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俺と王国

「うわぁ、すっげぇ!」


 翼の生えたカヴァッロが引く車に乗りながら、俺は初めてくるインスワール王国に胸を踊らせる。街並み、活気、多種族の多さ。どれをとっても俺には縁のなかった物ばかり。


「なあなあ、なんであの家はあんなに派手なんだ? 術具かっ?」


 赤い色をした家を指差しながら尋ねると、何故か周りの人達は肩を振りわせ目を合わせてくれない。その姿に少しもやもやして、俺がそっぽを向くと周りが慌てた様に近ずいてきた。


「すまない。ま、まさか民家が術具なんて、ふふ」


「そんな風に見えるなんてよぉ!」


 周りの弁解する者達は俺に謝りながらも、少し笑っている。俺はそんなにおかしいのかと思い、首を傾げた。俺の知っている民家とは、あの村の木でできた家ばかり。村で立派な家といえば、精霊に関するものが殆どだった。

 俺が一人考え事をしていると、ローブを外したヨーゼが俺の肩を軽く叩いた。


「すまない。みんな悪気は無いんだが、まさかここまで知識のずれがあるとは思わなくてな」


「バカにしてるのか?」


「いや、そんなつもりは全くない。だがこれから知識をつけることは必要だろうね。おっと、王宮が近ずいてきたね」


 ヨーゼが目を向けた方向を見ると、クリーム色をした巨大な建物が街の中心に構えている。その建物は遠目から見てもとても立派で、この国の豊かさを物語っていた。

 俺はその見慣れない光景を目に映しながら、村を出てくるときの事を思い出す。





*     *     *     *


   *    *     *     *





あの後ヨーゼは俺が王国へ行くときの交換条件として2つの事を言ってきた。


・王国へ行ってからの身の安全の確保

・犯人と思われる者が見つかった際は、ジグロに速やかに情報を教えること


俺にとってその2つの条件はとてもありがたいものだった。だから俺は頷いた。首が余り動かないながらも深く、深く、強い意志を表して同意した。


それからというもの周りの行動は速かった。ヨーゼが懐から笛のような物を出し、口に咥える。静寂が包むこの森にピィーーっと音を響かせ、空を見上げた。俺もつられて空を見上げると、何かがこっちへ降りてきていた。


(あれはカヴァッロ? いや、違う! 背中から翼が生えている!)


「プーフェ、良く来てくれたね」


そう言ってヨーゼは降りてきていたカヴァッロを優しく撫でる。その生き物は答えるように喉を鳴らすと、背中をヨーゼに向ける。


「悪いね。王宮まで連れてってくれ」


そう言ってヨーゼがカヴァッロの背中に触れると、いつの間にか背中に車の様なものが現れる。周りの騎士達はというと、当たり前のようにその車に乗り込んでいく。しかしその車はせいぜい十人ほどしか乗れない大きさだ。どうやって全員で帰るというのか。


「君も乗りなよ」


「この車にどうやって全員乗るんだ? それにカヴァッロが可哀想だ!」


「ああこの車は外から見ると小さいが、中に入って見ると案外広いんだ。それに勿論カヴァッロにも頑張ってもらうが、風魔法でできる限りサポートもするよ。君もカヴァッロが気になるなら精霊達に言って風でサポートすればいい」


そう言ってヨーゼは周りの騎士に指示して、俺を車の中に入れる。中はヨーゼが言っていた通り、十分広い。後数十人入っても問題はなさそうだ。


「ジグロどっか行っちゃうノン?」


「ジグロが行くなら着いていくワ!」


俺が中を静かに見ていると、いつの間にか俺の周りを精霊が飛んでいた。俺は精霊達の質問に答える前にゆっくり手を前に伸ばすと、精霊達は嬉しそうに手に乗ってきた。


「俺と一緒に来て、くれるのか……?」


「「「モチロン、我が愛し子よ!」」」


「……はは、そっか!」


手に乗る精霊達に微笑み返し、俺は車の窓から村を見つめる。




最後に見る村の景色は揺らいでいた。


それは涙のせいで。


でもそれは悲しいものではなくて、嬉しさによるものだった。


この村では、もう一緒にいてくれる存在がいないと思っていたためだ。


少年は静かに誓う。


精霊達と生き抜く事を。


この時、()()()()は何も知らない。




まだ何も。






*     *     *     *


   *    *     *     *






 カヴァッロは徐々に翔ぶ高度を落としていき、王宮を目指して風の中を駆ける。しかしそれと共に俺の乗る車はガタガタと揺れ始めた。俺はその揺れで村の事から現実に戻る。


「え、うわ、これは大丈夫なのかっ!?」


 俺は思わず周りに声をかけるが、みんなこっちに反応しない。俺は精霊に助けるように目を向けると、笑顔で頷くだけだった。

 俺の心配をよそにカヴァッロはそのまま翼を自在に操りながら街の上空を真っ直ぐ進み、王宮の庭らしきところに優雅に着地する。俺はどっと疲れて車の中で座り込むと、車の外に人が集まってくる気配がした。


「おい見ろ、ヨーゼ様が帰ってきたぞ!」

「おかえりなさいませー」

「良くぞご無事でっ!」


 外から聞こえる声はヨーゼ達が帰ってきた事が嬉しいのか、弾んでいる。俺は出ずらさを覚え、扉を1人眺めているとヨーゼがこっちを向く。何だろうと思いヨーゼを見つめると、着ていたローブを脱ぎこっちに差し出してきた。


「これを着ておいてくれないか?」


「……何で?」


「ここの周りにいる人間に見られなくなるし、まぁ色々こっちにも事情があって、ね」


 そう言ったヨーゼの雰囲気は少しピリつくものがあり、俺は素直にローブを受け取った。ヨーゼのローブを着てみると、フードが大きく鼻の辺りまで覆いつくす。しかし何故か俺の目は布ではなくこっちを見るヨーゼの顔を映していた。


「ん、ああそれは魔法が付与されているアイテムなんだ。効果は幻影、だったかな? それを着ている限り、周りのものからは君のちゃんとした姿は決して見えない。その目深なローブさえ実際は存在しないものだが、幻影の効果によってあるように見せられ、感じさせられてる」


 ヨーゼは俺の戸惑いが伝わったのか、俺が質問する前に答えを言う。

 ……気に食わないやつ。年は近いと思うが、俺はヨーゼに全く太刀打ちできる気がしない。爽やかな笑顔の裏で一体何を考えていることか。


「おい、そろそろ車から出るぞ。王がお待ちだ」


 俺の思考を止めたのは、先程俺を抱っこしてた者の言葉。その者の言葉は俺の思考を止めるほどの衝撃を与えた。


「え、今、何て、何て言った?」


「王座の間で王はお前が来るのをもう待っている」


「俺が来るのを待っている……。この動けない状態でか?」


 正直嫌な予感しかしない。視界がチカチカし、背中に汗滑り落ちる。しかし、その者は遠慮なくこう言ってきた。


「心配はいらない。俺が抱っこして連れていく」


「……っ!!」


 この日、王宮の庭にジーク=ロイゼの声にならない悲鳴が響く。ジグロが車を出るまでに何回もヨーゼにローブに付いた魔法の効果を聞いたのは、周りの騎士達にとって微笑ましい記憶となった事実を本人は知らない。

お久しぶりです。

今回は挿絵がない回ですね。

あと補足するとするならば、カヴァッロ=馬ですね。


まだまだ英雄は受付に。は続いていくので今後も付き合ってくれると嬉しいです。

更新のペースは落ちましたが、2週間に1回は更新するつもりなので待っててくれると嬉しいです。

では次話でお会いしましょう!

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