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俺と過ぎ去った日々

「ジグロー、起きなさいー!」


 戸をノックしてくる母様の声を聞きながら、ベッドの中でどうやり過ごそうか考える。

 大層な理由はなかったが、今日は少し肌寒いためベッドから出たくなかった。まだ起きてないふりでもしようかと思って静かに目を閉じてみようとしたとき、母様が俺にとって魔法の言葉を言ってきた。


「今日誕生日でしょー!」


 その言葉で俺の目は一気に覚める。慌ててベッドから飛び起きると、母様と父様が待つ部屋へと駆けていく。


「おはようございます!」


 中に入ると、ご飯を食べていた父様がこっちへ視線を向ける。


「おー、おはようジグロ。そして7才の誕生日おめでとう!」


「あら、その様子だとやっぱり起きてきたのね。ご飯できてるから食べちゃいなさい」


 母様に言われた通り、椅子に座り急いでご飯を口に運ぶ。何故なら俺に、ジーク=ロイゼにとって今日はとても大事な日だからだ。

 この村のならわしには、7才の誕生日に村の奥に存在している『精霊の庭』へ行くというものがある。そしてそれを無事に終えた者だけが大人として認められる。

 俺は早く精霊の庭に行って、早く帰って、早く皆に認めて欲しかった。この村で唯一の子供だったから。


 途中喉にご飯をつまらせながらも、なんとか食べきって俺は椅子を立つ。


「ご馳走さま!」


「ジグロ、服はこっちに用意してるわ」


「ありがとう、母様」


 母様が持つ服を見ると、真っ白く立派な服だった。裁縫が苦手な母様にして珍しく、綺麗に揃った縫い目に俺は驚く。

 

「母様、これ本当に母様が作ってくれたの?」


「失礼ね。私も頑張ればこれぐらい出来るわよ」


 そう言って母様は自慢気に無い胸を張る。その様子を見て、父様が意地悪そうな顔をして母様を見る。


「それにしては何日も徹夜してたけどなぁ」


「ちょっとダン!? 言わない約束でしょ!」


「ジグロに出来るって嘘をつくのがいけないんだ」


 両親の話を聞いて、俺の胸はじんわりと熱くなる。

 受けとった時には気づかなかったが、確かに母様の顔にはくまができ、指はうっすら赤くなっているところがちらほらと存在していた。


(俺だけじゃなくて、母様と父様も楽しみにしてたなんて!)


「母様、父様、俺絶対早く帰って来るから待ってて!」


「楽しみに待ってるからな」

「美味しいご飯を作って待ってるわ」


「うん!」


 父様と母様の笑顔を見てから下に目を向けると、母様から受け取った真っ白な服がさっきより輝いているように感じた。







*     *     *     *


   *    *     *     *






「それでは行ってきます。大人になって戻って来ます」


 真っ白な服に身を包み、準備を終えて家を出ていく。後ろは振り返らない。だって俺には大人になると言う光が見えてたから。

 

 村の中を歩いていくと、様々な人に話しかけられる。


「ジーク、お前もいよいよ大人の仲間入りだな」「誕生日おめでとう!」

「服似合ってるわよ」「早く帰ってこいよー」


 30人程しかいない村の人達とは全員顔見知りのため、俺は笑顔を返していく。

 そのまま村を歩いていくと家が少しずつ減っていき、いるのは俺と精霊達だけになった。それと同時に、遠くに精霊の庭が見えてくる。

 俺はそこに近づいて行くと一度足を止め、肺の中の息を吐ききる。

 

(ついに来た……!)


 目の前に広がる風景は、ぱっと見は何の変哲もないもの。

 けれど見ていると何故か心が暖かくなって、泣きたくなるぐらい懐かしい思いが溢れ出す。

 ここは幼少期から来てみる度に、そんな気持ちになる不思議な場所だった。思い出なんて無いはずなのに。

 こうなるのは俺だけじゃない、この場所へ来た村の人は皆不思議な気持ちになると言っていた。

 だからこそ俺の村の人達はこの『精霊の庭』を神聖な物だと思い、大切にしているのだろう。



 俺は子供として見る最後の精霊の庭を目に焼き付けてから、数時間後無事に大人になって戻って来る事を決意し足を前に進めた。

ジグロの過去話スタートです。

やっとジグロの本名出てきましたね。さらっと書いていましたがジーク=ロイゼですよ!

これからまた不定期更新に戻ってしまいますが、待っててくれると嬉しいです。

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