俺と戻れないあの時
ちょっとグロめ?
精霊王と別れ、村に向かって俺は進む。精霊の庭から出るときまたスパークが来るのではないかと思ったが、実際そんなことはなく抜けられた。
村へ続く道は、見渡す限り木しか見えないつまらないもの。しかし何故かいつもより多くの精霊が俺の周りに飛んでいる。けど今の俺にとってそんな事はどうでも良かった。
(早く帰らなきゃ!)
今はその一心で夕日の中家へと急ぐ。
短い手足を懸命に動かしながら、俺は1歩ずつ家に近づいていった。
(見えた! ふふ、今日は母様に褒めてもらわなきゃ。父様にも喜んでもらわなきゃ)
早く家に帰りたいあまり、俺は村の中を通らず近道をして駆けていく。
「父様、母様、今帰りました!」
勢い良く戸を開けると、静かに広がる暗い部屋。その暗闇が、俺には何故かとても恐ろしく見えた。
(何だこの匂い?)
辺りの匂いに違和感を感じつつ、俺はサラマンダーの力を借りて蝋燭に火をつけると奥の部屋へ進む。
両親の寝室の扉が少し空いていることに気づき、俺はドアノブに手をかける。
「ここですか?」
扉を開けるとそこには、真っ赤に、真っ赤に染まった部屋が広がっていた。
俺は動揺しながら部屋に光をつけると、視界にはその部屋の隅で横たわる父様と母様の姿。
「父様、母様ッ!」
駆け寄ってみても両親は動かない。ただそこにいるだけ。
朝の楽しげな笑顔は消え、俺と似た父様の栗色の髪は血でべっとりと汚れ、俺と似た母様の目は光を写さずに見開かれている姿に変化していた。
「お医者様を、お医者様を呼ばなきゃ……!」
村に一軒しかない医者を求めて、力の入らないふらふらの足で家から出る。医者様の家は村の中心に位置しているため、村の外れにある俺の家からは少し遠かった。
その途中、村へ行くときに俺はまた異変に気づく。村へ近づくほど先程嗅いだあの匂いが強くなっていくのだ。俺の背中に変な汗が流れ、嫌な予感が頭をよぎる。
そして嫌な予感は的中した____。
村に入ると倒れている人、人、人。皆人形の様にただ静かに横たわっている。そしてやはり赤体はく染まり、夕焼けと同化しているようだった。
「何で……こんなこと……」
俺は困惑しながら辺りの家を一軒ずつ回るも、無事に起きているものは1人もいない。
__俺はもう限界だった。7才から大人と言われても、やはり精神はまだ未熟。そしてそこにこの状況。
「……精霊は強いんじゃないのか」
脳ではこの発言が八つ当たりだとわかっている。精霊に言ってもこの状況がどうにかなるわけでもないとわかっている。でも口は止まらなかった。
「何で、何で皆を守ってくれなかったんだよっ」
「ごめんネ、ジグロ」
精霊達は本当に申し訳なさそうに謝ってくる。精霊達は悪くないのに。自分の愛し子達を失って辛いはずなのに。
他人のせいにしか出来ない俺なのに、精霊達は気遣って隣にいてくれる。
「ごめんネ、でもみんながジグロを守るようにっテ」
「……皆が、俺を?」
言葉を聞き、俺の目からぽとりと涙が落ちる。俺の周りにいつもより精霊達が多い理由は、気まぐれなものだと思っていた。けどそれは皆の思いのおかげだったのだ。知らない内に助けられていたのだ。
「父様、母様、皆……。誰か、誰か助けて……! う、う、うわぁぁあああああ!!」
俺は叫び、気絶した。その時、体から大量の魔力を放出しながら___。
この日何があったか少年は知らない。
体から放った魔力が遠く離れた王国にまで見えていたことを。
王宮が無視できないほど強大な力だったことを。
指輪から精霊王に想いが伝わっていたことを。
そしてこの日少年は世界の禁忌に触れた。
いつもと違う雰囲気の話は書くのが難しいですね。
今度書き直すかもです。
少年が英雄になるまではもうちょっとかかりますが、待っててくれると嬉しいです。




