俺と秘密
ヨーゼに客間のベッドに降ろされた。そのベッドはふわふわと優しく包み込んできて、俺を眠らせようとしてくる。
俺は眠気によってとろんとした目で横を見ると、ヨーゼが眉を少し寄せ困った顔をしていた。
「……どうか、したのか?」
俺がそう聞いてもヨーゼは黙って首を振るが、表情を見るに何か言いたいことがあるに違いない。俺はヨーゼへ笑いかけ、口を開く。
「寝るまで何か話しててくれないか?」
俺がそう提案するとヨーゼは軽く目を見開き、驚いた顔をする。そしてふっと笑うといつものような表情になり、俺の髪をくしゃっと触った。俺はその手から伝わる優しさが心地よくて目を閉じる。
「すまない、気を使わせたな。
……なぁ、ジーク。君は周りから何と呼ばれていたんだ?」
「村の皆からはジグロって呼ばれてた」
「ジグロ、か。良いな、親しみやすい。俺もそう呼んでも良いか?」
「勿論。むしろ嬉しい」
父様、母様、村の皆を感じることができて。
「ありがとう。……さてジグロ、これから話すことは子守唄程度に受け取ってもらって良い。眠くなったらそのまま寝て良い。明日また話すからな。けど明日はっとと、何でもない」
明日はと言いかけて口をつぐむヨーゼ。明日は何があるんだろうか?俺は疑問に思いながら静かにヨーゼの話を聞く。
「んーっと、今日はあっただろう? こうして俺と出会い、村を出て、王国へ来て。……今日ジグロと一日過ごしただけだが、そのなかでも俺たちとの常識の差がずいぶん出てきた。
その常識の差は、致命的だ。例えばジグロは当たり前の様に精霊と話すが、この国でそんなことができるのは千人にー人ぐらいしかいない。それにステータス開示だってSなんて値はそうそう出るもんじゃない」
そこでヨーゼは一度話を止め、言葉を探すように目を動かす。俺はその間にヨーゼが言ったことについて考える。
俺の非常識さ。村を出たことがなかったからといえば、しょうがないかもしれない。けど、ヨーゼの反応を見るにそれだけじゃすまないんだろう。
「……愛し子とステータスについて考えよう。今愛し子についてわかっていることとして、愛してくれてる精霊の属性の魔法を使う際は威力を求める場合を除き魔力を消費しないことがある。
これを君の場合で考えてみると、どういう事かわかるかな?」
ヨーゼの言葉を少しずつ噛み砕いて考えていく。愛し子の特性はふつうに魔法を使うだけでは魔力の消費は無い。しかし魔法の威力を持たせようとすると魔力を消費する。そして俺の魔力に関してはステータス開示で異常な値、Sが出た。
そこではっとする。魔力を消費せずに魔法を使える者がただでさえ少ないのに、威力を持たせた魔法も魔力量が異常な俺は打ち放題。
これは____。
「わかった様だね、自分の危うさが。今後ジグロがどう成長するかわからないが、端から見たら君はただの脅威だ」
「そんなこと言われても俺は、俺はっ!」
脅威に、兵器なんかになるつもりなんか無い。そう声にならない想いが溢れだす。
俺の言葉を聞き、目の前のヨーゼは困った様な顔をしながら俺と目を合わしてきた。
「うん、君が何を言いたいかはわかっているつもりだ。俺も訳ありなんでね。そんな俺からジグロに言える事とすれば、本当の事を周りに話すなってことかな。もうステータスは話してしまったからしょうがないけどね」
「……その話すなって奴は誰にもか?」
「そうだね。自分の身を守りたいならなるべく言わない方がいい。王にも、俺にも」
ヨーゼはそう言うと俺の目の上にそっと自分の手をのせてきた。視界が真っ暗になったせいで俺はまたうとうととしてくる。ヨーゼはそれがわかったのかふっと笑い、俺の知らない歌を囁くように歌う。
これはこの国の歌だろうかなんて思っていると、俺はいつの間にか夢の世界へ誘われていた。
さて部屋を出るかと思いベッドに寝るジグロを見ると、涙を流しながら小さく丸まっていた。
(まぁ無理もない。昨日突然家族を失い、一人見知らぬ土地で見知らぬ者と過ごすのはどれ程辛いことか。元気そうに見えていたがやはり七歳の子供か)
それと同時に不思議に思う。まさか自分が初対面の人間にアドバイスをするなんて。
俺はジグロの涙を拭いてあげながら、少し同情する。
(きっとジグロは何かあったときのために兵器として育てられるんだろう。王様達はきっとその事を教えない。俺は今後この少年にどう接していけば正解なのだろうか?)
人を惹き付ける才を持つ少年ジグロ。彼は成長してもまっすぐなままなんだろうと考えると、少し頬が緩んだ。
お読み頂きありがとうございます!
次話挿絵回なので楽しみに待っててくれると嬉しいです。
さてTwitterの話になりますが、北国の杏という名前で活動してます。
宣伝、更新情報、設定画などあげているので興味を持ったら覗きに来てくださいね。
それでは次話でお会いしましょう!




