俺と願い
『……ク、ジーク、起きろ』
不思議な温もりや澄んだ声が聞こえ、俺はうっすらと目を開ける。そこには金髪を風で揺らしながら、こっちを見る美しい顔。
そしていつの間にか太陽が精霊の庭の方から覗いていることから、今が朝と言うことを理解した。
(この人は誰だろう? 村にはこんな人いなかったし、俺もみんなと一緒にあの世へ行っちゃったのかな)
ぼんやりとしながらも、抱き抱えられている今の状況をどうにかしようと立ち上がろうとする。しかし、全く体に力が入らない。頑張っても頑張っても、指一本さえ動かす事ができなかった。
(ああ、俺はやっぱり死んだのか。この人は噂に聞く天界の住民だろうか……)
そんな事を思っていると、その人は呆れたようにため息をついた。
『まだそなたは死んでないぞ。それと私は精霊王だ』
「精霊王様!? え、でも、だってっ」
先ほど会ったときは光が揺れているだけだったのに、今目の前にいる精霊王は人の姿をしている。どう見ても別の何かだ。
『そなたが倒れそうになったから、支えるために人の姿になっただけだ』
精霊王は心を読み、返答してくる。いや、今はそんな事はどうでも良い。
なぜ俺は動けないでいる?
なぜ精霊王がわざわざこんなところにいる?
「精霊王様、あの」
『すまんな。答えてやりたいが時間がない。直に王国から人が来る』
「王国……ですか?」
状況が全くわからない。今までこの村に王国の人間が来たなど聞いた事がない。王国の人間は一体何しにここを訪れるのだろうか。
「精霊王様ー! もうすぐそこマデ人間が来てるワー」
『そうか、ありがとう』
精霊王はサラマンダーから報告を受けると、真剣な顔をしてこっちを見てきた。俺はその視線を受け、これから言われることが人生を左右することだと気づく。俺は精霊王の目を真っ直ぐ見つめ返し、言葉を待った。
『ジーク、良く聞け。これから来る人間はここで何があったかお前に聞くだろう。そこできっとお前がわからないことが聞かれる。そのときは全部私がやったと言うんだ。わかったか?』
「っ、はい。わかりました」
いや、嘘だ。俺は全くわかってない。わかっている事は精霊王の目が決して冗談を言っていないということぐらいだ。
きっと精霊王は心の中を読んで俺が何故そう言われているかわかってない事をわかっている。けど、何も言って来ないのは俺を信用してくれているからだろうか。
精霊王とは昨日会ったばかりだが、俺は約束を守ることを胸に誓う。
『……もしかしたらジークに王国へ来るように言うかもしれないが、そのときは』
「そうなったら俺は王国に行きますね。皆がいないなら、ここにいる意味はないですから」
『そうか……』
精霊王は顔を少し歪めて返事をしてきた。やはり精霊王と言えども皆がいなくなるのは寂しかったのだろう。
そう思うと、精霊王を一人ここに残すことに罪悪感を覚えた。
* * * *
* * * *
(すまない。すまないジークよ……)
無理をして笑うジークを見て、私はちゃんと返事ができただろうか?
私は昨日ジークが倒れてから、生き返った村の者達と話した。そこで出た結論は、ジークに何も教えないことだった。
村の者たちが生き返ったこと。
自分に強大な力が眠っていること。
そして、禁忌に触れたこと。
そしてジークにはこの村を去ってもらうという結論もでた。ここにいたらいつかきっと知ってしまうからと。何も知らずに生きるためにはここから離れた方が良いと。
私自身ジークにはここを出ていく前に皆が生き返ったことを教えても良いとも思ったが、涙を流しながら「あの子の決心が鈍ったらどうするんです?」という母親を見て何も言えなくなった。
きっと皆辛いのだ。
ジークは知らぬ間に家族や知人を失い、家族はまだ七歳の子供と別れなければならない。
お互いがお互いを本当に思っているからこそ、辛く悲しいのだ。
(ジークよ、やったことを私の事にするしかできない私を許しておくれ。そしてここを去ってからも、元気でやっていってくれ)
神に並ぶ力を持つといわれる精霊王。
そんな王は一人の幸せを願っていた。
まるで人間の様に。
人ならざる者と言えど、幸せを願う姿は人と何らかわりがないのである。
えへへ、実は『英雄は受付に。』のファンアート頂きました~
ありがとうございます!
今後時間があれば挿絵を描いていこうと思ってます。
描写が少ないのの改善ですねー。
イメージと違ったらごめんなさい(*^▽^*)
あ、文もちゃんと直していきますよ。
それでは次話で会いましょう!




