俺の冒険
目的地に向かいながら二人で軽く雑談をする。
「嬢ちゃんって呼ぶのもあれだから、名前教えてくれないか?」
「シャムです」
「シャムか。良い名前だな」
俺の言葉でシャムの耳と尻尾が揺れた。どうやらこの女の子、感情を隠す事が出来ないらしい。
暫しその尻尾の動きを見ていると急にぱったっと揺れが止まり、シャムがこっちへ振り向いて来た。
どうしたのだろうか?
「お兄ちゃんの名前は?」
「俺か? 俺はジグロ。よろしくな」
「え、ジグロ!! ジグロってA級の白虎と一緒だねー。ふふ、お兄ちゃん名前負けしないように頑張んないとね」
そう言ってとても楽しそうにシャムは笑う。
A級の白虎とは、A級がこの国に4人しかいない事から青龍、朱雀、白虎、玄武と言われている者達の事だ。
この王国の人口が約2億。そのなかにA級が4人しかいないとなれば、その者達は英雄と思われている。
しかし全員知られているのは名前だけで顔は不明。謎が多いため街を歩いていると色んな噂を耳にする。
「何でそんなに笑っているんだ?」
「だってジグロさん噂とは大違いなんだもん」
「噂だとどんなやつなんだい?」
「えっとね、白虎さんは身長が3メートル、筋肉ムキムキで眼光が鋭くてとても強いの。巨人族も裸足で逃げ出すってらしいよ。あとね、戦わずに勝つんだって。一度で良いから会ってみたいなー」
……誰だそいつ? 身長が3メートルあってムキムキのやつなんて目立ってしょうがない。それなのに顔ばれしてないだと?
後、そんな特徴のやつモンスターじゃなくても逃げ出すわ。
「へーー」
「なにその返事!」
「いや、凄えなって」
そんなのに会いたいと思うシャムがな。
「でしよー。ジグロさんギルドで働いているからいつか会えるかもね」
「ウワーイ、ヤッタァ」
シャムと話をしていると、目的地である龍睡山が見えてきた。
龍睡山とは、冒険者達に良い素材があると有名な場所。しかし危険が伴うとも有名な場所。つまりハイリスク、ハイリターンの場所なのである。
今回目当ての魔草も龍睡山に生えていることが確認されている。
「ところでシャムは魔草がどこにあるかわかってるか?」
「うーんと、たしか日影! 魔草の特性として日向だと普通の草で日影だと魔法の草になるの!」
「おしいな。特性は間違えてない。ただ魔草のある場所はただの日影じゃない、ダンジョンの一層だ」
「……ダンジョンって行って大丈夫なの?」
シャムの耳としっぽが下がる。何か端から見たら俺がいじめたみたいだな。
まあ、シャムが不安になるのも仕方がない。
ダンジョンとは自然にできた魔物達の巣窟だからだ。中は魔物達が自分の住みやすいように開拓しており、沼地や毒霧、炎の海などバリエーションに富む。そんな土地がひとつの場所に出来たためか他の地域にしか無いものや新種・亜種まで存在しており、この世でも有数の謎の多さである。
俺はシャムの心配を取り除けるように、明るく大袈裟に話しかける。
「そのために俺がいるんだろ?」
「うわぁ、今ジグロさん格好良かったよ!」
「はいはい。そろそろダンジョンに近づくから静かにな」
二人で話しているうちに、いつの間にかダンジョンの入り口が見えそうな位置まで歩いていた。
そこには今までとは違い、静かに、重々しい雰囲気が満ちている。
「静かにするのは猫の本分だから任せて!」
シャムはそう言って静かに気配を消す。足音を消し、目を光らせるその様子はまるで本当の猫の様だ。
(これは凄いな。夜なら気づけない……)
俺はシャムの耳元で小声で話す。
「そこの木を行った先がダンジョンだ。中に入ったら極力話さないからな。中ではシャムが採集、俺が辺りを警戒。以上だ。」
シャムが頷いた事を確認し、俺が誘導する様に先にダンジョンへ足を踏み入れる。しかし不思議なことに、いくら気配を探っても道中にモンスターはいない。
思わず気を抜きそうになるが、後ろにいるシャムに何かがあってはならないと思い慎重に歩みを進める。
沼地を進み、毒が充満している場を越え、一層の奥までたどり着くと魔草が密集して生えている場所を発見した。
そこまで行くと俺とシャムは場所を代わり、シャムは魔草の収集、俺は辺りの警戒と最初の予定通り行動する。
(ジェイド目を貸してくれ)
心の中でジェイドを呼ぶ。
声を出して魔物に気づかれるのも良くないし、精霊と話すのに本来言葉はいらないからだ。良く言うだろ? 寝ている子を起こすなってね。
(御意)
ジェイドは闇の精霊。ゆえに夜目が効く。いや、効くなんてものじゃない。普段の昼間と同じように、同じ以上に見えるのだ。その視界は物を透視することだってできる。
そんな目を使い辺りを見渡すと、本来はいないはずの者を捕らえた。
(これはまずいな。モンスターがいなかったのはそういうわけか! )
シャドウの目を通して見ると、近くに_____がいる。このまま行くとおよそ5分後にかち合ってしまう。
急いで行動しなくては。
「シャム! ここにいろ、動くなよ!! ジェイドは具現化してシャムを守れ!!」
「え、ジグロさん、声!?」
「わかりました。どうか無事で」
「にゃ、何!?」
きっとジェイドが現れた事で驚くシャムの声を聞きながら、俺は走る。
そして何も存在しない空間に向かって呼び掛けた。
「シルフ、力を!」
「呼ばれないかト思ったワ~。何ガ希望かしらン?」
「あいつのところまで」
「わかったワ」
彼女が返事をするのと同時に足元に風が吹く。足が浮いたとわかった瞬間、体は目的地へ向かって行った。
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