俺とステータス
「じゃあ早速ステータスを開示していこーか」
白髪の男、レオの気の抜けた声。そんな声から俺のステータス開示は始まった。とは言っても、ステータス開示自体大したことは無かった。
説明を聞くに用意された魔法陣の真ん中に立ち、本を開く。それだけのこと。
レオから渡された本の表紙は黒い革で出来ており、金色のインクで初めて見る文字が書かれていた。その不思議な文字を疑問に思いながらも、俺は言われた通り本を開けようとする。しかし、本はびっくりするほど開かない。いくら体に力に入らないとはいえ、これはおかしい。
俺が本の表紙を愕然と見てると、ふわりふわりと精霊たちが周りに集まってきた。
「ジグロその本どうしたいノ??」
「開けたいノ、捲りたいノ?」
「デモ、その本を開けるにハ魔力ガ必要ヨ」
精霊たちは鈴を転がした様な声で次々と話す。そして俺と目が合うとにっこりと笑って声を揃えてこう言った。
「「私たちガ力ヲ貸してあげるワ!」」
ふわりふわり。彼女たちは本を開けようとする俺の手に手を重ねてそっと本を開く。
その瞬間ぽうっと本が光り、真っ新だったページには本の表紙に使われた金色のインクで何かが記されていく。
(……金色の文字。けど今回は読める! 体力、魔力、攻撃力、防御力、素早さ、運。これがすてーたす、か?)
「なんて書いてあったー?」
考え込むようにじっくり本を眺めていると、いつの間にか目の前にレオが立っていた。俺はレオにもう光らなくなった本を差し出そうとすると、すっと牽制する様に手を出してきた。それからレオは何も言わずにヘラっと笑い、俺に本の内容を読むように促してくる。
俺はその光景に首を傾げながら、本に書かれた文を上から読んでいった。
「真名-ジーク=ロイゼ。種族-人間、性別-男、齢7、特性-愛し子。ステータス(期待値)体力B、魔力S、攻撃力B、防御力C、素早さS、運S。
ほかにも何か書いてあるけど知らない文字で読めない」
俺はそう言って部屋にいる者の顔を見渡す。王は表情を一切変えず、レオは何故か嬉しそうな顔をして、ヨーゼは綺麗な顔を少し引き攣らせて俺を見ていた。
部屋になんとも言えない沈黙が流れるも、レオが最初に口を開いた。
「いやいやー、流石森の賢者! 当たり前の様に愛し子の特性持ちっすかー。そんでもってとんでもないステータスじゃないっすか、ねえおーさま」
「まあ当たり前といえば当たり前だな。それにしても、その反応を見るに自分の異常さがわかっていないらしいな。ジークには早急に常識を教える必要がありそうだ。今回の様に何の気なしに重大な事を話されたらたまったもんじゃない」
王はそこまで言うと1度言葉を止め、部屋の隅にいたヨーゼに視線を送る。
「ヨーゼ、ジークも疲れただろうから客間に連れてってやれ。そしてそのまま下がってて良いぞ」
「はい、承知致しました」
ヨーゼはそう言って王に恭しく礼をすると、俺の隣まで歩いてきた。
「さあ部屋へ案内しよう。でもその前に、その本を置いてくれるかな?」
俺はヨーゼの言う通り持っていた本を床に置くと、それを確認したヨーゼが近づいてくる。そうしてヨーゼだからと油断しているうちに、今日何回目になるかわからない抱っこをされて王座の間から連れ出された。
王と2人、静かな王座の間に俺はいる。横目で王の様子を伺うと、さっきヨーゼとジークが出ていった扉を無表情で眺めていた。俺はいつもの様に王に話しかける。
「おーさまから見てジークはどうだった?」
「……ん、悪くは無い。だがやはり危うい存在だな。お前もしっかり面倒を見るんだぞ」
──悪くない──
王にとっての褒め言葉に俺は驚く。まだ7歳になったばかりの子供に王がそう言うなんて。
「あいあい、任せて下さいよー。とは言っても俺が教えることなんて何もないかも知れないっすけどねー」
俺の言葉で王も少し表情が変わる。きっと頭の中では俺と同じことを思ってると思う。あの小さな少年の異常さを、化け物さを。
あの少年はこの国の常識を、当たり前を知らない。
だからこそステータスでSなんて値を言ったんだろう。
背筋につうっと汗が流れる。期待値だけでもあんな異常な値を出した少年だ。本気で指導したらどんな子に成長するのだろうか。
王は俺に面倒を見ろと言った、任せるという意味合いを含んで。
期待に応えなくては。
俺の唯一無二の王。この国を誰よりも考え、平和を愛す絶対的な王。王の為なら俺は少年を悪魔にだって兵器にだって育て上げる。
ただ今はゆっくりとお休み。
ゆっくりと、ゆっくりと。
だって子供は寝るのが仕事だろ___?
短めですみません!
区切りの良いところがここだったもので。
そろそろまた挿絵入れるつもりです。次話かその次辺りには!
今回もお読み頂きありがとうございました




