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俺と愛し子


「それでそれで、どうなったんだ?」


 栗毛の髪を揺らしながら、レオに早く教えろと続きを急かす。村ではそんな話聞いたことがない。勿論そういう語り継がれているものはあるが、歌が多く物語など稀だ。

 後レオの話を読む上手さ。普段とは違う落ち着いた声は、聞いてるだけで物語の世界に入ったかのように錯覚する。


「んー、じゃあお勉強もかねて考えてみるかー。その世界で人間が別の世界へ行くってなったらどうなったと思う?」


「え? ……別にどうもしなかったんじゃないか?」


 弱かった人間がどこへ行っても変わんないだろ? 特に困ったことがあるとは思えない。首を傾げながらレオを見ると、言葉を探すように宙で目を彷徨わせている。


「なんて言えばいいのかなー。んーとね、その世界で弱かったのは人間だけだと思う?」


「……あ、わかった! 他の弱かった人たちも新しい世界行きたいって言ったんだ!」


「ピンポーン、正解。神様たちはその者たちの声も聞き入れてね、人間と一緒にこの世界に転移させることにしたんだ。だから今この世界には色々いるだろ?」


 レオはまた指をくいっと動かすし、テーブルの上に分厚い本を置く。チラッと見てみると「開いてみ」と言われたため中を見てみると、またも絵付きで何かが書かれている。じっくり読んでみると絵について説明しているようだ。

 ん、こいつ知ってる。そう思ってあるページをじっと見ているとレオに話しかけられる。


「知っている何かがいたかな? それは魔物図鑑。この世界にいる生物について書かれているのさ」


 レオはさらっというが魔物図鑑の厚さは尋常じゃない。何故数冊に分けなかったのかと思うほどだ。正直今のへとへとの状態では持ち上げたくないぐらいだ。


「え、これ全部この世界にいるの!? 何百ページもあるんだよっ」


「あー、いるとも。おいらも全て見れたわけじゃないけどねーん」


 世界の広さに驚いて言葉が出ない。あのまま村にいたら今日のことは知ることは無かっただろう。俺にとってはあの村が世界だったから。

 この胸の高鳴りをどうすればいいのかわからずきょろきょろしていると、静かに本を読んでいるヨーゼが目に入る。


「そういえば結局ヨーゼは何に愛されているんだ?」


 意図せず考えていることが口からこぼれる。さっき聞いた時ヨーゼは笑っていたが、少し触れないでほしそうだったのに。それに俺は気が付けたのに。

 やってしまった。良くしてくれるヨーゼの嫌がることはしない様にと考えていたのに。


「……話をいきなりふるね」


「まーまー、良いんじゃないの。どうせいつかは知られるんだし。何ならおいらが言ってあげよーか? 

ゴホン、なんとここにいるヨーゼ君。彼は世にも珍しい神に愛された存在なんだよ」


 世界を造ったもの同士仲良くしなねーと、レオが言う。しかし、俺は驚きすぎて反応ができないでいた。


 まさか神に愛される人間が存在するなんて……。


 神様なんて村にいた俺でも知ってる存在だ。この世界で神を知らない者がいるとするならば、まだ幼い子供ぐらいだろう。

 俺の中の知識では神様も精霊と同じように司るものがあり、それぞれ別の役割を持っている。八百万の神という言葉もあるように、数えようと思ったらきりがない。

 ……ヨーゼはいったいどれほどの神様から愛されているのだろうか? そんな疑問が頭を過った。しかし動かない俺を見て困ったように眉を下げているヨーゼを見ると何も言えなくなる。


