」
「ひょ、ひょえ……」
レオのやる気と反比例するように俺のテンションは下がる。俺には何故かこの時この場にいないはずのアンがあの綺麗な笑みを浮かべて待っていることを容易に想像できたのだった。
王宮二日目、俺はまだこの生活に慣れそうにない。
* * * *
* * * *
「あー、疲れたぁ」
「今日も一日お疲れ様」
俺は今ヨーゼと並びながら長い廊下を歩いている。二人でいると言ってもこれから部屋へ戻るだけだが、話し相手が居るだけで俺は嬉しい。
今日は一日ヨーゼと別行動だった為、話の話題は専ら稽古について。なんなら俺が一方的に愚痴を言っているだけである。
「レオは一つできないと最初から全部やり直しだし、アンは一言『ダメね』っていうだけで終わりなんだよなぁ。俺はどうすればいいかわかんないよ……」
「ああ、確かに二人はそんな感じだね。どんな感じだったか予想がつくよ」
ヨーゼは稽古の様子を想像したのかクスリと笑う。
話を聞くにヨーゼも昔は二人から魔術と武術を教わっていたらしい。そのためか、俺が一方的に愚痴を言っているだけなのに楽しそうに話を聞く。
俺もわかってくれる人がいることが嬉しくて、ヨーゼの前ではいつもより多く話している。
「昔から変わんないのかぁ。ヨーゼは良く耐えてたな」
「俺は小さい頃からそれだったから特に大変って思ったことはなかったかな」
「すっげぇ……。あ、そうだ。今更なんだけど今俺と一緒にいていいのか? 話し相手がいるのは嬉しいけどやることあるならそっち行っていいからな」
「ああ、大丈夫。今俺がやるべきことはジグロを部屋に運ぶことだから」
「え、それってどういうーー」
ヨーゼがよくわからないことを言ったため聞き返そうとした時、体から力が抜けた。いや、抜けたのではない。力を入れられなくったのだ。
俺は立っていられなくなり、ぐしゃっと地面に倒れこむ。
「ジグロ、大丈夫か? すまない、いきなりだったため支えられなかった」
「……こうなるのがわかってたのか?」
「ああ、レオ兄さんが夕食の前に魔法が解けるだろうからって言っててね」
魔法……? 魔法といえば痛みを止めてもらうやつしかかけられていないはずだが?
脳内でぐるぐる考えていると朝感じた違和感を思い出した。
ーー おいらはそれでいいけど後で後悔するなよ〜 ーー
そうか、あの時にはすでにこうなることがわかって……! 俺はあの時こうなることをわかっていたのに止めなかったレオを恨みながら気絶した。
翌朝起きてから聞いた話では、あれは本当に痛みを感じなくさせるだけで治す魔法ではなかったらしい。
レオ曰く完全に治していたら、チョウカイフクはしないが倒れることはなかった。自然治癒を選んでいたら痛みにあった行動をするため、無理をすることはなく倒れなかっただろうとのこと。
試しに俺が選んだものについて聞いてみるとこう言われた。
「ああ、あれは一番バカな選択だねー。治ってないのに痛みがないせいで治ったと勘違いして体を酷使! そんなの倒れるに決まってるよねー」
レオ兄さん先にそれ言って欲しかったですっ!!
お待たせしました!
筋肉痛で苦しむっていうだけの話です。でもそれだけなのに呪いって思っちゃったりして、常識の無さが出ちゃってますね。
読者の方々にそんなジグロ君を楽しんでもらえたら幸いです。
さてジグロとアンの顔が出ましたね。ジグロ君は次顔が出たときはしっかり表情見えるでしょう。たぶん。
アンさんに関してはヒメカットという設定。剣を持っているとき以外は腰まである髪を下ろしてます。
作品内でもそういった細かいところ表現できるよう頑張っていきます……!
では次話もよろしくお願いします。




