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俺と運命の歯車


 ザク、ザク、ザクっと足音がこっちへ近づいてくる。けれど俺は精霊王に抱き抱えられているため、姿が確認できない。

 精霊王はというと俺を抱いたまま立ち上がり、そっと道の外れにある木の根元に移動させた。

 

『今からくるもの達が王国からの使者だ。……機会があればまた会おう、ジグロよ』


 精霊王はそう言って俺の頭を優しく撫でると、初めて会ったときのような光の姿に変わり空気に溶けこんでいく。俺はその様子を頭に焼き付けるように、まばたきもせずに見ていた。この村で最後の別れを。


 その間も、大地を揺れとともに足音が次第に大きくなっていく。俺は音がする方に首をゆっくりと動かす。そして見えた光景は、土煙をあげながらこっちへ近づいてくる多くの兵士と、その先頭を歩くローブを纏った者の姿。

 あっちも俺に気づいた様で、道の真ん中からやや外れた方に進路を変え歩いてくる。俺の前まで歩いて来ると歩みを止め、ローブを着ている者が話かけてきた。

 

「すまない、少し聞きたい事があるのだがいいだろうか?」


「……話って?」


 ローブを纏った男の声は思ったよりも幼く、俺は驚きながら返事を返す。


「昨日この辺りで不可思議な光を確認したのだが、なにか知らないかと思ってね」


「光? 村が襲われた事じゃなくて?」


「襲われた?ここがか?」


 ……男が言った光とは精霊王が言っていた事だろうか。


ーー これから来る人間はここで何があったかお前に聞くだろう。そこできっとお前がわからないことが聞かれる。そのときは全部私がやったと言うんだ ーー


 それにしても、王国からの人間はこの村が襲われた事を知らずに来たのか。それだけその光は凄かったのだろうか。

 ローブを着た者は後ろを向き兵士達と話していたが、俺の視線に気付いたのかこっちに体を向けた。

 

「すまない。村が襲われていたのは知らなくてね。先ずは現状を知るために君の村に行きたいのだが、道案内を頼んで良いだろうか?」


「道案内は良いけど、生憎体が動かなくて……」


「体がか? よし、待ってくれ。癒しの雨よ、傷ついた体を癒せ、ヒール!!」


 ローブを着た人が言葉を唱えると俺の頭上に虹色の雲が現れ、体を覆っていく。しかし雲が消えても体に力が入らない。

 ローブの者は考える仕草をしばらくしていたが、1人の兵士に耳打ちをする。そんな光景を他人事のように眺めていると、耳打ちをされていた男がこっちに向かって歩いてきた。

 何事だろうかと思っていると、兵が「失礼する」と言って俺を抱っこしてきた。


「えぇぇ! え、ちょ、何するっ!?」


「ごめんね。ちょっとこのまま道案内をしてもらうよ」


 ローブの者はそう言って笑うが、抵抗できない俺にとってはたまったもんじゃない。こうなったら早く道案内を済ませようと、俺を抱っこしている兵士に俺は道順を教え始めた。





*     *     *     *


   *    *     *     *





「あの大きな木を左に。そしたらこのまま道を真っ直ぐ行くと村につく」


「わかった」


 俺を抱き抱えた男はそう言って返事をすると森の中をずんずんと進む。そのまま歩いて行くと民家が見えてきた。

 俺はその家を見て皆が倒れていた様子を思いだし、ちょっと胸が軋む。それからは村に近づけば近づくほど胸は締め付けられてく。

 自分が歩いている訳じゃないのに、一歩一歩が重い。ああ、息ができない。


「おい、どうした? 顔色が悪いぞ?」


 兵が心配したように俺の顔を覗きこんできた。俺は大丈夫だと伝えるために目に力を入れる。けれど上手く伝わらなかった様で、兵は俺を道端に降ろした。


「ヨーゼ様、この者を頼みます。俺は一足先に村の様子を見て参ります」


「そうか。では後で合流しよう」


「はっ!」


 兵はローブを着た男にそう言って、兵を数名連れて道を進む。俺はその背中を見ながら、息を整える。

 森を駆け抜ける風がうっすらと汗をかいた俺の頬を掠めていくのを感じながら、俺はこっそり目線をローブを着た男に変える。


(何者だろう? 声の感じからして幼いが、フードが邪魔で実際の姿がわからない。それに何か、何か上手く言えないけど変な感じがする)


 そんな事を考えて見ていると、ローブをきた男はこっちに顔を向けてくる。相変わらず、目深に被っているローブのせいで表情が見えない。


「そんなに見られると照れるからやめてくれないか? 顔色もましになったし、そろそろ前にす」


バシィィイイ!!


 進もう。そう男がそう言いかけたとき、何がが弾ける様な音が森に響く。その音がした方向を見ると光がほとばしっていた。その光景を俺は身をもって知っている。


「あれは、精霊王のスパーク!!」


 俺がそう言うと兵士達はざわつき、場は混乱する。そんな中、先程俺を運んでいた男がこっちに戻ってきた。


「報告いたします。村へ続く道に結界を確認、残りの兵が結界を解こうとしておりますが不可能かと思われます」


「結界、ねぇ。それも精霊王のか……」


 ローブの男は考える様にブツブツ言葉を言うと、静かに考える。そこにいるもの全てがその者の次の言葉を待った。長くこの時間が続くかと思ったが意外とそんなことはなく、男は結論を出した。


「よし、わかった。今日は諦めよう」


「よ、良いのですか!?」


「うん。その代わりといっては何だが、少年には一緒に王国に来てほしい」


 そう言って男は俺を見てきた。俺は元から王国に行くつもりだったが、試すように男を見て質問する。


「俺が王国に行って良いことあるの?」


「そうだな。僕から言えるのは____」


 その時森に一際強い風が吹き、ローブで隠されていた顔が見える。ローブの下にはあどけなさを残しつつも美しく整った顔があった。そしてルビーの様に輝く目と髪が印象的で、その光景がひどく印象に残った。


挿絵(By みてみん)


 このローブを着ていた男、ヨーゼと出会ったことでジグロの運命の歯車は動き出す。静かに、けれど確実に未来は変わっていっていく。


 動いてしまった歯車は、もう止まらない___。

遅くなりました~。

挿し絵に関しての悪評は受付ません。

では、これからも英雄は受付に。にお付き合い下さい!

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