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俺と初めての稽古

 朝食を食べ終わるとレオから部屋に戻り着替えてくる様に言われ、一人長く続く廊下を歩く。しかしなんでそうころころ服装を変えなきゃいけないんだ。それにまた着替えを手伝ってもらうのかと思うととても気が重い。

 いや今は部屋に戻りたく無いとも思っているが、この後何をする事になるんだろうという不安の方が大きい。

 あの先程のレオの輝く様な笑顔。はっきり言って嫌な予感しかしない。

 そういえばあの男はすてーたす?開示の時もやけに嬉しそうだった。一体何があるというんだろうか?


「アラ、考え中カシラン?」

「ジーグロ、遊ぼ遊ぼ!」

「眉間二皺ガ寄っちゃってるワ」


 考え事をしてると、いつのまにか俺は精霊に囲まれていた。精霊たちはあくびをしたり、周りを翔び回ったり相変わらず自由だ。俺がそっと手を伸ばすと嬉しそうに翔んできてくる姿が愛おしい。

 精霊たちを見てると懐かしさがこみ上げてきて、思わずふっと笑う。

 すると精霊たちが目を開いてこっちを見つめてくる。


「……どうした?」


「ジグロ、笑った!」

「うん、笑ってタ! やったネ」

「えへへ、嬉しいノ〜」


 笑ったぐらいで大袈裟だな。村にいた時は良く笑っていただろうに。


 ……村にいた時は?

 ああそうか、俺はあの誕生日の朝から笑っていなかったのか。そのせいで精霊たちに心配をかけてしまうなんてな。


「でも大袈裟だぞ。二、三日笑わなかったぐらいで」


 くしゃっと心配を和らげる様に皆へ微笑みかける。が、今度は頰を膨らましこっちを見てる。どうしたというんだ?


「あんなことがあったとはいえ、普段あんな二笑ってた子ガ急に笑わなくなったら心配するわヨ!」

「ソウヨ、いっそのことこの建物壊してやろうかと思ったワ」

「その時ハ上手くやらなきゃネ〜」

「ネーー、ふふふ」


 少し怖いことが聞こえた様な気がしないでも無いが、勘違いだろう。

 まあ俺もたった数日精霊たちと会わなかっただけなのに懐かしさを感じたしな。精霊たちが心配したのもしょうがないかもしれない。


「みんな、ありがとう。それで……さ、俺はここで暮らす様になる。俺はみんなの行動を縛るつもりはない。だから俺がここにいるからってみんなもここにいる必要は無いんだ。好きに翔んで行って良いんだよ」


「アラ、そんな風に言うなら今にも泣きそうな顔をどうにかするべきネ」

「私たちガ好きでジグロのところにいるとは考えないのカシラ?」


 精霊たちに俺が思っていたことを伝えると、やれやれといった様に綺麗な声で笑う。

 そして俺は言われたことで初めて泣きそうになっている事に気づく。


「ふふ、ほんっと馬鹿ネ。子供が私たちの心配なんてしなくて良いの二」

「もー、たまには甘えなさいよネ」

「まあそんな不器用なところガ愛おしいのだけド。ジグロ、あなたにはこんなに仲間ガいるのを忘れちゃ駄目ヨ? 寂しくなったらいつでも呼びなさい」


 精霊たちは俺の涙をそっと拭う。そして一人じゃないと言って笑ってくれた。


 なんて暖かいのだろう……。

 愛し子で、精霊が見えて本当に良かった。


「ン、今人の気配しなかった?」


 ポツリと精霊が言った言葉はその時の俺には届かなかった。







「遅くなった!」


 朝食時とは違い動きやすい服に着替え、集合場所に駆けて行く。もうすでにレオとアンとヨーゼは集まっており、俺が行くと顔を向けてきた。


「おう、だいじょーぶ。王宮広いからジグロが遅くなんのも仕方ないさー」

「……言葉遣い」


 稽古場前に集合と言われていたが、王宮は広いため移動に時間がかかる。初めて王宮内を歩くなら尚更だ。皆俺が多少遅く来ると思っていた様で特にお咎めは無かった。


「ジグロ、この二人が今日から君に武術と魔術を教えてくれる先生だ。俺も二人に教わっている最中だから一緒に頑張っていこう」


「じゃあ改めて自己紹介でもしておくかー。おいらはレオ、左大臣とも呼ばれているねー」


「アン、若しくは右大臣と呼ばれているわ。よろしく」


 ヨーゼの言葉でレオとアンがそれぞれ自己紹介をしてきたが、俺は「よろしく、お願いします」としか返せなかった。

 だって二人はさらっと言ったが左大臣と右大臣っていかにも上の役職じゃないか。そういえばこの二人、いつも王の近くにいた気がする。

 そんな人達から直々に武術や魔術を教わるなんて、結構イレギュラーなことではないのか?

 うーん……?


「おーいジグロ」


「ん、ごめん。ちょっと考え事してた」


「アンが時間が勿体無いから早くやろうってさ」


「あ、じゃあ最初は魔術からか」


 そう言ってアンの方に顔を向けた瞬間足元にしゅっと何かが刺さる。そっと下を見ると長い刃に綺麗な彫り物が施された真剣が土に刺さっている。


「これは……?」


「言い忘れてたわ。()()担当はレオじゃなくて私。教えるからには二週間で並の兵士程度動けるようにするつもりよ」


 そう言ってアンはにっこりと笑ったが、その顔は今まで見た中で一番綺麗で一番恐ろしかった。


 その後俺はみっちりしごかれ、何回も地面の上に転がった。呼吸の仕方がいけなかったのか喉がカラカラで息をするのもしんどくなっている。いつまで続くのかと思ったが、最後はアンの「全然ダメね」という言葉で武術の時間が終了した。

 

「あ、りっ、がと、ありがとうございました」


「はい、お疲れ様。そうそう、今日は最初だから軽めにしたけど明日からは普通にいくから」


 そう言ってアンは息を少しも切らさずに王宮に戻っていく。その後ろ姿があまりにも格好良くて、あんなにしごかれたのに尊敬の思いしか出てこなかった。


「でも、やっぱり疲れたーーーー!」


「うんうん、そーか。お疲れ様。さて、じゃあこのままおいらと魔術の勉強しよーか」


 レオは全くお疲れ様と思ってなさそうな声でそう言うと、俺にキラキラとした笑顔を見せて恐ろしいことを言ってくる。


「え、あ、魔術このままやるの……?」


「んー、魔術は楽しいぞーー」


 どうやらこの男俺を休ませる気は一切ないらしい。俺はひきつった笑顔でレオを見ながら、今後王宮で暮らしていけるか心配になった。

王宮での日々が始まりましたがすでにジグロ君は心が折れそうです。精霊たちちゃんと応援して癒してあげるんだよ!

次話ですがアンに代わり今度はレオが魔術を教えていきます。

さて、どうなることやら……。

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