「ジグロ、固まってるけど大丈夫か?」


「ええ、あ、うん。それで……さ、レオが言ってたことは本当?」


「うん、そうだよ」


 ヨーゼは俺の反応を見ながら肯定する。

 そのヨーゼを見ると何故か背筋がぞわりとした。なんだろう、この観察されているかのような感覚は。

 俺は多少ひきつった笑顔でヨーゼに思ったことをいう。


「すげーな、ヨーゼ! 何に愛されているかと思ったら神様か。神様が人を愛すっていうのは初めて聞いた! そんな奴とこれから過ごせるのか」


 俺は言葉を探すもののすごいという言葉しか出てこなかった。感情をどう伝えればいいかわからず、身振り手振りで一生懸命表した。

 ヨーゼは俺の姿を見てキョトンとした後、はにかむように笑う。頬を朱に染め笑う姿は年相応の顔で、俺は初めて本当のヨーゼを見れた気がした。


「ゴホン、君たち仲良くなるのは良いけどここは図書館だよ。静かにしなね~」


「だってレオ兄さん、ジグロってば自分のことは棚に上げて俺を褒めるんだよ? あんなにいっぱい愛されてるってのに!」


「へぇー、あんなにねー」


 ヨーゼはうつむきながら声を殺して笑ってる。けど全然笑っているのがごまかせていない。肩の揺れが全てを物語っている。

 そんな様子が面白くて俺も笑っていると、不意にレオが顔を寄せてきた。何を言われるんだろうと思っていると、聞こえてきたのは感謝の言葉。

 俺は何故感謝されたのか分からなかったがとりあえず頷いておいた。頷かなきゃいけない気がした。





*     *     *     *


   *    *     *     *





「おーさま、レオだよ」


 ひょこっと顔を覗かせて部屋の中を見る。中は少し薄暗く、一つある立派な机の上には大量に本が積まれていた。

 部屋の主は作業に集中しているようで全くこっちを向かない。


「あー、また休まずに作業してるし」


 ぱっと紙の束を取り上げるとやっと俺の存在に気づいたようで、金色の目を向けてきた。


「レオか。なんだ、子守りはもういいのか?」


「子守りって。まあ確かに幼いけどね~。ま、今日はアンにしごかれてたしゆっくり休ませてあげれば良いんじゃない?」


「そうか。まあ教育は二人に任せる。それで、本題はなんだ?」


「おやおや、用があるってばれちゃいました~?」


 その言葉で少し王は笑う。何を今更とでもいうようだ。


「わざわざこんな夜分にお前が訪ねてくるというのだ。まさか私の体調を心配して来たなどではあるまい」


「いやまあそれもあるんですけどねー。じゃ、前置きも程々にして本題に入らせて頂きます。一日過ごしただけですが異常さが目立ちすぎています」


 王は発言に興味を持ったのかじっとこっちを見つめ話を聞いている。宝石のような目に力が入り、無言で続きを促してくる。


「具体的には魔力の動きが見えております。あのヨーゼでさえ目を凝らさなければ見えないものを当たり前の様に見ていました。後は……知識不足でしょうか」


「魔力の流れ、か。愛し子だから見えたのか賢者の森の者だから見えたのかはわからんな。ふ、興味深い」


 今日は機嫌が良いようだ。いつもより笑顔を見せてくれている。

 そんなにジグロが、森の賢者が気に入ったのだろうか?


「それと、ヨーゼに任せていた監視ですが当てにしない方が良いかと」


「どういうことだ?」


「絶対とは言い切れませんが、嘘をついている可能性があります。今までの報告では少しの精霊にしか愛されていない様だと言っていましたが、今日ふと言ったのです。あんなにいっぱい愛されているのに、と」


「……年の近い者は久しい。情が移ってしまったか」


 バカなことをと王はいう。そして俺の話が終わったのを察して、また書類へ向かい出した。

 その様子をちらっと見るとまだまだ大量に紙が残っており、王もそれを片付けるまで寝る気は無さそうだ。

 少し呆れるが、俺は止めるように言わない。言っても聞かない事はわかってる。


「じゃあおいらは戻ります。おーさまもできるだけ早く床に入って下さいね」


「これが終わって時間があったら寝るさ。なに、これも国と国を円滑にするため、平和にするためだ。これのためなら睡眠はいらん」


「平和を愛すのは良いですけど、ここにおーさまを愛するものがいることを忘れずに。それじゃー、お休みなさい」


 バタンと扉閉じると、外してもらっていた護衛たちが戻ってきた。その者たちにもお休みと挨拶をすると、俺は夜に不釣り合いな白髪を揺らしながら長い廊下を歩いていった。

お読み頂きありがとうございます!

無事体調不良も治り、更新することができました


今回はヨーゼがいったい何に愛されているかわかりましたね

神に愛された少年と精霊に愛された少年

彼らが一体どうなっていくのか楽しんでもらえたら幸いです


数話完結のローファンを書き始めました。テンション高めの作品ですが暇なときにでもお読み下さい。『ゲームにバグは不必要!』もよろしくお願いします!

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