俺と朝食
挿絵回です。
「……ロ、ジグロ」
「んぅ、母様……?」
愛称に反応してうっすらと目を開く。しかしそこには母の姿はなく、いるのは真っ赤な髪を持つ少年。天井も見慣れたものよりきらびやかで、嫌でも日常が変化したことを感じさせられる。
きっと俺の表情が曇っていたのだろう。起こしに来たであろうヨーゼが、少し遠慮がちに声をかけてきた。
「おはよう。その様子だともう動けるみたいだね」
「……うん」
「扉の外で待ってるから、準備終わったら一緒にご飯を食べに行こう」
ヨーゼは俺の目が覚めたことを確認すると、そう言って扉を開けて出ていった。しかし広い部屋で一人ベッドの上に取り残され、俺はどうどうすれば良いのかわからない。するとそのタイミングで『コンコン』と部屋をノックする音が聴こえてきた。
「は、はいっ!」
「失礼いたします。王族の方々より貴方様の準備をするように申しつけられております」
返事をすると髪をきっちりとまとめ、ふわふわとした服を纏った女性たちが並んで入ってきた。
「はあ……。ん、王族の方々って??」
「王族の方々は王族の方々でございます。あらもう朝食の時間まで後二十分足らずしかございませんね。急いで準備しなくては!」
「準備って何をするんですか?」
「大丈夫です、人前に出ても恥ずかしくないよう全力でさせてもらいますわ」
「え、それ答えになってな、うぇぇええ!」
彼女らは質問に答えずニッコリと笑うと、時間が勿体ないとばかりに行動し出す。俺は突然ボタンに手をかけられ、ビックリすることしかできなかった。
「ん、もう良いのか?」
「あぁ、待たせた……」
あの後服を脱がされ、良い臭いがする石鹸で体を洗われ、新しい服を着せられと、俺は彼女達にされるがままだった。
今日はまだ始まったばかりだというのに、慣れないことをされもうくたくただ。
ヨーゼも俺が何をされたかわかっているようで、壁に寄り掛かりながらすくすくと笑う。
「ヨーゼはいつもあんなことされているのか?」
「まあね。王宮にいる以上しょうがないと諦めるしかないと思うけど。
さ、そろそろ移動しよう。こっちだよ、着いてきて」
「そうなのか……。でも俺は今日から町で暮らすようになるんだろ? なら関係ないな」
ほっとしたように俺がそう言うと、ヨーゼが「え?」と言って振り返ってくる。
「いやジグロはこのまま王宮で過ごすことになると思うよ? まあその事についても朝食時に言われるだろう」
そう言ってヨーゼはまた歩き出したが、一際大きな扉の前で足を止めた。その扉の両脇には男性達が立っていたが、ヨーゼが目の前に立つとゆっくりと重そうな扉を開ける。
俺はヨーゼの後に続いて中に入ったが、多くの視線をひしひしと感じる。中にはざっと見た感じ30人ほど座り、その中央には王が座っていた。
俺は目立たないように端に座ろうとするが、席が空いていない。キョロキョロと空いている席を探すと、丁度二席だけ空いていた。が、王の横。
ならばせめて並んだ二席のうち王側をヨーゼに座らせようとするが、先に座られたため俺は王の横に座るしかなくなる。
俺が諦めて王の隣に座ると、凛と通る声が部屋に響いた。
「貴族院の方々、本日は招集に応じてくださりありがとうございます。まず本日皆様にお集まりいただいた理由は二つ。一つ目は一昨日発生した光について、二つ目はそこに座る少年についてです。では一つ目についてヨーゼ様より」
「はい」
俺が流れについていけないまま話はサクサクと進む。
ええっと、まず進行をしていたのは昨日アンと呼ばれていた女性。話す内容は光と少年についてだったか。
…………ん? それって両方俺が関係することじゃないか?? え、てか、何が朝食だ??
