俺と魔術
大臣を名乗ったあの二人、俺を休ませるだとか労わるだとかそんな気持ちが一切ないらしい。
地面に倒れながら恨みがましい目でレオを見ると、それに気づいたレオが何故か不思議そうに首をかしげる。
「さっき使ったのは体力だろ~? そんで今から使うのは魔力。一体何がいけないというんだい?」
「なっ! 今の俺の状況が見えないのか」
「えー、見えてるよ? でも今からは魔力だって言ってるじゃん。動かずにできるから何も問題ないよね~」
……俺は村に帰りたい。ここにいたら頭がおかしくなるらしい。
俺は首をヨーゼの方へ向け助けを求めるが、あいつは目が合うとサッと目を逸らす。単に大臣に逆らえないのか、それとも巻き込むなということか。
もう一度顔を戻すとニコニコとした顔でレオが俺を覗き込んでいた。今の俺からしたら普通に怖いだけである。
俺は現実から目を逸らすために空を見る。
あー、雲がなくて良い天気だ。
レオに椅子に座らせてもらい……いや、無理矢理椅子に縛り付けられ俺は絶賛魔術の勉強中だ。その傍でヨーゼは木陰に座り我関せずといった姿で本を読んでいる。前ではレオが楽しそうに話しているがどうも頭に入ってこない。
ぼーっと精霊たちが翔び回っている姿を眺めているとそれがレオにばれたようで、レオも精霊たちの方目を向ける。
「ジークにはさ、精霊はどんな姿で見えるんだい?」
「どんなって……普通に?」
レオの言っていることがよくわからない。精霊は精霊であって今も昔も見える姿は変わらない。精霊王を除いての話ではあるが。
俺の返答を聞いてレオは少し苦笑する。その様子を見て俺はまた何かおかしなことを言ってしまったのだろうと何となく覚る。
「羨ましい台詞だねー、全く。ジークの反応からして知らないんだろうが、この世で精霊の姿を見ることができるのは愛し子だけなんだよ?」
「愛し子……? いやでも村の皆は見えてたし、今だってレオも精霊たちが見てるじゃないか」
良く精霊たちから呼ばれる愛し子という単語に首を傾げる。それに今まで精霊たちを見れなかった人に俺は出会ったことがない。現にあの村にはいつも精霊と村人たちの笑い声が聞こえていた。
「おーおー、流石『賢者の森』出身。けどちょっと五月蠅いな」
突如言われた五月蠅いという単語に思わずびくっと肩が震える。それになんだか賢者の森?と言われたとき嫌な感じがしたのは何故だろうか。
レオの纏う雰囲気が変わったとき、俺の耳元へ精霊が翔んできて軽く耳打ちをしてくる。
「ジグロ、この人私たちのこと見えてないワ」
「ソウネ、あの人ハ愛されなかったみたい」
「デモ不思議。なーんか見られてる気ガするのよネー」
レオは精霊たちが見えてない? でもさっき精霊たちの方へ顔を向けたじゃないか。レオはそんな俺の心を読んだかのように返答してくる。
「さっきのはジークが見てる方向を見ただけで、実際はなーんにも見えてないんだよねー。やや、ちょっと当たって悪かったね。
はぁー、子供相手に八つ当たりをしてしまうなんておいらもまだまだだなー」
「いや、大丈夫なんだけど八つ当たりって?」
「んあー、ちょっとね。願っても持てなかった者としてはジークの才が羨ましくて、妬ましいのさ」
レオは少し難しいことを言うと、何かを思いついたような顔でこっちを見る。
「今日はそこら辺についての話にするかねー。魔術について話しててもうわの空だったし」
レオが肩をすくめて話聞いてなかったの知ってるぞというような顔をしてきたせいで、俺は思わず苦笑いをした。
* * * *
* * * *
「で、この書物庫は?」
「ちょ、書物庫って。くく、ジークは本当に何も知らないなー。ここはね図書館っていうんだよ」
俺が顔を伏せながらレオに聞くと愉快そうな声が上で響く。揺れが伝わってきたことで本当に楽しそうということがわかる。
「そんなことよりレオ兄さん、そろそろ下ろしてあげれば?」
後ろからそう声をかけてきたのはヨーゼ。ありがたいが、非常にありがたいがさっきから何でいるんだ? 暇なの?
「んあー、それもそうか。ちょっと申し訳ないんだけどヨーゼはそっちの椅子をここら辺に並べてくれないか?」
ほら、おいら両手ふさがってるしと言ってレオはヨーゼに笑いかける。ヨーゼはそう言われると嫌な顔をせずに棚の方へ歩いて行く。その後姿を目で追いながら俺はさっき気になったことをレオに質問する。
「二人は兄弟なの?」
「はえー、どうした? あ、さっきのレオ兄さんってやつか。違う違う、全然似てないだろ〜」
まあ聞いてみたものの何となく違うとは思っていた。レオのいう様にあんまり似てないし、兄弟というには年齢が離れすぎている。俺も隣の家に住んでた人を兄様と呼んでたしそれと一緒か。
そんな話をしているとヨーゼが椅子を三つ重ねて戻って来る姿が見えた。……あいつ見かけによらず力持ちだな。
「はい、椅子持ってきたよ。ジグロを座らせてあげな」
「ありがと」
「お疲れ様~。んじゃ改めて魔術、いや魔法について学んでいくとするかね」
そう言ってレオが宙で手繰る様に指を動かすと、どこからか本が飛んで来てふわっと机の上に乗る。
「うわぁ、すっげえ」
特別凄いわけでも珍しいものでも無い魔法。けれどこの魔法こそジグロが人生で初めて見た魔法であり、魔法に興味を持つきっかけとなったものである。
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