ばっと横を見るとヨーゼは席を立ちながら何食わぬ顔で何があったか話している。目は決してこっちを向かなそうだ。
そして俺はまたあることに気づく。テーブルの上に朝食らしきものがない! それ以前にフォークやスプーンさえ準備されていないじゃないか!
俺はヨーゼに騙されていたことに気づき、その仕返しとばかりにテーブルの下でヨーゼの足を踏む。
ふふん、これぐらいなら良いはずだ。だって騙してきたのはそっちじゃないか。
そっと顔を上に向けヨーゼを見ると、こっちに向けて綺麗な笑顔を向けていた。
その顔はとても綺麗なのに、見るとぞっくっと背中に悪寒が走り嫌な予感がするのは何故だろうか……。
「私からの報告は以上です。間違いは無いでしょうか、ジーク君?」
確認をするように俺に聞いてくるヨーゼ。けどその顔には『話聞いてなかっただろお前?』と書いてある。
俺はヨーゼの話を一切聞いてなかったため、小さな声で「……はい」と答えることしかできなかった。
「では2つ目につい……」
「それは私から説明しよう」
アンが2つ目について話そうとした時、遮る様に話したのは王様。
場は絶対的支配者が口を開いたことにより、しんと静まっている。王はそんなことを気にしないかのようにまた話出した。
「先ほど配った資料には目を通したな? 見ればわかると思うがヨーゼの出身、能力は今後この国に必要となるものだ。よってヨーゼに今後この王宮で教育を施す事とする。これは我の決定だ、異論は認めん」
集まった大人達が紙を見て何やら言っていたが、王の最後の一言によりまた沈黙が流れた。重々しい雰囲気から、きっと今重要な決定がなされたんだと子供ながらに悟る。
「……では本日はこれで終わりと致しましょう」
アンが全体を見渡してそう言うと王以外の全員が立ったため、俺も慌てて立ち上がる。けれど少し立つのが遅かった。
そこで立つ者達は一様に同じ姿勢をとり、そして
「「「インスワール王国と我らが王に光あれ」」」
忠誠を誓うように王へ頭を垂れた。
* * * *
* * * *
その後ヨーゼが最初に言っていたように朝食となったが、家とは違い皆静かに食べる。
俺はふわふわのパンを頬張りながらきっと今後は村と、今までの当たり前と王宮の暮らしを比べて過ごしてしまうんだろうと考える。
そう考えると、バターが香るこのパンも暖かなスープも美味しく感じられなくなりそうだ。
……あー、ダメだダメだ! 俺は王宮に連れて来られてもらっただけでも十分ありがたいのに。何か別のことを考えよう、そうしよう。
俺は部屋を見渡すように首を動かし、頭に色んな情報を詰め込む。そしてふと視線を感じた方へ顔を向けると、レオと呼ばれていた男がこっちをニコニコしながら眺めている。
レオは俺と目があったことに気づくとヒラヒラと手を振ってきたが、どうすれば良いのかわからない。だって俺とレオの間には王が座っている。この状況でどうしろというのだ。
レオは王が食事しているのを見ながらも、気にせずに話しかける。
「ねー、おーさま。この後ジークは俺とアンが借りて良いんでしょ??」
「……ああ。だが今は食事中だから静かにするように」
「やったーー! ふふ、楽しみだなぁ」
レオは王の言うことを聞かずに嬉しそうに歯を見せて笑ったが、俺はこの時レオが何故こんなに嬉しそうなのかわからなかった。
しかし一時間後俺は理由を知ることとなる。
挿絵どうだったでしょうか? 絵柄が安定しなくて申し訳ないです。
今回はいつもより少し長めになりましたが、楽しんでもらえてると幸いです。
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もちろん評価、感想も随時募集してます!
後、異世界恋愛物も書き始めたのでそちらもよろしくお願いします。
タイトルは『いつかその瞳に~孤高の精霊は叶わぬ夢をみる~』です。




